休養
わたしが樹衣の恋人だったということは瞬く間に楽団全員に知らされ、今や周知の事実になった。そんな中、わたしは宿の自分の部屋の寝台で樹衣に膝枕をされ、子供たちに額や頭を撫でられている。数日前に久し振りに閨を過ごしたためか、今頃になって少し具合が悪くなったのだ。だるくて吐き気もする。風邪が感染る困るからと思って子供たちには離れているように言ったが、ここ数年風邪をひいておらず気が大きくなっているのか、子供たちはわたしの看病をすると言って聞かなかった。
「前に母様が僕の看病してくれた時の恩返し!」
「私は母様にいつもの恩を返すの」
二人がキラキラと輝いた顔を向けてきたので、わたしは粘り負けして看病をしてもらうことになってしまったのだ。
「美美に看病してもらったと樹徒が言った時は、息子とはいえ嫉妬したぞ」
更には拗ねた恋人。ということで、これを拒否するのは面倒くさいという結論に至り、甘んじて看病を受けることになったのだ。
「息子に嫉妬しないで下さい。そんなことをしていたら嫌いになりますよ?」
わたしがそう言った瞬間しょぼんとする御仁に、わたしはため息が出る。失礼だが、まるで犬にしか見えない。
「俺は美美に嫌われるために看病している訳では無い。美美に好かれたくて看病しているのだ。あっ、もちろん、心配だからという理由もあるぞ?」
「慌てて取り繕っているのがバレバレですよ」
わたしが呆れたような声を出すと、樹衣はぐっと言葉に詰まる。
「美美に好かれたいというのは本心なんだ。でも、心配しているのも本心だ」
そう言ってモジモジする樹衣に、わたしは苦笑しかできない。久し振りに会った時、大人になったと思ったが、まだまだ子供の部分が残っていたようだ。
「わたしはあなたの姉のようなものなのですから、甘えても良いのですよ?恋人でもありますし」
わたしが彼の膝から少し起き上がって樹衣の頬を撫でると、樹衣の顔が真っ赤になった。
「あ、甘えたいが子供たちの手前、我慢しているんだ!」
「正直でよろしいこと。でも、本当は恥ずかしいのではありませんか?子供たちの前だからというのは建前で」
わたしが不敵な笑みを浮かべてそう言うと、樹衣はまたぐっと言葉に詰まった。
「そうだったらなんだと言うんだ」
あ、開き直った。
「恥ずかしがらずに甘えて下さいと言うんです!膝枕されている時に言えることではないとは思いますが」
わたしがそう付け足すと、樹徒がニコニコ笑いながら言った。
「父様と母様は仲が良いんですね!」
仲が良いのは本当だけど、子供に言われるのは恥ずかしい。わたしがもう一度樹衣の膝に頭を預けると、樹衣も寝台に寝転がったため、結局膝枕は意味を成さなくなった。
「樹衣、早く起き上がってください。体調不良が治りません」
わたしが不満を口にすると、樹衣もムスッとした顔になった。
「俺だって疲れているんだ。少しくらい休んだって良いだろう」
「駄目です。病人を優先してください」
わたしが冷たい目を向けると、樹衣はムスッとしたまま、体を起こした。
「分かったよ。美美の体調不良が長引いたら困るからな」
「ありがとうございます、樹衣さま」
わたしがわざとさまを強調して言うと、樹衣は諦めたような顔になった。
「気が済むまでこのままでいてやるから、早く寝ろ」
樹衣につむじのあたりを撫でられ、その感触に心地よさを感じながら、わたしは眠りに落ちた。




