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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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第11話 兄弟を殺し、仲間に変えた夜

巨大な鉄門の前で、死人たちが止まった。


荒野にそびえる要塞――《暁の剣 南支部》。


高い石壁には幾重もの警戒魔法陣が走り、見張り台では兵士たちが巡回している。


正門に刻まれた“暁”の紋章が、月光を受けて鈍く光っていた。




リリムは立ち止まる。


胸の奥が、ざわついた。




ここに――ヴァレリアがいる。


そう思うだけで、心臓が少しだけ早くなる。




だが同時に、恐怖もあった。


また、捕まったら。


また、あの日みたいに――。


リリムは無意識に肩を抱く。




その前で。


ガイ、ミロ、レオの三人が、ぎこちなく首を動かした。


門番へ向く。




銀の甲冑をまとった二人の男。


巨大な盾を持つ男と、白銀の剣を提げた男。


その姿を見た瞬間。


知らない記憶が、頭へ流れ込んできた。




――鋼の双刃。


――ロイとマルク。


――対魔術士戦の専門。


――ロイが防ぎ、マルクが殺す。


リリムが目を細める。




(……強い)




死者たちの記憶が、本能的な警戒を告げていた。


門前のロイが眉をひそめる。




「……ガイ?」




低い声だった。




「何をしている」




返事はない。


ガイは、無表情のまま剣を抜いた。


その異様さに、マルクの表情が変わる。




「おい、待て……」




次の瞬間。


ガイが踏み込んだ。


光剣が一直線に振り下ろされる。


だが。




――ガァン!!




ロイの大盾がそれを受け止めた。


重い衝撃音。


ロイの目が見開かれる。




「何をする、ガイ!!」




返答はない。


ただ、もう一撃。


無感情な斬撃。


マルクがすぐに剣を抜く。




「ロイ! 後ろ!」




その声と同時。


ミロの矢が飛んだ。


レオが突進する。




二対三。


だが。


違和感があった。


死人たちは、一言も喋らない。


呼吸もしない。


感情もない。




そして。


傷ついても、一切動じなかった。




マルクの剣がレオの肩を斬る。


肉が裂ける。


普通なら止まる傷。


だがレオは、止まらない。


そのまま剣を振り抜いた。




「っ……!」




マルクが後退する。


嫌な汗が背を伝った。




「兄貴……こいつら……!」




ロイも、ようやく気づく。


ガイの瞳に、生気がない。




ミロの関節は不自然に軋んでいる。




レオの腹には、致命傷が残ったままだ。




あり得ない。


だが。


理解した瞬間、血の気が引いた。




「……死んでいる」




空気が凍る。




「誰が、こんなことを――」




ロイの視線が、その奥へ向く。




黒いローブ。


長い紫髪。


小柄な少女。




彼女だけが、静かにこちらを見ていた。




「……貴様か」




ロイが盾を構える。




「死人使い」




その言葉に。


リリムの肩が、ぴくりと震えた。




死人使い。


化け物。


悪魔。


胸の奥が冷えていく。




でも。


ヴァレリアに会うためなら。


止まれない。




リリムは、小さく息を吐いた。




「……行って」




死人たちが動く。


ガイとレオが前へ。


ミロが後方支援。


生前の連携が、そのまま再現されていた。




ロイが盾を前へ出す。




「マルク!」




「ああ!」




兄弟の動きは速かった。


ロイが盾でレオの剣を受け止める。


同時に。


盾表面の紋章が発光。


死人たちの動きが止まる。




リリムの瞳が揺れる。




(……光の魔法?)




直後。


マルクが死角から飛び込む。




閃光。


ガイの腕が斬り飛ばされた。


地面へ落ちる。




だが。


ガイは止まらない。


無表情のまま剣を握り直した。




マルクが息を呑む。




「冗談だろ……!」




ロイが叫ぶ。




「怯むな! 本体を叩く!」




鋭い視線が、リリムへ向く。


その瞬間。


リリムの呼吸が止まった。




来る。


怖い。


怖い。


足が竦む。




でも。


逃げたら終わる。


リリムは左手を掲げた。


黒い影が地面を走る。




「……縛って」




闇の触手。




だが。


ロイの盾が前へ出る。




――バチィッ!!




闇が、消えた。




「魔法無効化……!」




ミロの記憶が答えを告げる。




《絶壁》。




魔術を打ち消す盾。


相性が悪い。




なら――。


リリムの視線が変わる。


死人を見る。




(盾を止めれば……)




「ガイ、右」


「レオ、前」


「ミロ、目」




命令と同時。


死人たちが一斉に動いた。




ガイが横へ回る。


レオが正面から圧力をかける。


ミロの矢がロイの視界を狙う。


完璧な連携。




ロイが一瞬だけ、盾を上げた。


その隙。




「兄貴!」




マルクが前へ出る。


守ろうとした。




だが。


その足元。


影が伸びる。




「……捕まえた」




黒い手が足首を掴む。


動きが止まる。




そこへ。


レオの大剣。


轟音。




マルクが吹き飛ぶ。


石壁へ叩きつけられた。


血が飛ぶ。




「マルク!!」




ロイが叫ぶ。


その声には、初めて焦りがあった。




盾が揺れる。




隙。




ガイの剣が入る。


ミロの矢が肩を貫く。




ロイが膝をついた。


それでも盾を離さない。




「……守る」




震える声。




「弟だけは……!」




立ち上がる。


血を流しながら。


まだ戦う。




リリムは、少しだけ目を見開いた。




(……どうして?)




怖くないの?


痛くないの?


逃げないの?




理解できなかった。




少しだけ。


胸が、痛んだ。




その時。


マルクが血を吐きながら立ち上がる。




「兄貴……!」




ロイが振り向く。


ほんの、一瞬。


兄弟が互いを見る。




その隙を。


死人たちは見逃さない。




ガイ。


レオ。


同時斬撃。




ロイが崩れる。




直後。


ミロの矢がマルクを貫いた。




沈黙。




ロイが倒れたまま、弟を見る。


マルクも、兄を見る。


震える声。




「……悪い、兄貴」




「馬鹿言うな……」




ロイが笑う。




弱々しく。




「よく、やった」




そして。


二人の呼吸が止まった。


静かになる。




リリムは、動かなかった。


胸の奥が、妙にざわついていた。




敵だった。


怖かった。




でも。




最後の顔が。


少しだけ、温かかった。




「……ごめんなさい」




小さな声が漏れる。


それでも。


左手は、止まらない。




淡い魂が浮かぶ。


兄と弟。


二つの光。




リリムへ吸い込まれていく。




知らない記憶。


支え合った日々。


背中を預けた戦場。


守りたかった仲間。




胸が、少しだけ痛んだ。


でも。


止まれない。




「……死人操作」




黒い魔力が流れる。




ロイの指が動く。


マルクの首がゆっくり上がる。


瞳から光が消える。




それでも。


二人は、生前と同じ位置へ立った。




盾と剣。


兄と弟。




ただし今は。


リリムのために。




「……ヴァレリアさんのところ、案内して」




死人たちは無言で歩き出した。


重い門が、軋んで開く。




そして――




南支部ホール。


豪奢なシャンデリア。


赤い絨毯。


高い天井。


静かな空気。




侵入者の姿を見た瞬間。


警報が鳴り響いた。




「侵入者だ!!」




左右の扉が開く。


武装兵が雪崩れ込む。




そして。


最前列の兵士が、凍りついた。




「……ロイ?」




「マルク……?」




次々に顔色が変わる。




「ガイまで……」




「な、なんだそれ……!」




死人たちは答えない。


ただ。


剣を抜いた。




リリムは後ろで、小さく囁く。




「……行って」




その瞬間。


闇の軍勢が、走り出した。





(次回、目覚めた賢者、消えた妹の気配)





登場キャラクターのイラストをpixivで公開中です!


闇に堕ちたリリム、賢者アリシア、悪魔に魂を売った女ヴァレリア――


物語に登場するキャラクターたちを、高品質イラストとして制作しています。


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そんな方はぜひご覧ください。


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