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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第110話 開かれた城門

 城門の前で、マリーたちは足を止めていた。




 城壁の上に、ほとんど兵士の姿がなかった。開かれたままの門。静まり返った、その奥。




「これは……おかしい」




 アルヴィンが低く呟いた。




 マイアも険しい表情で続けた。




「敵が本当に敗走したのなら、こんな開け方はしないわ」




 アリシアは光焔の杖を、静かに掲げた。目を閉じ精神を集中させた。


 しばらくして、その表情が強張った。




「……います」




「何が」




 マリーがすぐに尋ねた。




「敵です」




 アリシアの声が緊張していた。




「街の中に、大勢」




 誰もがしばらく、門の前で躊躇した。


 しかしいつまでも、ここに留まっているわけにはいかなかった。




「進みます」




 マリーが、覚悟を決めたように告げた。




「警戒を怠るな」




 一行は慎重に、開かれた城門をくぐった。


 石畳の大通りが、目の前に広がった。静まり返った街並みの中を、一歩ずつ進んでいく。




 その瞬間だった。


 背後から、地鳴りのような足音が聞こえた。




 振り返ると、王都軍の残存部隊が退路を塞ぐように、姿を現していた。門の外、既に通り過ぎたはずのあの場所に。




 前にも後ろにも敵。完全に誘い込まれていた。




「全軍、警戒!」




 マリーの声が響いた。




 その直後、轟音と共に城門が閉じた。




 同時に王都の街路のあちこちで、光の壁が次々と出現した。


 マリー陣営を、複数の部隊に分断していく。




 建物の屋上から、王都兵が一斉に姿を現した。路地からも次々と、兵士が湧き出てきた。




 魔導兵器が、低い唸りを上げ起動した。石畳が爆発し、砂塵が舞い上がった。魔法弾が、空を切り裂いて飛び交った。




 市街地の各所で、戦闘が始まった。




「民家には近づけるな!」




 マリーが叫んだ。




「王都の民を守れ!」




 その声に、仲間たちが応えるように動き始めた。




---




 アリシアは街の中に張り巡らされた魔術結界を、素早く解析していった。




 魔力探知、罠の構造解析、結界の術式解読。その全てが一瞬の内に、彼女の頭の中で、組み立てられていった。




「敵の魔導兵器から」




 アリシアの目が、鋭くなった。




 街の奥から巨大な魔力の砲撃が放たれた。マリーたちの頭上へと、まっすぐに迫ってくる。




「光の盾」




 アリシアの杖が光った。




 巨大な魔力障壁が展開された。砲撃がその障壁に激突し爆発した。轟音が街全体に響いた。


 光の盾は砕けなかった。




「マリー、右の路地へ!」




 アリシアがすぐに、指示を飛ばした。


 マリーは迷わず、その指示に従った。




 光焔の杖は、使うたびに彼女の命を削っていく。


 その代償を、マリーは知っていた。




「アリシア、大丈夫か」




 戦闘の合間、心配そうに声をかけた。




「大丈夫」




 アリシアは息を切らしながらも、静かに微笑んだ。




「まだ戦える」




 その声に迷いはなかった。それでも額に滲む汗が、彼女の負担の大きさを物語っていた。




---




 リアナは戦場の後方で、負傷者の救護に当たっていた。




「癒しの光」




 その両手から白い光が溢れ、傷ついた北部兵やエミールの兵たちを、次々と癒していった。




 その時王都兵が放った呪いの霧が、街路を覆い始めた。霧に触れた兵士たちの動きが、乱れ始めた。恐怖に飲まれ、統率が崩れかけていた。




 リアナは静かに、両手を掲げた。




「この街を、闇に染めさせません」




 太陽神レオリアの加護が、リアナを包んだ。白い清浄な光が呪いの霧を、浄化していった。


 兵士たちの目に、正気が戻っていった。




---




 さらに敵の魔術師部隊が、大量に姿を現した。




 アリシアは天に、光焔の杖を掲げた。




「聖光の裁き」




 空に巨大な光の門が開いた。無数の光の槍が降り注いだ。


 しかしその槍は一本も、民間人に当たることはなかった。狙いは正確に敵兵だけを貫いていった。




 空を覆う巨大な光。その光景に、マリー陣営の士気が一気に上がった。




---




 マイアは狭い路地の中で、長槍を短槍と短棍へと分解した。


 二刀流に近い独特の戦闘スタイル。高速の突き、半月閃、光華貫。




 次々と繰り出されるその技の連続に、王都兵が次々と崩れ落ちていった。狭い路地を、たった一人で押さえ続けていた。




 そこへ敵の魔導兵器が、巨大な魔力砲撃を放った。




 マイアは槍を、地面に突き立てた。




「防壁」




 光の壁が展開され、仲間たちを守った。




 さらに敵が密集する隊列へと。




「獅閃光」




 遠距離から、その隊列を一気に切り崩した。


 街を破壊しすぎないよう、攻撃の方向を慎重に絞り込んだ。


 巨大な光の奔流が、魔導兵器だけを正確に撃ち抜いた。爆発が上がった。周囲の建物には、傷一つつかなかった。




 マイアは槍を、構え直した。




「これで道が開いた」




 息を整えながら呟いた。




---




 アリシアが敵の結界を、次々と解析し崩していった。




 リアナが負傷者を、癒し続けた。




 マイアが敵の防衛線を、突破していった。




 アイリ、アルヴィン、ラグナル、エミールがそれぞれの持ち場で、敵兵たちを押し返していった。




 マリー自身も、前線に立ち続けた。


 しかし無闇に、敵を殺すことはしなかった。


 降伏する兵士は捕らえた。武器を捨てた者には、剣を向けなかった。




 その姿を見た王都の住民たちの間で、




「本当に、マリアンネ様なのか……」




 という声が少しずつ増えていった。




---




 王宮の高所。




 ハラルドは、その窓から戦場を見下ろしていた。




 側近の一人が報告した。




「予定より早く、結界が破られています」




 ハラルドは、驚かなかった。




「そうか」




 静かに答えた。




「女賢者が、いるからな」




 しばらく戦場を見つめた後。




「しかし、それでいい」




 その目に、冷たい光が宿った。




「王都の中心まで、来てもらう」




 その声には、まだ明かされていない何かへの、確信があった。




---




 激しい戦闘の末、マリーたちは王都内部の第一防衛線を突破した。


 しかし王宮へと続く大通りの先に、巨大な王都軍の防衛部隊が待ち構えていた。


 さらに王宮の方角から、強大な魔力が静かに立ち上っているのが感じられた。




 アリシアの表情が、強張った。




「……まだ終わっていない」




 マリーは、その王宮を見上げた。


 その目に迷いはなかった。




「なら、進むだけだ」




 王都奪還戦の本当の決戦が今まさに、始まろうとしていた。





つづく…




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