第118話 父王の剣
激しい攻防が続いていた。
ハラルドの圧倒的な力に押されながらも、マリーは退かなかった。
その攻防の中で、一瞬の隙が生まれた。
マリーの大剣が僅かに届いた。切っ先がハラルドの頬を掠めた。
浅い傷だった。しかし確かに傷だった。血が一滴、頬を伝って落ちた。
ハラルドはその頬に、指を当てた。血を拭った指先を、じっと見つめた。
そして初めて笑った。これまでの嘲るような笑みとは、違う笑みだった。
「そうか」
静かに呟いた。
「それが、今のお前か」
マリーは、荒い息の中で答えた。
「まだ、終わっていない」
ハラルドはしばらく、マリーを見つめていた。
「わかった」
その声には、これまでとは違う確かな重みがあった。
マリーを初めて単なる敵ではなく、一人の王として認めた瞬間だった。
二人の剣が、再び正面からぶつかり合った。
「――ギィィィン!」
鋭い金属音が響いた。
マリーの大剣に、一筋の亀裂が走った。
「な……」
声が漏れた。
もう一度、ハラルドが踏み込んだ。
「――バキィン!!」
マリーの大剣が、根元から折れた。
折れた刀身が床に落ち、乾いた音を立てた。
マリーは呆然と、その光景を見つめた。
ハラルドは静かに、剣を下ろした。
「終わりだ、マリアンネ」
声には確信があった。
それでも、マリーは逃げなかった。
折れた剣を握ったまま、膝を震わせながらも、立ち上がった。
その時だった。
「マリアンネ様!」
ラグナルの声が、玉座の間に響いた。
何かを大切そうに抱えていた。
布に包まれた一本の剣。
ラグナルはマリーの前で足を止め、その布を取り払った。
現れたのは、王家の剣だった。
長い年月を経ても、その刀身には王家の紋章が確かに刻まれていた。
マリーは、目を見開いた。
「それは……」
ラグナルは、その剣を差し出した。
「ヴァルケリア王家の剣です」
少し間を置いた。
「あなたのお父上が、最後まで使っていた剣です」
マリーの手が震えた。
「……お父様の」
ラグナルは、静かに頷いた。
「はい」
マリーはその剣を見つめた。
二年前の記憶が、静かに蘇ってきた。
父王の姿。幼い頃に見たその背中。王として民の前に立っていた、あの姿。
そして、亡くなった、あの日の記憶。
マリーは、ゆっくりと手を伸ばした。王家の剣を握った。
「――カチリ」
小さな音が鳴った。
その瞬間、剣に刻まれた王家の紋章が淡く輝いた。
マリーは顔を上げた。
「……これが、お父様の剣」
そして、ハラルドを見た。
「ならこの剣で、私がヴァルケリアを取り戻す」
剣を構えた。
その姿にハラルドが、初めて表情を変えた。
「その剣を、何処に隠していた」
声に、隠しきれない動揺が滲んだ。
ラグナルが、静かに答えた。
「王家の霊廟の地下、王家の墓。いつか正統なる王に、渡すために」
その様子を見ていたアイリが、小さく笑みを浮かべた。
まだ体は消耗していた。それでもその目には、確かな期待の色があった。
マリーは新たな剣を構えたまま、一歩前へと踏み出した。
つづく…
登場キャラクターのイラストをpixivで公開中です!
闇に堕ちたリリム、賢者アリシア、悪魔に魂を売った女ヴァレリア――
物語に登場するキャラクターたちを、高品質イラストとして制作しています。
「このキャラの姿を見てみたい」
「戦闘シーンをもっと想像したい」
そんな方はぜひご覧ください。
▼pixivはこちら
https://www.pixiv.net/artworks/144606685




