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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第43話 吸血鬼の王

広間の突き当たりには、黒鉄で造られた巨大な門がそびえていた。


表面には見たこともない古代文字が刻まれ、その隙間から漏れ出る空気は冷たく重い。


まるで門の向こう側だけ、別の世界に繋がっているようだった。




アイリは剣の柄を握る。


その手に、はまだ震えが残っている。


毒霧の影響は、完全には抜けていない。


脇腹には、人形少女の一撃が残した鈍い痛みがあった。




それでも前へ進む。


ここで止まるわけにはいかなかった。




「……ここから先が、本番だな」




マイアも槍を握り直した。


焼け焦げた少女のリボンを、胸元にしまう。




「ええ」




その瞳に迷いはない。




「あの子みたいな犠牲者を、これ以上増やさない」




二人は門に手をかけた。


重い音が響くと思った。




だが――。


門は音もなく開いた。


まるで最初から招き入れるつもりだったかのように。


冷たい風が吹き抜ける。




そして。


二人は言葉を失った。




その先に広がっていたのは、中庭だった。


夜空が広がっている。


そこに浮かぶ月は、異様だった。


血のように赤い。


不気味な赤光が、庭全体を染め上げている。




石壁には無数の棺が埋め込まれていた。


数十。


いや、百はある。




そして。


その棺の隙間から、無数の囁き声が漏れていた。




「たすけて……」


「帰りたい……」


「寒い……」




幼い少女たちの声だった。


マイアの顔色が変わる。




「この声……」




アイリも歯を食いしばった。




生きている。


まだ助けられるかもしれない。




その瞬間。


囁き声が一斉に止まった。


まるで誰かに口を塞がれたように。




空気が変わる。


赤い月の光さえ、弱くなったように感じた。




棺の並ぶ壁が、微かに震える。


一つ。


また一つ。


そして全ての棺が静まり返った。




支配者が現れる。


本能がそう告げていた。




中庭の中央。


黒い祭壇。


その上に置かれた巨大な棺。




ギギギ……。


棺の蓋がゆっくりと開く。


その音だけが、世界に響いていた。




やがて。


一人の男が姿を現す。




長身。


蒼白な肌。


血のように赤い瞳。


漆黒のマント。




その姿自体は、人間と変わらない。


だが。


存在感だけが異常だった。




呼吸が苦しい。


立っているだけなのに、圧迫感がある。


まるで巨大な魔獣を、前にしているようだった。




マイアの額を汗が伝う。


アイリも無意識に、剣を握り直していた。




男は二人を見下ろした。




「……ここまで辿り着いたか」




低い声。


城全体から聞こえてくるような響きがあった。




「狼女」


「蝙蝠女」


「人形」




男は淡々と続ける。




「よく私の子らを退けた」




その言葉に、アイリの目が険しくなる。




「少女たちを返せ」




男は首を傾げた。




「返す?」




心底不思議そうだった。




「なぜだ?」




アイリの怒りが、膨れ上がる。




「さらった子供たちだぞ!」




男はしばらく沈黙した。




そして。


小さく笑った。




「なるほど、だから人間は面白い」




赤い瞳が細まる。




「お前たちは死を恐れる」


「老いを恐れる」


「病を恐れる」


「だから、救ってやっているのだ」




マイアが眉をひそめる。




「救い?」




男は頷く。




「そうだ」




そして祭壇の奥を指差した。




二人が視線を向ける。




そこには石造りの大きな水槽があった。


赤い液体で満たされている。




そして。


その中に。


何人もの少女が、浮かんでいた。


眠るように目を閉じている。




アイリの顔色が変わる。




「貴様……!」




男は穏やかに語る。




「永遠の命」


「永遠の若さ」


「永遠の美」


「私はそれを与えている」




その声には嘘がなかった。


本気でそう信じている。


それが逆に恐ろしい。




マイアは吐き気を覚えた。




「そんなもの、救いじゃない……!」




男は静かに首を振る。




「人間には理解できぬか」




その時だった。


アイリが地面を蹴る。




「理解する必要はない!」




炎を纏った剣が唸る。


一直線に男へ迫る。




だが。


男の姿が消えた。




「――なっ」




見失った。


完全に。




次の瞬間。


首筋に冷たい感触。




男が背後に立っていた。


爪が皮膚に触れている。


あと数ミリ。


それだけで首が裂かれる。




アイリの背筋を冷たい汗が流れた。


見えなかった。


全く。




男はささやく。




「遅い」




ドンッ!!




軽く押された。


それだけだった。




だがアイリの身体は、十数メートル吹き飛ぶ。


石柱に激突。




轟音。




石柱が砕け散った。




「アイリ!」




マイアが叫ぶ。




即座に槍を構える。


光が集まる。




「響華獅光流――閃光破!」




眩い光線が中庭を貫いた。




だが。


男は避けない。




片手を上げる。


それだけだった。




光が止まる。


空中で。


まるで見えない壁に、ぶつかったように。




そして。


砕け散った。




マイアの目が見開かれる。




男は初めて興味を示したように、彼女を見た。




「光の力か」




赤い瞳が細まる。




「なるほど、だから人形が苦戦したのだな」




男はゆっくりと歩き出す。


余裕そのものだった。




「少しだけ期待しよう」




赤い月が輝きを増す。


中庭全体に闇が広がる。




「私を退屈させないでくれ」




その言葉と共に。


圧倒的な殺気が解き放たれた。




アイリとマイアは初めて悟る。


狼女も。


蝙蝠女も。


人形少女も。


本当の恐怖ではなかった。




目の前の存在こそが。


この城を支配する絶対者だった。





つづく---




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