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王妃主催ピクニック 初夏のクランペンボーの森の雷鳴Ⅲ

王妃主催のピクニックで下級貴族の侍女がまさかの王妃とラファイエルとの不倫現場の告白。

そんな修羅場をストルーエンセとラファイエルを二人が抜け出す。


挿絵(By みてみん)「まったく近頃の王宮の侍女も髄分と品位が下がったようだね。

 事もあろうかこの国の王妃陛下にありもしない不倫疑惑を捏造する者がいるとは!」

テーブルを離れ何故か馬番に用意させた2頭の馬に乗ったストルーエンセは深い溜息をついて吐き捨てるように話す。

その様子はいかにも煩わしそうで不愉快でたまらないと言わんばかりだ。

しかしラファイエルはその奥底に宿る暗闇の中に僅かな悪意と嫉妬を感じ取らずにはいられなかった。


この人物は本当に王妃陛下を愛しているというのか?

そう運(・)命(・)の(・)相(・)手(・)なら私は引こう。

そもそもそのつもりでいた。

でも………欲がでたのだ。

もしかしたら今度こそと…という欲が…………。


ラファイエルの奥底に沈め、決して表には出さないと強く心に決めていた秘密。

身を焼き付くすほどの深い深い焦がす思いを胸の中に覆い隠すつもりでいた。

けれどほとばしるその感情に自分人さえ翻弄されていた。


ストルーエンセに腹を乗せた馬は十分に調教されているのか、鳴きもせずに森の小道へと静かに入っていく。

逆にその静けさが妙な緊張感を生んでいた。


ラファイエルはストルーエンセの発した言葉を聞こえないかのように無言で調教師から馬の手綱を受け取る。

鐙に片足を掛けて勢いよく鞍に跨ぐ様子は手慣れていた。

そして馬を走らせストルーエンセの後に続いて木漏れ陽の振り注ぐ森へと歩む。


彼は何を考えているのか?


ふと後ろ姿のストルーエンセをじっと見つめ思った。

普通は動揺するはずだ。

いきなり侍女からの他の外国人との逢瀬を知ったのだから。

ストルーエンセと王妃陛下の不倫関係は公然の秘密だ。

流石に皆知っているとはいえ、めんと向かっていえるほど彼の権力は未だ低くない。

国王陛下の寵臣。

彼を自由自在に操れる唯一の人物が彼がどうしてい怒りを私に向けないのか?


「ラファイエル殿。

 気になさらぬ事だ。

 私もまさか王妃陛下が倫理の道を外れるような事はなさらないと確信している」


ストルーエンセの声が彼の背中越しに聞こえてくる。

静かで余裕のあるその声は逆にラファイエルを沈黙へと誘った。


どう返事をしていいのか?

何を答えたら正解なのか?

王妃陛下に迷惑のかからない正解が出てこない。


彼の望む答えは否定か?

肯定か?

けれど……はたして彼は…彼の本心は?


ようやく整理出来た言葉をゆっくりと慎重に話始めた。


「王妃陛下を敬愛いたしております。

 陛下の喜びは私の喜びでもあり。

 異国の私にわけへだてのない接し方をくだ

 さる方は欧州の高貴な方々の中にはいらっ

 しゃらないでしょう。

 だからといって王妃陛下を困らせるつもり

 は毛頭ございません。

 ただ王妃陛下の望みを。

 幸せを願っております。

 ただそれだけでございます」


その言葉は逆にストルーエンセを刺激する事になるとは思わなかった。


本当に?

この男は絶対に王妃を愛している。

しかしそれを表に出し、王妃を誘惑しようとするほどの度胸はない。

しかしこれほどの美貌だ。

王妃の心もいつ変わるかわかったものではない。

ここは釘を刺しておいた方がいいだろう。


ストルーエンセは口元に不敵な笑みを浮かべながらもまるでラファイエルを刺激するように嫌みっぽく話始める。


「…なるほど。

 では王妃陛下の醜聞になるような行為はさ

 れていないと理解してよろしいのですね。

 私はこの国の政治を担う者として。

 国王陛下の寵臣として。

 見逃せないのです」


「ストルーエンセ殿。

 王妃陛下となにかあるなど。

 恐れ多く…ただあの方の幸せを願っているだけでございます。

 他に何があるというのでしょうか?

 仮に陛下とそのような関係になったら。

 この生命を差し出す覚悟は出来ておりま

 す。

 そのような事にはならないと断言出来ます。

 何(・)故(・)な(・)ら(・)私(・)は(・)己(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)お(・)り(・)ま(・)す(・)」

その言葉には明らかな悪意が混じっているのを咄嗟に感じた。


つまりは王妃と公然としながらも秘密の関係を持っている私への苦言だ。

生意気な男だ。

女の様な容貌を持ちそれなりに商才もある異国人。

妙な事をして外交問題になっても問題だ。

しかし警告は必要だ。


「それは気高い忠誠心だ。

 中世の騎士のごとくだね。

 そんな事が白日の元さらけ出されたら。

 外交問題だ。

 国王陛下がようやく手に入れた静かな日々

 は無残に砕けちるだろう」


「ストルーエンセ殿。

 ストルーエンセ殿は王妃陛下をどうお思い

 で?」


「…恐れ多い。

 まさか君まで巷に蔓延る下賤な噂を信じているのかね」


「…仮に仮にそうだとしても。

 王妃陛下を生命にかけてお守りするのが臣下の務め。

 ましてや愛しい方なら尚更です」


「はぁ〜君まで下賤な事を言い出すね。

 最近卑しい者達は王妃陛下のお腹の子は私

 の子だと。

 もっぱら噂しているようだ。

 片っ端らから兵に逮捕させても埒があかな

 い。

 まったく誤解もいいところだ。

 勿論王妃陛下を敬愛している。

 臣下としてだ。

 君と同じだ。

 あの方の幸せだけを願っている」


「私は貴方様を王妃陛下の運命の方とそう信じてやみません。

 どうか王妃陛下の安らかな宮廷での生活が出来るように手助けされていると確信いたしております」


「運命の相手か……。

 そうだ私は王妃陛下の運命の。

 勿論国王陛下の寵愛されている伴侶でいらっしゃる。

 それとは異となる運命が我らにあるからだ。

 誰も誰にも引き裂かれない運命の」


「ストルーエンセ殿……私は貴方様が私欲の為だけにコペンハーゲンにいらっしゃった訳ではありますまい。

 そう思っております。 

 王妃陛下を危険に晒す事なく改革を成し遂げられる事を願ってやみません」


「勿論だ」


あああぁ~~~本当にむかつく男だ。

ストルーエンセは瞳だけが笑わず、満面の笑顔を湛えたその時。


一瞬ストルーエンセの瞳に殺気の炎が灯った。

そしてそれは真っ直ぐラファイエルに向けられたていた。

そう一瞬の出来事だ。


殺意!

そうラファイエルが思った時には強い風が起った。


イタッ!!

右頬に傷みが走り、僅かな鮮血が頬を伝っていた。

殺されるとそう思った直後。

しかし頬を伝う血だけで身体に異変はない。


キャン!!

何かが悲鳴の様な声をあげた後、ドズッと何かが落ちた音が耳を裂いた。


音の鳴った方向に目をやるとそこには息絶えた大きな狼の死骸が横たわっていたのだ。


「失礼したラファイエル殿。

 君を狙っていたから射殺したのだ。

 決して君への殺意ではない。

 信じていただけるかな?」


「…ありがとうございます。

 勿論です」


「……そうだ。

 ラ(・)フ(・)ァ(・)イ(・)エ(・)ル(・)君(・)

 忠告しておこう。

 深入りしない事だ。

 この国の事には君の身のため、強いてはフランス王国の為に。

 距離を置くべきだ。

 王妃陛下との。

 それと……君には特別に秘密を伝えておこう。

 私は王妃陛下を愛している。

 王妃も私を心の底から愛している。

 深くこの身を沈めても。

 この国の為に私の全てをかけて。

 王妃陛下を。

 この国を。

 健全であるべき姿を皆に。

 見せてみせる」


「…………。」

ラファイエルは彼を刺激しただけだと悟った。

また彼の言う愛という言葉の薄っぺらい感情を犇々と感じながら、いいしれぬ怒りが身体中を駆けていくようだった。


「さあ~~そろそろあちらも落ち着く頃だろう。

 戻ろうではないか?」

ストルーエンセは何事もなかったかのように涼しい顔でラファイエルに微笑みかけた。


「…は…い」




ひやりとした男の嫉妬。

さて会場に戻り待ち受けるのは?


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