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紅の御簾とき  作者: 鈴のたぬき
第五章 平穏
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 樹衣視点です。ちなみに前のエピソード「引退」から一年が経過。子供たちは六歳に。

 ある楽団が央都おうとで噂になっていた。鈴楽団といって、芸人の舞が一級品なだけではなく、宴の際にある一人の舞手に碁で挑戦できるらしい。だが、誰もその舞手に碁で勝ったことがないと言う。

「どのような手を差してくるのだろうな」

俺がそう言うと、側に控えていた舞雪ブセツが答えた。

「気になるのなら、こっそり視察に行ってみては?」

「行きたいのだがなあ」

碁が得意ということが美美(ミイミイ)に重なる。五年ほど前、美美から手紙が届いたときには俺のことを忘れていないのが分かって安堵したものだ。だが、それからなんの音沙汰もない。俺のことはもう忘れたのではないか、そんな予感がしてくる。すぐにでも視察に行きたいが、東宮である俺が少しの間でも政治から抜けると国政が滞る。だから行けない。

「舞雪、誰か東宮の仕事をできる人材を知らないか」

「あら、身近な所にいらっしゃるじゃありませんか」

身近な所?ああ、あの人か。

張今(チョウキン)様か」

現在妻と娘の世話に時間を費やしている御仁だ。確かにあの方なら東宮の仕事もできるかもしれない。というかできるだろう。

「なぜ今まで思い付かなかったのか分からない。舞雪、ありがとう。引き継ぎが終わり次第、視察に行こう」

俺は紙に用件を書き、使者に託して張今様の元へ向かわせた。これで美美を探せる。張今様が絶対に承諾してくれるとは思っていないが、張今様は美美のことを目に入れても痛くないかのように可愛がっていた。事情を知れば力を貸してくれるだろう。俺は知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。


○○○


 「樹衣、なぜ私に東宮の仕事をして欲しいのだ?お前のことだから何か事情があるのだろう?」

使者を遣った翌日、執務をしている俺の元へ張今様がやって来た。本来用件がある人間が頼まれる人間の元に行くものだが、この場合俺の方が身分が上なので、申し訳ないがこちらに来てもらった。

「はい。ある噂があるのをご存じですか?碁が得意な舞手がいるという噂です。特徴からして美美に似ている。仕事の引き継ぎが終わり次第、探しに出たいのです」

俺が言うと、張今様は穏やかに頷いた。

「分かった。私も妹と再会したい。引き継ぎが早く終わるように力を尽くそう」

「ありがとうございます。ですが、俺が担当していた仕事はかなりの数がありまして。引き継ぎに最低で六ヶ月ほどかかると思われます」

中々に長い。それも最低だ。実際は約一年かかるだろう。それでも、彼女を探すためには何でもする。

「俺は美美が大事なんです。そのために頑張っていただきたい」

「ああ、分かっている。引き継ぎは早速明日から始めよう」

そう言ってくれた張今様に、俺は椅子から立ち上がって深く頭を下げた。

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