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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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113/118

第113話 それぞれの忠義

 フレイが道具を、門の扉の窪みへと差し込んだ。


 重い音が扉の奥から響いた。錠が外れる音だった。




 正門がゆっくりと、内側へと開いていった。王宮の広大な内部が、その向こうに姿を現した。




 マリーたちは静かに、その門をくぐった。




「助かった」




 マリーは、フレイを振り返った。




「礼を言う」




 フレイは、何も答えなかった。


 ただ俯いたまま、視線を地面に落としていた。




 罪の意識が、その横顔に色濃く滲んでいた。二年前、命令に背いた。そして今、また摂政の権限を裏切りに使った。その事実をフレイ自身、まだ消化しきれずにいた。




 マリーはしばらく、フレイのその様子を見つめていた。


 やがて静かに口を開いた。




「フレイ」




「はい」




「なぜお前は、ハラルドに仕えている」




 その声には、責める色はなかった。




「私たちと一緒に、このヴァルケリアを作り直さないか」




 マリーは続けた。その目に真剣な光が、宿っていた。




「いや」




 言い直した。




「力を貸してほしい」




 その言葉にフレイは思わず、その場に片膝をついた。




「勿体なき、お言葉です」




 声が震えていた。




「しかし、それはできません」




 深く頭を下げたまま続けた。




「なぜだ」




 マリーは、静かに尋ねた。


 責めるためではなく、ただ知りたいという、その想いだけが声に滲んでいた。




 フレイはしばらく沈黙した。


 やがて静かに語り始めた。




「私の父は、病気でした」




 声が掠れた。




「私には、父の薬を買うお金が、ありませんでした」




 マリーは黙って、その言葉に耳を傾けていた。




「それをハラルド様が、肩代わりしてくださったのです」




 フレイは続けた。その目に、静かな感謝の色があった。




「それがなければ、父は長くは生きられませんでした」




 マリーは、言葉を失った。




 ハラルドという男の冷酷さは、これまで嫌というほど見てきた。


 しかしその同じ男が、誰かにとっては命の恩人でもある。




 その事実の重さを、マリーは静かに受け止めた。




「――――」




 何も言えなかった。言葉を探しても、このフレイの想いを簡単に覆せるだけのものは、見つからなかった。




 フレイは顔を上げた。その目に、覚悟が宿っていた。




「マリアンネ様、どうかご無事で」




 その一言に、これまでの全ての想いが、込められているようだった。




 マリーはしばらく、フレイを見つめていた。


 やがて静かに頷いた。




「……そうか」




 小さく微笑んだ。




「ありがとう」




 その様子を仲間たちは神妙な表情で、静かに見守っていた。




 アリシアも、リアナも、アイリも、マイアも。




 誰も何も言わなかった。




 人には、それぞれの事情がある。それぞれの恩義があり、それぞれの選択がある。フレイの選んだ道を、誰も否定はしなかった。




 マリーは仲間たちを振り返った。その目に迷いはなかった。




「行こう」




 短いその一言に、仲間たちが静かに頷いた。




 一行はフレイをその場に残したまま、王宮の奥へと足を踏み入れていった。




 フレイは片膝をついたまま、その背中をいつまでも見送っていた。





つづく…




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