第115話 九体の小悪魔
九体の小悪魔が、玉座の間の床に揃っていた。
赤黒い肌が、消えかけた灯火の中で鈍く光っていた。尖った耳が左右に揺れている。開いた口の中には、幾本もの尖った牙が並んでいた。背中からは蝙蝠のような薄い翼が生えていた。飛ぶためというより、威嚇のために広げているような、そんな動きだった。
その顔には、歪んだ笑みが浮かんでいた。
その笑みの意味を、深く考える暇はなかった。
最初に動いたのは、アイリだった。
小悪魔一体が爪を振りかざし、飛びかかってきた。
「雀炎閃」
炎の波が、剣刃から放たれた。
小悪魔の体が、その波に飲み込まれた。甲高い耳障りな悲鳴が、上がった。焼け焦げた体が、そのまま壁に激突し、砕けるように崩れ落ちた。
同時にマイアの槍が、もう一体を捉えていた。
「獅閃光」
光の刃が閃いた。
閃光が、小悪魔の体を貫いた。傷口から黒く粘つく液体が、床に飛び散った。悲鳴すら上げる間もなく、醜悪な塊となって崩れ落ちた。
しかしすぐに、新たな二体が二人へと襲いかかった。
アイリは迫る一体の喉元へと、剣を突き込んだ。
「火炎斬」
炎を纏った刃が、その体を斬り裂いた。
小悪魔は体を大きく仰け反らせた。喉から獣じみた掠れた叫びが漏れた。炎がその体の内側から、燃え広がっていった。焦げた臭いが辺りに漂った。
マイアもまた、槍を一閃させていた。
「光華貫」
穂先が、正確に心臓のあたりを貫いた。
小悪魔の体が、痙攣するように震えた。口から黒い泡混じりの液体が、こぼれ落ちた。それきり動かなくなった。
二体の小悪魔が、床に転がった。
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アリシアは迫る一体に向けて、杖を構えていた。
「魔法の矢」
しかし発動しなかった。杖の先端から、何も放たれなかった。
「――くっ」
困惑がその声に滲んだ瞬間、小悪魔の鋭い爪がアリシアの腕を切り裂いた。
「――ッ」
鮮血が飛び散った。アリシアの体が、大きくよろめいた。
「アリシア様!」
リアナの悲鳴のような声が響いた。
しかしリアナ自身にも、別の一体が迫っていた。
リアナは咄嗟に、両手を掲げた。
「聖なる壁」
白い光が展開され、小悪魔の爪を弾いた。
その隙にリアナは、アリシアのもとへと走った。
「アリシア様!」
しかし二体の小悪魔が、二人へと迫ってきた。
リアナは再び、両手を掲げた。
「聖なる壁!」
もう一度白い光の壁が展開され、二体の爪と牙を弾き返した。
その瞬間、アイリとマイアが駆けつけた。
二人の剣と槍が、同時に閃いた。
二体の小悪魔が、悲鳴を上げる間もなく切り伏せられた。黒い体液が、床に広がっていった。
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少し離れた場所ではラグナルとアルヴィンが、それぞれ一体ずつを相手にしていた。
小悪魔の動きは俊敏で、その爪と牙は決して侮れなかった。
ラグナルの腕に、浅い傷が走った。それでも剣を振るい続け、最後には小悪魔の首元を、正確に切り裂いた。断末魔の悲鳴が短く響いた。
アルヴィンもまた、苦戦を強いられながらも剣を振り抜き、なんとか目の前の一体を仕留めた。
二人とも、荒い息をついていた。
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最後の一体が、マリーへと迫っていた。
マリーは大剣を握り、床と水平に寝かせた。
小悪魔が飛びかかってきたその瞬間、鋭い突きを繰り出した。
剣先が小悪魔の腹部を、正確に貫いた。悲鳴が上がった。黒い血が、剣を伝って滴り落ちた。
小悪魔の体から、力が抜けていった。剣を引き抜くとその体は、崩れるように床へと沈んでいった。
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九体全てが、倒れた。
玉座の間に静寂が戻った。
しかし誰も、油断しなかった。
アリシアの腕からは、まだ血が流れていた。マリーはその様子に目を向けた。
「アリシア」
声に、心配の色が滲んだ。
アリシアは、痛みを堪えながら小さく頷いた。
「大丈夫」
声は、まだしっかりとしていた。
しかしその体は明らかに、限界に近づいていた。
玉座に座ったままのハラルドが、その様子を静かに見つめていた。
つづく…
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