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【監禁】7日後に死ぬヤンデレと僕。~死に戻りで死亡エンドを絶対回避してやる~  作者: 緋村 獏


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4/11

視線の正体



 目を開けた。


 天井。蛍光灯。枷。


 胸に手を当てた。穴はない。血もない。でも覚えている。乾いた音。胸の真ん中が燃えるように熱くなって、足から力が抜けて、草の上に倒れた感触。


 撃たれた。銃で。


 あの女にじゃない。外で。地上に出た瞬間に。


 ——そして、あの悲鳴。


「——起きたんだ」


 部屋の端から、女の声がした。いつもと同じ。壁にもたれて、膝を抱えて、こっちを見ている。


 僕はしばらく黙って、その顔を見ていた。


 この女は、七日目の夜に僕を殺す。それは五回見た。でも、外にはこの女じゃない何かがいて、僕を撃った。そしてこの女は——叫んでいた。


 僕が撃たれたとき、この女は悲鳴を上げた。


 それが何を意味するのか、まだわからない。




---




 枷の外し方は身体が覚えている。


 スプーンの縁を壁で削る。ベッドのネジを外す。鍵穴にネジを差し込んで、もう一本の金属片で二つ目のピンを押す。


 前回は六日かかった。今回は作業の要領がわかっている分、もっと早くできるはずだ。薬は初日から飲んだ。あの頭痛に耐えながら作業する無駄は、もういらない。


 三日目の夜、枷が外れた。


 半分の時間で済んだ。手順を知っているというだけで、こうも違う。




---




 四日目。女が長い外出に出たのを確認して、部屋を出た。


 前回は地上への階段をまっすぐ上った。そして死んだ。今回は逆に行く。


 廊下。右に行けば階段。前回のルート。左に行けば——前回は行き止まりと施錠された扉があった。今回はもっと丁寧に見る。


 左に進む。すぐに扉がある。重い金属製。前回は施錠されていた。今回もそうだ。鍵穴を覗く。枷とは違う。もう少し複雑そうだけど、構造は似ている。


 扉の先に、何がある。


 廊下をさらに進む。前回は行き止まりだと思った。でも薬を飲んで目が利くようになった今、よく見ると壁の色が微妙に違う場所がある。塗り直した跡。ここに何かあったのかもしれない。


 それ以上は進めなかった。足音がした。女が戻ってくる。急いで部屋に戻る。枷を閉じたふりをして、ベッドに横になった。


 扉が開いて、女が入ってきた。食事のトレイ。


「……寝てた?」


「うん、ちょっと」


 女はテーブルに食事を置いて、いつも通り出ていった。


 気づかれていない。




---




 五日目。食事の時間に、女の顔を見た。


 薬を飲み始めてから三日。頭の霧はほとんど晴れている。視界がクリアで、思考が回る。前回感じた「声の既視感」は今回もある。でも今回はもっとはっきりしたものが来た。


 女が食事を置いて、振り返って扉に向かう。その横顔。長い黒髪が揺れる。ドアノブに手をかける動作。


 ——知ってる。


 この横顔を、見たことがある。


 どこで。いつ。考える。頭の奥を探る。暗い場所じゃない。地下じゃない。もっと明るい、普通の場所で——


 電車だ。


 朝の通学電車。混んでいるホームで、二両先のドアから乗り込む女の子の後ろ姿。長い黒髪。一瞬だけ見えた横顔。同じ高校の制服じゃなかった。でも毎朝、同じ電車の同じ車両にいた。気にも留めていなかった。毎日同じ電車に乗るのは普通のことだから。


 ——本当にそうだったか?


 記憶を辿る。薬のおかげか、今まで靄がかかっていた日常の映像が、少しずつ鮮明になっていく。


 コンビニ。放課後にいつも寄るコンビニ。雑誌の棚の向こうに立っている人影。僕がレジに並んでいるとき、視界の端にちらっと映る長い髪。振り返ると、もういない。何度もあった。三回、いや四回は。同じ人だったのか、別の人だったのか、そのときは考えもしなかった。


 学校の帰り道。あの薄暗い住宅街の路地。信号待ちで、反対側の歩道に立っている女の子。目が合った気がして、信号が変わって渡ろうとしたら、もういなくなっている。走って逃げたみたいに。


 カフェ。一度だけ入った駅前のチェーン店。テスト期間で、少し静かな場所で勉強したかった。窓際の席に座っている女の子が、僕が入ってきたのを見て、さっと視線を逸らした。顔は見えなかった。でも髪が長かった。コーヒー一杯をずっと持ったまま、何も読まずに座っていた。僕が二時間いて、帰るとき、まだいた。


 全部——この女だ。


 一つ一つは何でもない。電車で見かける人。コンビニにいる客。すれ違う通行人。カフェに座っている女の子。どれも日常の風景で、どれも気に留める理由がない。


 でも全部が同じ人間だったとしたら。


 背筋が凍った。


 視線。ずっと感じていた視線。気のせいだと思っていた視線。登校中も、コンビニでも、帰り道でも。あれは全部、この女だった。


 監禁される前から。ずっと前から。何週間も、何ヶ月も——もしかしたらもっと前から。この女は僕を見ていた。


「……奏多くん? 食べないの?」


 いつの間にか女が戻ってきていた。扉の前に立って、こっちを見ている。心配そうな顔。普通の顔。普通の女の子みたいな顔。


 でも普通じゃない。全然普通じゃない。この女は僕をストーキングして、殴って連れてきて、鎖で繋いで、七日目に殺す。それを僕が死ぬたびに繰り返している。


「……食べるよ」


 声が震えないように気をつけた。気づかれてはいけない。僕がこれだけのことを知っていると、悟られてはいけない。


 女は小さく頷いて、出ていった。




---




 六日目。


 女の長い外出の時間を待って、廊下に出た。


 左の扉の前。しゃがんで鍵穴を覗く。暗い。ネジの先端を差し込んで、中の構造を探る。枷の鍵穴は二つのピンだった。これは——三つ。指先に伝わる感触を、一つ一つ確認していく。ピンの位置、硬さ、押し込む深さ。全部違う。


 枷よりは複雑だけど、原理は同じはず。同時に三つのピンを正しい位置に押し上げれば開く。問題は道具が足りないこと。今の手持ちではネジ一本と金属片一枚。もう一本、何か細いものが必要になる。


 作業に没頭していると、ふと気がついた。この扉、外から施錠されている。つまりこの先には、女が入る部屋がある。女がここを使っている。


 女が普段何をしているのか、僕は何も知らない。食事を作って、薬を持ってきて、たまに長い外出をして。それだけだ。部屋の外で何をしているのか、一度も見たことがない。


 足音。遠くから。


 急いで部屋に戻った。枷を閉じたふりをして、ベッドに座る。間に合った。


 食事を持ってきた女が、テーブルにトレイを置く。おにぎりと味噌汁——だけじゃなく、小さな卵焼きがついていた。前はなかったもの。


「……奏多くん、最近よく食べるね」


 少しだけ嬉しそうな声だった。


「……うん」


 返事をしながら、女の目を見ないようにした。見ると、日常の記憶が蘇ってくる。電車の中のあの横顔が、コンビニの棚の向こうのあの影が。知れば知るほど怖くなる。この女がどれだけ長い間、僕を見ていたのか。


 女が出ていった。


 壁の傷を見た。六本の線。あと一日で、また殺される。


 でも今回は前とは違う。わかっていることが増えている。外には銃を持った誰かがいる。この女は監禁の前からずっと僕を見ていた。地下施設には、僕がまだ見ていない部屋がある。


 あの扉の向こうに、何がある。女は何を隠しているのか。


 七日目の夜が来る前に知りたかった。でも、焦っても仕方ない。死んでも戻れる。記憶は消えない。鍵穴の構造はもう指が覚えている。


 次のループでは——初日から動く。三日で枷を外す。四日であの扉を開ける。


 この地下に何があるのか、全部暴く。


 鎖が、ガチャリと鳴った。




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