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【監禁】7日後に死ぬヤンデレと僕。~死に戻りで死亡エンドを絶対回避してやる~  作者: 緋村 獏


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3/11

鍵穴



 五回目の一日目は、静かに始まった。


 女が食事を持ってきた。おにぎりと、温めた味噌汁。前はパックのまま出てきたけど、最近は器に移して温めてくれている。「お薬」の白い錠剤をテーブルに置く。いつもと同じ。


「ありがとう」


 初めて言った。女が少しだけ驚いた顔をした。


 感謝しているわけじゃない。でも、この女の行動パターンを正確に観察するには、敵意をむき出しにするより、少しだけ穏やかに接した方がいい。四回死んで、それくらいのことは考えられるようになった。


 女が出ていくのを待って、作業を始めた。


 まずスプーン。食事のたびに一本もらえる。プラスチック製だけど、柄の芯に薄い金属の板が入っている。前回はこれを壁で削ってネジ回しにした。今回はもっと細く削る。


 壁のコンクリートにスプーンの縁を押しつけて、繰り返し擦る。ゴリ、ゴリ、ゴリ。単調な作業。女がいない時間だけやる。女が来る気配がしたら、ベッドの下に隠す。マットレスとパイプの隙間に挟めば見つからない。


 二日目の終わりに、ベッドのネジを外した。前回の経験があるから早い。ネジを手のひらに載せる。長さは三センチほど。先端は尖っている。


 枷の鍵穴を覗き込んだ。小さい。暗い。中の構造は見えない。ネジの先端を差し込んでみる。入る。奥で何かに当たる。


 ぐりぐりと回してみた。手応えがあるような、ないような。何かの突起に引っかかる感触がある。でも、どう動かせば開くのかがわからない。


 三日目。四日目。ずっとやっていた。女がいない時間はすべて鍵穴に費やした。指先の感覚だけが頼り。目で見えない構造を、ネジの先端で探っている。


 少しずつ、わかってきた。鍵穴の奥に小さなピンが二つある。これを同時に押し上げれば——たぶん、開く。でも「同時に」が難しい。ネジ一本では一つしか押せない。


 もう一本、何か細いものが要る。




---




 五日目の朝。頭痛がひどかった。


 ここ数日、作業に集中しすぎて気づかなかったけど、後頭部の鈍痛がずっと続いている。視界の端がぼやけることがある。手先の細かい作業をしていると、ときどき指がうまく動かない。


 テーブルの上に、白い錠剤が置いてある。今朝、女が置いていったもの。毎回出される「お薬」。ずっと飲まなかった。何を飲まされるかわからないものを口にする気にはなれなかった。


 でも——このままじゃ鍵穴の作業ができない。指先の感覚が鈍い。集中が持たない。あと二日で枷を外さなきゃいけないのに。


 錠剤を手に取った。小さくて、白くて、なんの変哲もない。


 飲んだ。


 水で流し込んで、しばらく何も起きなかった。毒ならここで死ぬ。それならそれで、また戻るだけだ。


 一時間くらい経った頃だと思う。気づいたら、頭痛が引いていた。


 嘘みたいだった。ずっとこびりついていた後頭部の鈍痛が、霧が晴れるみたいに消えていく。視界がクリアになる。指先の感覚が戻る。部屋の輪郭がはっきりと見える。


 本物の薬だった。頭の怪我を治すための。


 ——この女は、最初からこれを飲ませようとしていたのか。


 考える余裕が生まれると、別のことにも気がついた。


 食事を持ってきた女の顔。薬を置いていくときの手つき。「ごはん、あとで持ってくるから」の声。


 何かが、引っかかる。


 知らない女のはずだ。こんな人、見たことがない。でも——声が。声の調子が、何かに似ている。ずっと昔に聞いたことがあるような。


 思い出せない。何に似ているのかがわからない。頭の奥に霞がかかっていて、手を伸ばしても掴めない。


 今は枷だ。まず枷を外す。考えるのはそのあとでいい。




---




 薬を飲んでから、作業の精度が上がった。


 鍵穴の中のピンの位置が、前より正確にわかる。二つのピンを同時に押すために、もう一本細いものが必要。スプーンの金属板をもう一枚、今度はもっと細く削った。二日がかりで、針のように薄い金属片を作った。


 六日目の夜。女が長い外出に出た。


 今しかない。


 ネジの先端を鍵穴に差し込む。奥のピンに触れる。左手で金属片を入れる。もう一つのピンを探す。


 指先の感覚だけが世界のすべてだった。呼吸を止める。ネジを少し回す。ピンが押し上がる感触。金属片を、もう少し奥に——


 カチッ。


 小さな音がした。


 枷が、開いた。


 金属の輪が足首から離れる。あまりにもあっけなく、あまりにも静かに。五回死んで、ようやくたどり着いた答え。


 足首が軽い。立ち上がる。鎖の重さがない。何の制約もなく、部屋の中を歩ける。扉まで歩ける。


 扉に手をかけた。鍵はかかっていない。女が外出するとき、外から施錠しているのだと思っていた。でもかかっていなかった。枷さえあれば扉まで届かないから、鍵をかける必要がなかったのだろう。


 引いた。重い金属の扉が、ゆっくりと開く。


 廊下。薄暗い。コンクリートの壁が続いている。蛍光灯がところどころ切れていて、明るい場所と暗い場所がまだらになっている。


 空気が少し違う。部屋の中よりも冷たくて、どこかから微かに風が流れてくる。上の方から。


 左に進むと、すぐに行き止まり。重い扉が一つ。施錠されている。


 右に進む。廊下が折れ曲がって、また扉。ここも施錠。その先に——階段があった。上に続いている。


 地上への階段。


 風が降りてくる。夜の匂いがする。土と草と、冷たい空気。外の匂いだ。


 何日ぶりだろう。何週間ぶりだろう。もう数えられないくらいの間、この地下にいた。身体は七日分しか経っていなくても、記憶の中ではずっと長い。


 階段を上った。一段、一段。足音を殺して。脈が耳の奥で鳴っている。


 上に扉があった。錆びた金属の扉。隙間から月明かりが漏れている。


 押した。


 軋みながら、開いた。


 ——外だ。


 夜空が見えた。星が出ていた。冷たい風が顔に当たった。目の前に、崩れかけた建物の廃墟が広がっている。草が伸び放題で、人の気配はない。


 ここは——どこだろう。見たことのない場所。廃墟。こんな場所の地下に、ずっと閉じ込められていた。


 一歩、外に踏み出した。草を踏む感触。土の匂い。空が広い。こんなに空が広かったことを忘れていた。


 もう一歩。


 ——パン。


 乾いた音がした。


 何の音か、わからなかった。花火? そんなわけない。こんな場所で。


 足から力が抜けた。立っていられない。膝が折れる。地面が近づいてくる。おかしい。どうして立てないんだ。


 痛みは遅れてやってきた。胸の真ん中が、燃えるように熱い。


 ——撃たれた?


 誰に。どこから。


 視界が傾いていく。草の間に倒れる。月明かりが遠くなる。


 その瞬間——声が聞こえた。


 悲鳴だった。


 女の悲鳴。甲高くて、切羽詰まった、聞いたことのない声。あの女の——いつも静かで、穏やかで、笑いながら首を絞める、あの女の、悲鳴。


「——ッ!!」


 何か叫んでいる。僕の名前か。誰かに向けた言葉か。聞き取れない。


 どうして。


 どうして、あの女が叫んでいるんだ。


 意識が、遠くなる。


 最後に思ったのは——あの悲鳴が、怒りなのか、恐怖なのか、ということだった。


 ——暗転。




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