第40話 蝙蝠女の次は、継ぎ接ぎの少女
蝙蝠女の口から放たれた赤い閃光が、一直線にマイアへと襲いかかった。
轟ッ――!
光線は床をえぐり、石柱を溶かしながら突き進む。
マイアは咄嗟に身を翻した。
熱風が頬を掠める。
遅れていたら、頭部ごと消し飛んでいた。
(速い……!)
だが立ち止まれない。
この先には、さらわれた少女たちがいる。
一秒でも早く助けなければならない。
マイアは床を蹴った。
槍を大きく振り上げる。
白い光が、穂先へ集束する。
「――獅閃光!」
光刃が弧を描いて飛ぶ。
蝙蝠女は、翼を広げて回避しようとした。
しかし避け切れない。
斬撃が脇腹を裂いた。
鮮血が宙に散る。
「ぐっ……!」
蝙蝠女が苦悶の声を漏らす。
だが。
傷口がうごめいた。
黒い血が逆流し、裂けた肉がゆっくりと閉じ始める。
マイアの表情が強張った。
「再生……!?」
蝙蝠女が笑う。
「驚いた?」
血で濡れた唇が吊り上がる。
「私たちは、主の祝福を受けているの」
赤い瞳が妖しく輝く。
「その程度では、死なないわ」
次の瞬間。
蝙蝠女の胸元に、闇が集まり始めた。
空気が軋む。
黒い球体が膨張する。
見ているだけで、本能が警鐘を鳴らした。
危険だ。
「――漆黒散華」
黒球が放たれる。
マイアは全力で飛んだ。
直後。
轟轟轟轟轟ッ!!
背後で爆発が連鎖した。
石壁が吹き飛ぶ。
柱が崩れる。
瓦礫の嵐が、廊下を埋め尽くした。
衝撃波だけで身体が浮く。
壁へ叩きつけられる。
「きゃあっ!」
背中に激痛が走った。
肺から空気が押し出される。
視界が揺れる。
それでも立ち上がる。
ここで倒れるわけにはいかない。
蝙蝠女が、目を見開いていた。
「生きている……?」
信じられないという顔だった。
マイアは血の滲む口元を拭う。
「少女たちを助けるまで……私は倒れない」
その言葉に、蝙蝠女の顔から笑みが消えた。
「助ける?」
低い声。
「もう、遅いかもしれないのに?」
マイアの胸が締め付けられる。
だが、首を振った。
「だからこそ、急ぐのよ」
槍を構える。
白光が溢れる。
「道を開けてもらうわ!」
一気に踏み込む。
槍が半月の軌跡を描いた。
「響華獅光流――半月閃!」
光の斬撃が蝙蝠女を直撃する。
肩から胸にかけて深い傷が走った。
だが蝙蝠女は落ちない。
翼を広げて空中へ退避する。
再び傷口が塞がり始める。
「無駄よ!」
狂ったように笑う。
「私たちは、死なない!」
「ならば――」
マイアは槍を握り直した。
「再生ごと断ち切る!」
全身の闘気を槍へ流し込む。
眩い光が広間を照らした。
蝙蝠女の顔から、初めて余裕が消える。
「何だ……!」
マイアは一歩踏み込んだ。
「響華獅光流――」
槍が円を描く。
巨大な満月のような光輪が生まれる。
「満月閃!!」
閃光が爆発した。
白い奔流が蝙蝠女を飲み込む。
絶叫。
翼が引き裂かれる。
再生する間もない。
身体ごと光に呑まれていく。
「主よ……!」
蝙蝠女が叫んだ。
涙のように血を流しながら。
「お許しください……!」
そして最後に笑った。
「ですが……祝福は止まりません……」
光が消える。
そこには、崩れ落ちる蝙蝠女の亡骸だけが残っていた。
静寂。
荒い呼吸だけが響く。
アイリが近づく。
「大丈夫か?」
「なんとか……」
マイアは苦笑した。
腕は震えていた。
背中は痛む。
体力も大きく消耗している。
決して楽な勝利ではなかった。
その時。
コツン。
何かを踏んだ。
足元を見る。
小さなリボンだった。
子供用のものだ。
血が付いている。
二人の顔色が変わる。
「急ごう」
アイリが低く言った。
「まだ生きていると、信じるしかない」
マイアは強く頷いた。
二人は再び城の奥へ進む。
しかし。
進むほど空気が重くなっていった。
冷たい。
嫌な気配がまとわりつく。
やがて広間へ辿り着く。
そこで二人は、足を止めた。
異様な少女がいた。
白いボブヘア。
雪のような肌。
青い瞳。
その身体には、無数の縫合跡が走っている。
首。
腕。
脚。
胸元。
まるで切断された肉体を、無理やり繋ぎ合わせたようだった。
少女は瞬きをしない。
呼吸もしていない。
首が不自然な角度で傾いている。
それでも。
立っている。
「侵入者――発見」
機械のような声。
感情がまったくない。
マイアの背筋に悪寒が走る。
(この子……生きているの?)
少女の口が、ゆっくり開く。
灰色の霧が溢れ出した。
シューッ……
ガスは瞬く間に広がる。
鼻を刺す刺激臭。
草木すら枯れそうな毒気。
マイアの顔色が変わった。
「アイリ!」
叫ぶ。
「有毒ガスよ!」
二人は息を止める。
その時、少女は消えていた。
「なっ――」
次の瞬間。
目の前。
アイリの眼前にいた。
速い。
見えなかった。
拳が放たれる。
轟ッ!!
空気が爆ぜた。
アイリは反射的に回避する。
頬が切れる。
血が飛んだ。
そして着地の瞬間、思わず息を吸ってしまう。
「っ……!」
肺に毒が流れ込む。
激痛。
視界が歪む。
膝が揺れる。
心臓が異常な鼓動を打つ。
指先が痺れる。
吐き気が込み上げた。
「アイリ!」
マイアが叫ぶ。
少女は感情のない瞳で見つめる。
青い瞳に、生気はない。
ただ殺意だけが、存在していた。
「対象の弱体化を確認」
少女は一歩前へ出る。
関節がギチリと、嫌な音を立てた。
「排除――開始」
その声に、アイリは初めて感じた。
狼女や蝙蝠女とは違う。
目の前の存在は。
もっと根本的に、異質で危険な何かだと。
つづく----
登場キャラクターのイラストをpixivで公開中です!
闇に堕ちたリリム、賢者アリシア、悪魔に魂を売った女ヴァレリア――
物語に登場するキャラクターたちを、高品質イラストとして制作しています。
「このキャラの姿を見てみたい」
「戦闘シーンをもっと想像したい」
そんな方はぜひご覧ください。
▼pixivはこちら
https://www.pixiv.net/artworks/144606685




