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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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111/115

第111話 王宮前決戦

 王宮へと続く大通りの先に、王都軍の精鋭部隊が待ち構えていた。


 第一防衛線とは明らかに、質が違った。 




 重装の魔導兵。全身を鎧で覆った重装兵。整然と並ぶ弓兵。そして魔術師の一団。      街路そのものが幾重にも防衛陣地として作り込まれていた。




「ここからが、正念場です」




 アルヴィンが、剣を抜いた。




「北部軍団、前へ!」




 アルヴィンの部隊が、正面から突撃を開始した。




 エミールは別方向から、敵の側面を押さえにかかった。




「押し込め!」




 声を張り上げながら、兵を指揮した。




 ラグナルは、マリーの傍らを離れなかった。




「王宮までは、まだ距離があります」




 鋭い目で周囲の敵の配置を、確認し続けていた。




 アイリは最前線で剣を振るっていた。ルシアンとの激闘の疲労を、まだ体に残しながらも、その剣には鈍りがなかった。次々と敵の精鋭を、切り崩していった。




 アリシアは、光焔の杖を掲げていた。


 街路のあちこちに張られた巨大な結界。それを一つずつ破壊していく。




 その代償は明らかだった。息が荒くなり、額に汗が滲んでいた。杖を握る手がわずかに震えていた。




「アリシア、もういい!」




 マリーが、思わず叫んだ。




「まだ」




 アリシアは首を振った。




「王宮への道を、開ける」




 その目に迷いはなかった。




「完全分解」




 杖の先端に、凝縮された光が放たれた。


 巨大な魔導障壁の一部が、消滅した。




 その直後、アリシアの体が崩れ落ちた。




「アリシア!」




 マリーが駆け寄り支えようとしたその瞬間、リアナが素早く駆けつけた。




 リアナはアリシアの体に、両手を当てた。




「癒しの光」




 白い光が、アリシアを包んだ。




「無理をしすぎです」




 リアナの声に、いさめる色があった。




 アリシアは荒い息の中で、小さく苦笑した。




「あなたに言われるとは、思わなかったわ」




 その軽口に、リアナも小さく笑った。




 しかしリアナ自身の顔にも、疲労の色が濃く滲んでいた。これまでの戦闘で、癒しの力を使い続けてきた。その消耗が隠しきれなかった。




 それでもリアナは、静かに立ち上がった。




「王宮まで、まだあります」




 その言葉にアリシアも、支えられながら立ち上がった。


 二人は互いの体を支え合うように、前を見た。




 王宮正門の前。


 巨大な魔導兵器が、地響きと共に姿を現した。通常の攻撃では、到底止められない規模だった。




 マイアは、槍を構えた。




「ここは私が、引き受けるわ」




「一人で、大丈夫なのか」




 マリーが、心配そうに尋ねた。




 マイアは、微笑んだ。


 槍を構え直した。




「獅閃光」




 巨大な光の奔流が、魔導兵器を正面から貫いた。


 しかし魔導兵器も、最後の防御魔法を展開した。光の奔流が、その防御に押し留められかけた。




 マイアはさらに力を込めた。




「――押し通す!」




 巨大な光が防御魔法ごと、魔導兵器を貫き破壊した。


 爆発が上がった。王宮正門への道が、開けた。




 マイアは槍の先を地面に突き立て、息を整えた。




---




 王宮前に、闇属性の巨大な魔法陣が展開された。


 大量の敵魔術師が、一斉に攻撃を開始した。




 アリシアは空を見上げ、両手を掲げた。




「聖光の裁き」




 空に光の門が開いた。無数の光の槍が降り注いだ。


 その狙いは正確に、敵の魔術師だけを貫いていった。




 マリーは、その光景に息を呑んだ。




「アリシア……もう無理は、するな」




 アリシアは静かに答えた。




「道を開きます」




---




 激しい戦闘の末、敵の防衛線が崩壊した。


 マリーたちは、ついに王宮正門へと辿り着いた。




 しかし正門は開かなかった。


 鍵が掛けられていた。




 アリシアがまだ消耗の残る体で、その門を調べた。




「普通の鍵じゃない」




 目を細めた。




「これは……王家の血統を認証する結界」




 マリーは王印を取り出した。それを門に翳した。


 しかし結界は反応しなかった。




 沈黙が落ちた。




「なぜ、私を認証しない」




 マリーの声が震えた。




 アリシアはしばらく、その結界の術式を見つめていた。




「誰かが術式そのものを、書き換えている」




 静かに告げた。


 その言葉に誰もが、ハラルドの支配の深さを、改めて実感していた。




 その時だった。


 王宮の奥から、声が響いた。




「そこまでです」




 全員が振り返った。


 しかし姿は、まだ見えなかった。




 王宮内部へと続く大階段の上、暗闇の中から一つの人影が、ゆっくりと姿を現した。




 王都軍の装束。手には剣。


 フレイだった。




 マリーは息を呑んだ。




「……フレイ」




 フレイは静かに、頭を下げた。




「お帰りなさいませ、マリアンネ様」


「ハラルド様は、あなたがここまで来ることを、予想していました」




 フレイは続けた。




 その言葉に開かれた城門の罠が、単なる戦術上の罠だけではなかったことを、誰もが静かに理解していった。




 フレイはマリーたちをただ攻撃するために、現れたのではなかった。


 彼女は王宮への、最後の門番だった。




 しかしその佇まいには、以前よりも明らかに、強い覚悟が宿っていた。




 マリーは剣を抜いた。




「フレイ」




 まっすぐ、その目を見た。




「私は、もう逃げない」




「知っています」




 フレイは、静かに答えた。




 一瞬の沈黙。




「だからこそ、ここで確かめたい」




 その目に、確かな光が宿った。




「あなたが本当に、この国の王になる覚悟を、持っているのか」




 マリーは一歩、前へと出た。


 剣を構えた。




 二人が対峙した。




 後方の仲間たちが、援護に入ろうと動きかけた。




「この人は、私が相手をする」




 マリーが静かに制した。




 アリシア、リアナ、マイア、アイリたちは、それぞれ視線を交わし、そして静かに後退した。




 王宮の大階段。マリーとフレイだけが向かい合っていた。


 二年前、逃げる王女と、それを見送った側近。




 そして今、王として戻ったマリーと、ハラルドに忠誠を誓うフレイ。


 二人の過去が静かに、その場に重なっていた。




 フレイは剣を握り直した。




「では――参ります」




 その声が、静かに響いた。




 マリーも剣を構え直した。




「来い、フレイ」




 揺るがぬ声で答えた。




 二人が、同時に踏み込んだ。


 剣が激突する、その瞬間――





つづく…




▼登場人物のイラストをpixivで公開中


https://www.pixiv.net/artworks/144793121

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