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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第41話 怪物にされた少女

広間に充満した灰色の毒霧が、じわじわとアイリの肺を蝕んでいた。


呼吸をするたびに胸が焼ける。


喉の奥が熱い。


視界が揺れる。


足元がわずかに傾いて見えた。




「くっ……!」




剣を握る手に力を込める。


だが指先に痺れが走る。


毒が回り始めていた。




広間の中央。


白い少女が立っている。




白髪ボブ。


青い瞳。


雪のような肌。


そして全身を走る無数の縫合跡。




少女は瞬きをしない。


呼吸もしない。


ただそこに立っていた。


死人のように。




「対象の呼吸機能、低下を確認」




感情のない声。




「排除効率、上昇」




その瞬間。


少女の姿が消えた。




「なっ――」




速い。


見えなかった。


次の瞬間には目の前にいる。


拳が迫る。




轟ッ!!




アイリは咄嗟に剣を振った。




「火炎斬!」




炎が爆ぜる。


拳と剣が激突する。


衝撃で広間の空気が震えた。




少女は止まらない。


炎を浴びながら拳を振り抜く。




ドゴォッ!!




腹部に直撃。


アイリの身体が吹き飛ぶ。


石床を転がった。




肺から空気が押し出される。


その拍子に毒霧を吸い込んだ。




「がはっ!」




激しい咳。


血が混じる。


視界が二重に揺れた。




少女が近づいてくる。


一定の速度。


一定の歩幅。


まるで壊れた機械だった。




「侵入者、戦闘継続」




青い瞳が光る。




「右拳損傷率、十三パーセント」




殴った拳は焦げていた。


だが気にする様子はない。




「任務を優先」




ギチリ。




関節が嫌な音を立てた。




マイアが見る。




(この子……痛みを感じていない……!)




その時だった。


少女の首が不自然に傾く。


そして。




「お……ねえ……ちゃ……」




かすれた声。


ほんの一瞬だけ。


機械音ではない。


幼い少女の声だった。




アイリとマイアの動きが止まる。




「え……?」




だが次の瞬間。


瞳から光が走る。




「異常信号排除」




少女の表情が消えた。




「戦闘続行」




床を蹴る。


再び超高速。




アイリは迎え撃った。


だが毒が身体を蝕んでいる。


剣筋が鈍い。


遅い。


見えているのに、身体が追いつかない。




少女の拳が肩を打つ。


骨が軋む。


さらに蹴り。


脇腹へ直撃。




「ぐっ……!」




膝をつく。


少女が追撃しようとした。




その瞬間。


白い光が走る。




キィン!!




マイアの槍だった。




少女が初めて後退する。




マイアはアイリの前へ出た。




「アイリ!」




左手を伸ばす。


淡い光が広がる。




「浄化術!」




毒霧が少しだけ押し戻された。


アイリの呼吸が、わずかに楽になる。




「全部は無理……でも少しは抑えられる!」




「助かる……」




アイリは立ち上がった。




少女は首を傾げる。




「妨害行動を確認」


「対象追加」


「排除優先度変更」




マイアを見た。


青い瞳に感情はない。


その奥に何かが見えた。


助けを求めるような。


泣いているような。


そんな微かな残滓。




マイアの胸が痛む。




(この子も……被害者なの……?)




少女の身体を走る縫合跡。


継ぎ接ぎの肉体。


まるで実験の成れの果て。




怒りが込み上げた。


誰がこんなことを。


誰が子供にこんな仕打ちを。




少女が突進する。




「排除優先度変更」




青い瞳がマイアを捉える。




次の瞬間。


少女の姿が消えた。




「っ!?」




マイアが槍を構える。


拳が迫る。


間に合わない。




その瞬間――




「マイアァ!」




アイリが割り込み、炎の剣で拳を受け止めた。


炎が剣を包む。




「終わらせる!」




「排除」




轟音。




炎と衝撃が交差する。




「鳳凰剣舞!!」




炎の残像が広間を埋め尽くした。


幾重もの斬撃。


少女の身体が切り裂かれる。




腕。


肩。


胴。


だが。


それでも止まらない。




腕が落ちる。


それでも歩く。


足が裂ける。


それでも前へ出る。




「任務継続」




「任務継続」




「任務継続」




壊れたレコードのように繰り返す。




アイリの背筋が寒くなった。




怪物だ。


その時。


少女が再び呟いた。




「た……すけ……て……」




アイリの目が見開かれる。




マイアも息を呑む。




ほんの一瞬。


少女の瞳に涙が浮かんだ。




次の瞬間。


赤黒い光が縫合跡を走る。


全身が発光した。




「危ない!」




マイアが叫ぶ。




少女が苦しそうに震えている。


まるで何かに支配されているように。




「最終命令発動」




「侵入者消去」




胸部が開く。


内部で赤黒い魔力が、渦を巻いていた。




自爆。




アイリは理解した。




少女自身の意思ではない。


誰かが仕込んだ命令だ。




少女の瞳から涙が零れる。




「ご……めん……なさい……」




その声は、確かに少女だった。




アイリは剣を握る。


怒りで震える。




「ふざけるな」




炎が爆発する。




「子供を、道具にしやがって!」




全力を注ぎ込む。


剣が紅蓮に染まる。




「火炎斬・烈!!」




炎の奔流が少女を包んだ。


爆発寸前の光熱ごと飲み込む。




轟音。




広間が揺れる。


光がすべてを覆った。




やがて。


静寂。


爆煙がゆっくり晴れていく。




そこに少女の姿はなかった。


残っていたのは。


焼け焦げた小さなリボンだけだった。




マイアが震える手で拾い上げる。


子供用のリボン。


誘拐された少女たちが、身につけていても、おかしくないものだった。




アイリは唇を噛む。


胸の奥に怒りが燃えていた。




狼女。




蝙蝠女。




そしてこの少女。




すべてが一つの存在に繋がっている。




「……許さない」




低く呟く。


城のさらに奥を見据えた。




「絶対に助け出す」




その時だった。


城の奥深くから。


かすかな少女たちの泣き声が聞こえた。




まだ生きている。


二人は顔を見合わせる。


そして迷うことなく、闇の奥へと駆け出した。





つづく---




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