第13話 死者を率いる少女
暁の剣南支部――正面ホール。
重厚な大扉が、低い地鳴りのような音を立てながら開いた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが魔法光を降り注ぎ、赤い絨毯と冷たい大理石の床を照らしている。
正面には威圧的な大階段。
左右には控室へ続く扉が並び、わずかな隙間から鎧の擦れる音が漏れていた。
ホールに、一歩。
また一歩。
リリムが足を踏み入れる。
その背後には、死人となった五人――ガイ、ミロ、レオ、ロイ、マルク。
生者のように整然と歩くその姿は、しかし決定的に異質だった。
瞳に感情はなく、呼吸音もない。
ただ主の命令を待つ兵器のように、静かに佇んでいる。
(待っていて、ヴァレリアさん)
リリムは赤い絨毯の先を見据える。
(もうすぐ助けるわ)
次の瞬間――。
「侵入者だ! 迎え撃て!」
鋭い号令がホールを震わせた。
左右の控室から、一斉に警備兵たちが飛び出してくる。
鎧に身を包んだ精鋭たち。
剣と盾を構え、陣形を組みながらホールを塞ぐ。
その先頭に立つ兵士の顔が凍りついた。
「……ロイ隊長?」
続いて別の兵士が目を見開く。
「マルク副隊長!? 嘘だろ……」
「ミロ先輩まで……!」
動揺が広がる。
死人たちは答えない。
ロイは無言で盾を構え、マルクは静かに剣を持ち上げた。
かつて仲間を守っていたその姿勢のまま――今度は仲間へ刃を向ける。
若い兵士の一人が、震える声を漏らした。
「冗談ですよね……? 隊長……」
その瞬間。
ロイの大盾が唸りを上げた。
轟音とともに兵士の身体が吹き飛び、壁へ叩きつけられる。
ホールに沈黙が落ちた。
そして――恐怖が広がる。
「ひっ……!」
「死人だ……!」
リリムは静かに口元を歪めた。
「闇よ、死者の力を引き出しなさい」
足元の影が、波紋のように広がる。
闇が死人たちへ吸い込まれ、五人の身体を黒いオーラが覆った。
瞳に冷たい赤黒い光が宿る。
「強化したわ。道を開いて」
その一言で、戦いが始まった。
最初に動いたのはガイだった。
床を蹴る音すら置き去りにする速度。
剣閃が前衛兵の盾を切り裂き、直後、レオの大剣が横薙ぎに振り抜かれる。
兵士たちの陣形が一気に崩れた。
「怯むな! 隊列を維持しろ!」
重装備の隊長格の兵士が前へ出る。
光属性の魔法を帯びた剣を掲げ、死人たちへ斬り込んだ。
「所詮は死体だ!」
その剣がロイへ迫る。
だが――。
ガァンッ!
絶壁の盾が攻撃を完全に受け止めた。
「ロイ隊長、目を覚ましてください!」
返事はない。
代わりに、背後からマルクの剣が閃いた。
隊長格の兵士の剣が弾かれ、体勢が崩れる。
その隙を、ロイの盾が容赦なく打ち据えた。
兵士は床を転がり、血を吐く。
「なっ……!」
「連携が、生きてる……!」
警備兵たちの顔から血の気が引いた。
後方ではミロが弓を引き絞る。
闇を纏った矢が空気を裂いた。
盾を構えた兵士の肩を貫通し、その背後の兵士まで貫く。
「ぐああっ!」
「盾が……通じない!」
士気が揺らぎ始める。
リリムはその光景を冷ややかに見つめていた。
(弱い……)
(こんな程度で、ヴァレリアさんを閉じ込めていたの?)
指先を軽く動かす。
すると床の影が伸び、逃げようとした兵士の足へ絡みついた。
「なっ、足が――!」
次の瞬間、レオの一撃が振り下ろされる。
恐怖の悲鳴がホールへ響いた。
「下がれ! 下がれぇ!」
「ロイ隊長……お願いです、正気に――」
懇願。
だが、ロイの瞳に生気はない。
盾が振り抜かれ、兵士は吹き飛ばされた。
かつて尊敬していた隊長が、今や最悪の敵となっている。
その現実が、兵士たちの心を折っていく。
やがて抵抗は崩壊した。
死人たちは疲労も恐怖も知らない。
斬られても止まらず、倒れても立ち上がる。
十五人の警備兵は、一人、また一人と沈んでいった。
最後の剣が床へ転がる。
ホールに静寂が訪れた。
リリムはゆっくりと前へ出る。
「――闇に堕ちし魂よ。その力を我が糧とせよ」
倒れた兵士たちの身体から、青白い光が浮かび上がった。
魂。
揺らめきながら抗うように震える。
リリムが手を掲げると、すべてが吸い寄せられていく。
光が彼女の掌へ溶け込み――空気が重く沈んだ。
ホールの温度が、目に見えて下がる。
燭台の炎が揺れ、兵士たちの亡骸の影が歪んだ。
リリムの赤い瞳が、ゆっくりと細められる。
「少しは、力が増したかしら」
死人たちが、自然と彼女へ膝をつく。
支配者へ忠誠を誓うように。
リリムはロイとマルクを見た。
「貴方たちなら、ヴァレリアさんの場所が分かるわね?」
二人は無言で立ち上がる。
「案内して」
ロイとマルクが並んで歩き始めた。
足音はない。
ただ闇だけが、赤い絨毯の上を這う。
その後ろを、ガイ、ミロ、レオが続く。
そして最後尾を、リリムが静かに歩く。
南支部のホールは、すでに彼女の支配下へと変わっていた。
「浄化の檻」と呼ばれる部屋は、暁の剣南支部の地下深くに存在していた。
重厚な鉄扉が開かれた瞬間、凍えるような冷気が流れ出る。
石造りの空間は静まり返り、壁や天井に刻まれた古代文字だけが淡い金色の光を放っていた。
それは封印術式――悪魔や闇の力を持つ者を拘束し、浄化するための結界だった。
天井には透明な結晶がいくつも吊り下げられ、その中央では巨大な《光の石》が脈打つように輝いている。
聖なる光のはずなのに、この部屋で放たれる光は冷たい。
まるで、罪人を裁くためだけに存在するかのように。
床には幾重もの魔法陣が刻まれ、中心には銀色の拘束台座が据えられていた。
そこに、ヴァレリアは縛り付けられていた。
黄金の鎖が手足へ深く絡みつき、淡い熱を帯びながら絶えず彼女の闇の力を削っている。
呼吸のたびに胸が小さく上下し、その額には汗が滲んでいた。
しかし――瞳だけは死んでいない。
台座の前に立つ男、南支部長ライザックは、冷たい眼差しで彼女を見下ろしていた。
「ヴァレリア」
低く重い声が静寂を裂く。
「お前はなぜ悪魔と契約した?」
ヴァレリアはゆっくりと目を開く。
「……それを知って、暁の剣に何の意味があるの?」
かすれた声。それでも、弱さはない。
ライザックはわずかに口角を上げた。
「個人的な興味だ」
「悪趣味ね」
「お前ほどの力を持つ女が、なぜ堕ちたのか。興味が湧くのは当然だろう」
ヴァレリアは鼻で笑う。
「あなたたち“太陽神の使徒”は、いつもそう。理由を知りたがるくせに、理解しようとはしない」
ライザックの眉がわずかに動く。
「理解する必要はない。悪は裁けばいい」
「その言葉、随分と便利ね」
ライザックは黙って台座の側面に手を置いた。
すると床の魔法陣が強く輝き始める。
――ゴォォォ……
低い振動音と共に、《光の石》が激しく明滅した。
次の瞬間、黄金の光が鎖を通じてヴァレリアの体へ流れ込む。
「っ……!」
ヴァレリアの身体が強張る。
光はまるで無数の刃のように、彼女の内側を焼いていく。
悪魔の力と聖なる力が激しく衝突し、呼吸すら困難になる。
「これは《浄化》だ」
ライザックは冷ややかに言った。
「お前の中の闇を削り、悪魔との契約を剥がす」
ヴァレリアは苦しげに息を吐きながらも、笑った。
「ふっ……あなたたち、いつもこうなのね」
「何?」
「力を理解できないから、壊そうとする」
ライザックの目が細くなる。
「まだ強がるか」
彼は台座の出力をさらに上げた。
鎖が輝きを増し、ヴァレリアの腕に痛みが走る。
「答えろ。どの悪魔と契約した?」
「……死んでも言わない」
「なら、魂ごと浄化する」
強烈な光が彼女を包み込む。
だが、ヴァレリアは悲鳴を飲み込みながらも、ライザックを睨み返した。
「あなた……知らないのね」
「何をだ?」
ヴァレリアの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「もう遅いってこと」
ライザックの表情が険しくなる。
その瞬間――
ドォン!!
遠くから鈍い衝撃音が響いた。
天井がわずかに震える。
ライザックが眉をひそめた直後、鋼鉄の扉が激しく叩かれた。
「支部長、大変です!」
苛立ちを隠さず、ライザックは扉を開く。
外には鎧姿の兵士が立っていた。額には汗が滲み、息が乱れている。
「侵入者です! 南支部の戦士が次々と倒されています!」
「侵入者?」
ライザックの目が細くなる。
「何人だ?」
兵士は唾を飲み込んだ。
「一人です……若い女です」
「女一人だと?」
「そ、それだけではありません……」
兵士の声が震える。
「ロイ殿とマルク殿が……敵として現れました」
ライザックの表情が凍りついた。
「……何?」
「ガイ、ミロ、レオもです。全員……死人のように」
短い沈黙。
そしてライザックはゆっくり剣陽炎の刃を握る。
「死霊術師か……」
背後で、ヴァレリアがかすかに笑った。
「その『若い女』……あなたにとって最後の相手になるかもしれないわね」
ライザックは振り返らない。
「全員配置につけ。ここまで通すな」
兵士は即座に駆け去った。
再び静寂が落ちる。
しかし今度の沈黙は違った。
遠くから、剣戟の音。
崩壊音。
そして、近づいてくる足音。
確実に――地下へ向かってきていた。
(次回、南支部最強、立ちはだかる-前編)
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暁の剣南支部――正面ホール。
重厚な大扉が、低い地鳴りのような音を立てながら開いた。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが魔法光を降り注ぎ、赤い絨毯と冷たい大理石の床を照らしている。
正面には威圧的な大階段。
左右には控室へ続く扉が並び、わずかな隙間から鎧の擦れる音が漏れていた。
ホールに、一歩。
また一歩。
リリムが足を踏み入れる。
その背後には、死人となった五人――ガイ、ミロ、レオ、ロイ、マルク。
生者のように整然と歩くその姿は、しかし決定的に異質だった。
瞳に感情はなく、呼吸音もない。
ただ主の命令を待つ兵器のように、静かに佇んでいる。
(待っていて、ヴァレリアさん)
リリムは赤い絨毯の先を見据える。
(もうすぐ助けるわ)
次の瞬間――。
「侵入者だ! 迎え撃て!」
鋭い号令がホールを震わせた。
左右の控室から、一斉に警備兵たちが飛び出してくる。
鎧に身を包んだ精鋭たち。
剣と盾を構え、陣形を組みながらホールを塞ぐ。
その先頭に立つ兵士の顔が凍りついた。
「……ロイ隊長?」
続いて別の兵士が目を見開く。
「マルク副隊長!? 嘘だろ……」
「ミロ先輩まで……!」
動揺が広がる。
死人たちは答えない。
ロイは無言で盾を構え、マルクは静かに剣を持ち上げた。
かつて仲間を守っていたその姿勢のまま――今度は仲間へ刃を向ける。
若い兵士の一人が、震える声を漏らした。
「冗談ですよね……? 隊長……」
その瞬間。
ロイの大盾が唸りを上げた。
轟音とともに兵士の身体が吹き飛び、壁へ叩きつけられる。
ホールに沈黙が落ちた。
そして――恐怖が広がる。
「ひっ……!」
「死人だ……!」
リリムは静かに口元を歪めた。
「闇よ、死者の力を引き出しなさい」
足元の影が、波紋のように広がる。
闇が死人たちへ吸い込まれ、五人の身体を黒いオーラが覆った。
瞳に冷たい赤黒い光が宿る。
「強化したわ。道を開いて」
その一言で、戦いが始まった。
最初に動いたのはガイだった。
床を蹴る音すら置き去りにする速度。
剣閃が前衛兵の盾を切り裂き、直後、レオの大剣が横薙ぎに振り抜かれる。
兵士たちの陣形が一気に崩れた。
「怯むな! 隊列を維持しろ!」
重装備の隊長格の兵士が前へ出る。
光属性の魔法を帯びた剣を掲げ、死人たちへ斬り込んだ。
「所詮は死体だ!」
その剣がロイへ迫る。
だが――。
ガァンッ!
絶壁の盾が攻撃を完全に受け止めた。
「ロイ隊長、目を覚ましてください!」
返事はない。
代わりに、背後からマルクの剣が閃いた。
隊長格の兵士の剣が弾かれ、体勢が崩れる。
その隙を、ロイの盾が容赦なく打ち据えた。
兵士は床を転がり、血を吐く。
「なっ……!」
「連携が、生きてる……!」
警備兵たちの顔から血の気が引いた。
後方ではミロが弓を引き絞る。
闇を纏った矢が空気を裂いた。
盾を構えた兵士の肩を貫通し、その背後の兵士まで貫く。
「ぐああっ!」
「盾が……通じない!」
士気が揺らぎ始める。
リリムはその光景を冷ややかに見つめていた。
(弱い……)
(こんな程度で、ヴァレリアさんを閉じ込めていたの?)
指先を軽く動かす。
すると床の影が伸び、逃げようとした兵士の足へ絡みついた。
「なっ、足が――!」
次の瞬間、レオの一撃が振り下ろされる。
恐怖の悲鳴がホールへ響いた。
「下がれ! 下がれぇ!」
「ロイ隊長……お願いです、正気に――」
懇願。
だが、ロイの瞳に生気はない。
盾が振り抜かれ、兵士は吹き飛ばされた。
かつて尊敬していた隊長が、今や最悪の敵となっている。
その現実が、兵士たちの心を折っていく。
やがて抵抗は崩壊した。
死人たちは疲労も恐怖も知らない。
斬られても止まらず、倒れても立ち上がる。
十五人の警備兵は、一人、また一人と沈んでいった。
最後の剣が床へ転がる。
ホールに静寂が訪れた。
リリムはゆっくりと前へ出る。
「――闇に堕ちし魂よ。その力を我が糧とせよ」
倒れた兵士たちの身体から、青白い光が浮かび上がった。
魂。
揺らめきながら抗うように震える。
リリムが手を掲げると、すべてが吸い寄せられていく。
光が彼女の掌へ溶け込み――空気が重く沈んだ。
ホールの温度が、目に見えて下がる。
燭台の炎が揺れ、兵士たちの亡骸の影が歪んだ。
リリムの赤い瞳が、ゆっくりと細められる。
「少しは、力が増したかしら」
死人たちが、自然と彼女へ膝をつく。
支配者へ忠誠を誓うように。
リリムはロイとマルクを見た。
「貴方たちなら、ヴァレリアさんの場所が分かるわね?」
二人は無言で立ち上がる。
「案内して」
ロイとマルクが並んで歩き始めた。
足音はない。
ただ闇だけが、赤い絨毯の上を這う。
その後ろを、ガイ、ミロ、レオが続く。
そして最後尾を、リリムが静かに歩く。
南支部のホールは、すでに彼女の支配下へと変わっていた。
「浄化の檻」と呼ばれる部屋は、暁の剣南支部の地下深くに存在していた。
重厚な鉄扉が開かれた瞬間、凍えるような冷気が流れ出る。
石造りの空間は静まり返り、壁や天井に刻まれた古代文字だけが淡い金色の光を放っていた。
それは封印術式――悪魔や闇の力を持つ者を拘束し、浄化するための結界だった。
天井には透明な結晶がいくつも吊り下げられ、その中央では巨大な《光の石》が脈打つように輝いている。
聖なる光のはずなのに、この部屋で放たれる光は冷たい。
まるで、罪人を裁くためだけに存在するかのように。
床には幾重もの魔法陣が刻まれ、中心には銀色の拘束台座が据えられていた。
そこに、ヴァレリアは縛り付けられていた。
黄金の鎖が手足へ深く絡みつき、淡い熱を帯びながら絶えず彼女の闇の力を削っている。
呼吸のたびに胸が小さく上下し、その額には汗が滲んでいた。
しかし――瞳だけは死んでいない。
台座の前に立つ男、南支部長ライザックは、冷たい眼差しで彼女を見下ろしていた。
「ヴァレリア」
低く重い声が静寂を裂く。
「お前はなぜ悪魔と契約した?」
ヴァレリアはゆっくりと目を開く。
「……それを知って、暁の剣に何の意味があるの?」
かすれた声。それでも、弱さはない。
ライザックはわずかに口角を上げた。
「個人的な興味だ」
「悪趣味ね」
「お前ほどの力を持つ女が、なぜ堕ちたのか。興味が湧くのは当然だろう」
ヴァレリアは鼻で笑う。
「あなたたち“太陽神の使徒”は、いつもそう。理由を知りたがるくせに、理解しようとはしない」
ライザックの眉がわずかに動く。
「理解する必要はない。悪は裁けばいい」
「その言葉、随分と便利ね」
ライザックは黙って台座の側面に手を置いた。
すると床の魔法陣が強く輝き始める。
――ゴォォォ……
低い振動音と共に、《光の石》が激しく明滅した。
次の瞬間、黄金の光が鎖を通じてヴァレリアの体へ流れ込む。
「っ……!」
ヴァレリアの身体が強張る。
光はまるで無数の刃のように、彼女の内側を焼いていく。
悪魔の力と聖なる力が激しく衝突し、呼吸すら困難になる。
「これは《浄化》だ」
ライザックは冷ややかに言った。
「お前の中の闇を削り、悪魔との契約を剥がす」
ヴァレリアは苦しげに息を吐きながらも、笑った。
「ふっ……あなたたち、いつもこうなのね」
「何?」
「力を理解できないから、壊そうとする」
ライザックの目が細くなる。
「まだ強がるか」
彼は台座の出力をさらに上げた。
鎖が輝きを増し、ヴァレリアの腕に痛みが走る。
「答えろ。どの悪魔と契約した?」
「……死んでも言わない」
「なら、魂ごと浄化する」
強烈な光が彼女を包み込む。
だが、ヴァレリアは悲鳴を飲み込みながらも、ライザックを睨み返した。
「あなた……知らないのね」
「何をだ?」
ヴァレリアの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「もう遅いってこと」
ライザックの表情が険しくなる。
その瞬間――
ドォン!!
遠くから鈍い衝撃音が響いた。
天井がわずかに震える。
ライザックが眉をひそめた直後、鋼鉄の扉が激しく叩かれた。
「支部長、大変です!」
苛立ちを隠さず、ライザックは扉を開く。
外には鎧姿の兵士が立っていた。額には汗が滲み、息が乱れている。
「侵入者です! 南支部の戦士が次々と倒されています!」
「侵入者?」
ライザックの目が細くなる。
「何人だ?」
兵士は唾を飲み込んだ。
「一人です……若い女です」
「女一人だと?」
「そ、それだけではありません……」
兵士の声が震える。
「ロイ殿とマルク殿が……敵として現れました」
ライザックの表情が凍りついた。
「……何?」
「ガイ、ミロ、レオもです。全員……死人のように」
短い沈黙。
そしてライザックはゆっくり剣陽炎の刃を握る。
「死霊術師か……」
背後で、ヴァレリアがかすかに笑った。
「その『若い女』……あなたにとって最後の相手になるかもしれないわね」
ライザックは振り返らない。
「全員配置につけ。ここまで通すな」
兵士は即座に駆け去った。
再び静寂が落ちる。
しかし今度の沈黙は違った。
遠くから、剣戟の音。
崩壊音。
そして、近づいてくる足音。
確実に――地下へ向かってきていた。
(次回、南支部最強、死者に剣を向ける ― 前編)
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