わたしの気持ち
わたしは息を吸った。そして、大声で言った。
「樹衣さま!わたしと子供たちを央都へ連れていって下さい!お願いします!あなたが好きなんです!」
我ながら、魅力的な雰囲気のなさすぎる告白だと思った。子供たちは今捕まえそうになっていた蝶を取り逃がしてわたしの方を凝視し、宿の他の宿泊客は窓から何事だと顔を突き出している。当の本人樹衣さまは唖然としてわたしの顔を見つめている。こんなやり方だと断られるだろうか。でも、李里。あなたの言った通り、わたしの気持ちをぶつけた。子供たちを産んでから初めて、自分の気持ちを優先した。きっとこれで良い。自分なりの方法がこれだ。わたしが必死な気持ちで樹衣さまを見つめていると、彼は花が咲くように笑った。その頬をさっきと同じものが伝う。
「ああ、連れていく。子供たちも一緒に。お前が好きだから」
その言葉に、わたしは嬉しくなって思わず大好きな白百合の香りのする人に飛び付いた。
「ありがとうございます!ところで、老人にでもなったのですか?ここ数日涙もろいですよ?」
わたしがそう冗談を言うと、樹衣さまはわたしの頬を拭った。嬉し涙が流れていたらしい。
「お互い様だな。ほら、おいで、樹徒、鈴桜」
樹衣さまが手招きすると、子供たちが駆け寄ってきて抱き合うわたしたちに飛び付いた。
「母様、頑張ったね!」
「これから父様と一緒!」
馬鹿騒ぎをするわたしたちに、宿の宿泊客たちが窓から祝福の言葉を送る。
「おめでとう!」
「姉ちゃんあんた根性あるな!」
その中で一際わたしの心に届いた言葉があった。
「菁凜!よくやった!ちゃんと自分の気持ち、ぶつけたね!」
李里が窓から身を乗り出してこちらに手を振っている。わたしは李里に手を振り返した。
「ありがとう!李里がいなかったらどうなってたか分からない!」
わたしたちが叫びあっていると、右手に樹徒、左手に鈴桜を抱えた樹衣さまが微笑んだ。
「李里殿!俺からも感謝する!妻に助言してくれてありがとう」
樹衣さまが発した『妻』という言葉に思わずビクッと反応してしまった。そんなわたしをにやけながら見た李里は、つい昨日までバチバチと火花を散らしていた相手に満面の笑みを送った。
「いえいえ。奥様の親友として当然のことをしただけです。菁凜のこと、よろしくお願いしますね」
そこで唐突に樹衣さまがきょとんとした。
「なあ、美美。気になったんだが、菁凜とは誰のことだ?」
間の抜けた顔にわたしは忍び笑いを漏らしながら言った。
「わたしの逃亡中の偽名です。噂になったらすぐに樹衣さまや知り合いにバレてしまうと思って。ほら、色々と事情がありましたから」
「そうか。ところで、今更なのだが、俺のことを呼び捨てにしてくれないか?」
赤い顔の貴人に、今は呆れることができなくて、わたしはふふっと笑いかけた。
「良いですよ、樹衣」
桜が舞う中庭で、わたしたちは深い口付けを交わした。




