第111話 王宮前決戦
王宮へと続く大通りの先に、王都軍の精鋭部隊が待ち構えていた。
第一防衛線とは明らかに、質が違った。
重装の魔導兵。全身を鎧で覆った重装兵。整然と並ぶ弓兵。そして魔術師の一団。 街路そのものが幾重にも防衛陣地として作り込まれていた。
「ここからが、正念場です」
アルヴィンが、剣を抜いた。
「北部軍団、前へ!」
アルヴィンの部隊が、正面から突撃を開始した。
エミールは別方向から、敵の側面を押さえにかかった。
「押し込め!」
声を張り上げながら、兵を指揮した。
ラグナルは、マリーの傍らを離れなかった。
「王宮までは、まだ距離があります」
鋭い目で周囲の敵の配置を、確認し続けていた。
アイリは最前線で剣を振るっていた。ルシアンとの激闘の疲労を、まだ体に残しながらも、その剣には鈍りがなかった。次々と敵の精鋭を、切り崩していった。
アリシアは、光焔の杖を掲げていた。
街路のあちこちに張られた巨大な結界。それを一つずつ破壊していく。
その代償は明らかだった。息が荒くなり、額に汗が滲んでいた。杖を握る手がわずかに震えていた。
「アリシア、もういい!」
マリーが、思わず叫んだ。
「まだ」
アリシアは首を振った。
「王宮への道を、開ける」
その目に迷いはなかった。
「完全分解」
杖の先端に、凝縮された光が放たれた。
巨大な魔導障壁の一部が、消滅した。
その直後、アリシアの体が崩れ落ちた。
「アリシア!」
マリーが駆け寄り支えようとしたその瞬間、リアナが素早く駆けつけた。
リアナはアリシアの体に、両手を当てた。
「癒しの光」
白い光が、アリシアを包んだ。
「無理をしすぎです」
リアナの声に、いさめる色があった。
アリシアは荒い息の中で、小さく苦笑した。
「あなたに言われるとは、思わなかったわ」
その軽口に、リアナも小さく笑った。
しかしリアナ自身の顔にも、疲労の色が濃く滲んでいた。これまでの戦闘で、癒しの力を使い続けてきた。その消耗が隠しきれなかった。
それでもリアナは、静かに立ち上がった。
「王宮まで、まだあります」
その言葉にアリシアも、支えられながら立ち上がった。
二人は互いの体を支え合うように、前を見た。
王宮正門の前。
巨大な魔導兵器が、地響きと共に姿を現した。通常の攻撃では、到底止められない規模だった。
マイアは、槍を構えた。
「ここは私が、引き受けるわ」
「一人で、大丈夫なのか」
マリーが、心配そうに尋ねた。
マイアは、微笑んだ。
槍を構え直した。
「獅閃光」
巨大な光の奔流が、魔導兵器を正面から貫いた。
しかし魔導兵器も、最後の防御魔法を展開した。光の奔流が、その防御に押し留められかけた。
マイアはさらに力を込めた。
「――押し通す!」
巨大な光が防御魔法ごと、魔導兵器を貫き破壊した。
爆発が上がった。王宮正門への道が、開けた。
マイアは槍の先を地面に突き立て、息を整えた。
---
王宮前に、闇属性の巨大な魔法陣が展開された。
大量の敵魔術師が、一斉に攻撃を開始した。
アリシアは空を見上げ、両手を掲げた。
「聖光の裁き」
空に光の門が開いた。無数の光の槍が降り注いだ。
その狙いは正確に、敵の魔術師だけを貫いていった。
マリーは、その光景に息を呑んだ。
「アリシア……もう無理は、するな」
アリシアは静かに答えた。
「道を開きます」
---
激しい戦闘の末、敵の防衛線が崩壊した。
マリーたちは、ついに王宮正門へと辿り着いた。
しかし正門は開かなかった。
鍵が掛けられていた。
アリシアがまだ消耗の残る体で、その門を調べた。
「普通の鍵じゃない」
目を細めた。
「これは……王家の血統を認証する結界」
マリーは王印を取り出した。それを門に翳した。
しかし結界は反応しなかった。
沈黙が落ちた。
「なぜ、私を認証しない」
マリーの声が震えた。
アリシアはしばらく、その結界の術式を見つめていた。
「誰かが術式そのものを、書き換えている」
静かに告げた。
その言葉に誰もが、ハラルドの支配の深さを、改めて実感していた。
その時だった。
王宮の奥から、声が響いた。
「そこまでです」
全員が振り返った。
しかし姿は、まだ見えなかった。
王宮内部へと続く大階段の上、暗闇の中から一つの人影が、ゆっくりと姿を現した。
王都軍の装束。手には剣。
フレイだった。
マリーは息を呑んだ。
「……フレイ」
フレイは静かに、頭を下げた。
「お帰りなさいませ、マリアンネ様」
「ハラルド様は、あなたがここまで来ることを、予想していました」
フレイは続けた。
その言葉に開かれた城門の罠が、単なる戦術上の罠だけではなかったことを、誰もが静かに理解していった。
フレイはマリーたちをただ攻撃するために、現れたのではなかった。
彼女は王宮への、最後の門番だった。
しかしその佇まいには、以前よりも明らかに、強い覚悟が宿っていた。
マリーは剣を抜いた。
「フレイ」
まっすぐ、その目を見た。
「私は、もう逃げない」
「知っています」
フレイは、静かに答えた。
一瞬の沈黙。
「だからこそ、ここで確かめたい」
その目に、確かな光が宿った。
「あなたが本当に、この国の王になる覚悟を、持っているのか」
マリーは一歩、前へと出た。
剣を構えた。
二人が対峙した。
後方の仲間たちが、援護に入ろうと動きかけた。
「この人は、私が相手をする」
マリーが静かに制した。
アリシア、リアナ、マイア、アイリたちは、それぞれ視線を交わし、そして静かに後退した。
王宮の大階段。マリーとフレイだけが向かい合っていた。
二年前、逃げる王女と、それを見送った側近。
そして今、王として戻ったマリーと、ハラルドに忠誠を誓うフレイ。
二人の過去が静かに、その場に重なっていた。
フレイは剣を握り直した。
「では――参ります」
その声が、静かに響いた。
マリーも剣を構え直した。
「来い、フレイ」
揺るがぬ声で答えた。
二人が、同時に踏み込んだ。
剣が激突する、その瞬間――
つづく…
▼登場人物のイラストをpixivで公開中
https://www.pixiv.net/artworks/144793121




