別れ
わたしの産後疲れがなくなり、体力も回復した春、わたしたち鈴楽団は華栄の後宮を後にした。自分たち親子のせいで楽団の人たち全員を長い間一つの場所に留めてしまって申し訳ない。鈴楽団の芸人は、皆各地を飛び回るのが好きなのだ。でも、その罪悪感以上に、樹徒と鈴桜と一緒にいられるのが嬉しい。この子たちの父親は遠くの地にいるけれど、その分わたしが精一杯愛情を注いで、育てて、守ろう。そんな決意を胸に、わたしたちは馬車に乗って華栄の後宮の門を見つめた。
○○○
子供たちが生まれて一年が経った。二人とも、今楽団が泊まっている宿のわたしの寝台で手を取り合ってぐっすり眠っている。わたしは机の上に紙を広げ、そっと筆で字を書き付けた。
『東宮殿下へ
いきなりこんな手紙を送ってもきっと迷惑で、検閲が入って届かないと存じますが、それでも書かせてください。わたしたちの近況です。まず、おめでたい話です。菻明が娘を産みました。黎蘿と言います。父親は雲風です。菻明に似て可愛らしくて、将来が楽しみです。こちらはとても驚く話です。兄様に会いました。亡くなったと思っていた、あの安琴です。同じ楽団の副団長の養子になっておりました。詳しいことはまた次の手紙に記します。届くかも分かりませんが。察しの良いあなた様ならお分かりだと思いますが、こうして手紙を書くことができていて、わたしは無事です。またいつかお会いしたい気持ちはございます。ですが、わたしから会いに行く訳にはいかないのです。あなたの気持ち次第で、わたしの望みが叶うかは決まりましょう。
元侍女兼護衛、明美美より』
こんなもので良いだろうか。最後の方は少し不敬になったりしないかしら。でも、この手紙を読んでほしい。それが、わたしの願いだ。手紙にも書いたように、兄様と再会することができた。父様の養子だった、あの安琴さんだ。自分の人生を犠牲にしてわたしのことを救ってくれた兄。感謝してもしきれない。手紙に子供たちのことは書かなかった。だって、それを樹衣さまが知ったらきっと彼はわたしたちのことを探し回る。それでもしも見つかってしまったら子供たちを政治の渦に巻き込むことになる。それだけは阻止しなければ。
「はあ……」
気を付けることが多すぎて、思わずため息をつくと、樹徒が「うう」と呻いて起き上がった。そしてわたしに小さな腕を伸ばしてくる。
「かちゃま!」
「はぁい。樹徒は目が覚めたんだ」
わたしが抱き上げて額をこつんと合わせると、樹徒は嬉しそうな顔をする。
「かちゃま、おてげみ?」
これはきっと『母様、お手紙?』と言おうとしてる。やっぱりまだ一歳だ。
「おてがみ。父様に書いてたの」
「とちゃま!」
満面の笑みの樹徒に、わたしも微笑みながら心の中で申し訳なく思う。父の存在を知らせながら会わせないなんて、我ながらひどい母親だ。
「かあさま、なんのおはなし?」
寝台の上から娘の声が聞こえた。どうやら鈴桜も起きたらしい。鈴桜は双子の妹だが、樹徒に比べて言葉がしっかりしている。将来弁が達者な女性になりそうだ。
「りんよ!とちゃまのおはなち」
「とうさま?」
鈴桜は可愛らしく首を傾げる。これはわたしと樹衣さまの血を引いているだけあって大変な美少女になりそうだ。言ってしまえば樹徒は樹衣の美貌を余すことなく受け継いでいて、一歳なのに大人っぽい雰囲気が漂っている。実際はかなり幼いけど。
「鈴桜。樹徒。二人とも大好き!」
わたしがそう言って思い切り二人を抱き締めると、二人は嬉しそうな声を上げた。
「かちゃまだいちゅき!」
「かあさまだいすき!」
その日は二人を抱き締めて三人でお昼寝をした。




