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紫の邪術師と深紅の賢者 ~落ちこぼれ妹は闇落ちし、姉に追われながら死人を従える~  作者: Nagiousen


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103/105

第103話 世界樹が認めた王

 その言葉に。


 白い空間が。


 初めて震えた。




 二つの景色が、揺らぎ崩れ始めた。


 光がマリーの周囲を、包み込んでいった。




 これまでとは違う質の光だった。


 温かく優しく。




 まるで初めて、認められたかのような。


 そんな光が静かに、マリーを包んでいた。




 温かさが肌の表面ではなく、もっと深いところに染み込んでくるような感覚だった。




 二つの景色は、もう見えなかった。ただ光だけが、静かに満ちていた。


 やがて光の中に、声にならない何かが響いた。


 言葉ではなかった。しかし意味だけは、はっきりと伝わってきた。




 ――ようやく、見つけた。




 そのたった一つの想いだけが、マリーの中に静かに落ちていった。




 視界が戻った。


 王権の間。世界樹の根に囲まれた、あの祭壇の前だった。




 マリーは自分が、まだ立っていることに気づいた。膝から力が抜けそうになったが、辛うじてそれを堪えた。




 大神官が、心配そうにこちらを見ていた。




「殿下……大丈夫ですか」




「……ああ」




 声が掠れた。




 目の前祭壇の上に、再び黄金の光が灯っていた。


 先ほどよりも強く。先ほどよりも、確かな輝きだった。




 その光の中心に、王印があった。




 マリーはゆっくりと、手を伸ばした。


 今度は震えなかった。




 指先が、王印に触れた。




 瞬間。


 神殿全体が、白銀の光に包まれた。




 根という根が一斉に共鳴した。低いしかし力強い音が、大地の底から響いてくるようだった。




---




 王権の間の奥、外の広間にいたアリシアたちも、その光を見た。




「これは……」




 リアナが思わず、声を上げた。




 アイリも、マイアも、ラグナルも、アルヴィンも皆、光の差し込む方角を見つめていた。




 神官たちが、一斉に跪いた。




 誰かが命じたわけではなかった。ただその光を見た瞬間、体が自然とそうさせていた。




---




 王権の間では。


 マリーの手の中で、王印が静かに輝いていた。




 大神官は、深く頭を垂れていた。




「世界樹が、認めました」




 声が震えていた。長年待ち続けてきた、その瞬間への震えだった。




「あなたこそ、真の王」


「マリアンネ・ヴァルケリア様で、ございます」




 マリーは王印を、両手でそっと包み込んだ。


 温かかった。




 二年間、逃げ続けてきた日々。弟を失った、あの日の記憶。仲間たちと出会い、支えられ、ここまで辿り着いた道のり。




 その全てが、この小さな金の紋章の中に、集約されているような気がした。




「ありがとう」




 マリーは、静かに呟いた。




 誰に向けた言葉かは、自分でもよく分からなかった。




 世界樹に。


 大神官に。




 そしてこの場にいない、あの日死んでいった弟に。


 全てに向けた、感謝だった。




---




 王権の間を出ると、広間で待っていた仲間たちが、一斉に駆け寄ってきた。




「マリーさん!」




 リアナが真っ先に、抱きついた。




「大丈夫だったのですか。あの光は、一体」




「ああ」




 マリーは微笑んだ。


 その微笑みにはこれまでにない、確かな強さが宿っていた。




 アイリが腕を組んだまま、口の端を上げた。




「随分と、いい顔になったな」




「そうか?」




「ああ」




 マイアも頷いた。




「まるで、別人みたいです」




 アリシアは何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。


 その深紅の瞳に、確かな安堵の色があった。




 ラグナルとアルヴィンは少し離れた場所で、その光景を見守っていた。




「……成し遂げられましたな」




 アルヴィンが、感慨深げに呟いた。




「はい」




 ラグナルは頷いた。




「ですが、ここからです」




 二人の視線が自然と、北の方角――王都へと向いた。




 王印は手に入った。


 世界樹はマリーを、真の王として証明した。




 しかし。


 ハラルドはまだ、玉座にいる。




 これから始まる本当の戦いが。


 今ようやく、姿を見せ始めていた。





つづく…




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