王妃主催ピクニック 初夏のクランペンボーの森の雷鳴Ⅱ
王妃キャロラインマチルダ主催のピクニックで謎の侍女がある告白を始めようとしていた。
ストルーエンセの推薦された下級侍女の告白とは?
「……王妃陛下………僭越ながら!!」
声が裏返っていて震えているけど瞳には軽蔑がありありと見て取れる。
手を握りしめて瞼を閉じて下を向きながら叫んだ人。
そうあの初めて会った末席に座っているストルーエンセの招待したあの女性。
もうめんどくさいわね………。
ストルーエンセの策略だろうし、あんまり事を大きくすると後々面倒だし。
どうしたものかしら??
けれど……宮廷の侍女とは私の知る限り中流階級の侍女ですらなさそう。
ライトグレーの刺繍も飾りもないドレスに小ぶりの真珠のネックレスをつけた見た目には中間層の市民の様な身なり。
髪は艶が失われ艶がないし傷んでいてそれを隠すように無理やりに後ろに束ねている。
目は薄く目尻は引き上がり生気がない肌も青白悪くさえないし、ただでさえきつく見える顔立ちがさらに鋭い印象を受けるわ。
「ええ………何かしら?
えっ………とどなただったかしら?」
本当に知らないからそう言ったわ。
「クリスティーナ・フォン・オルディルと申します。
国王陛下の寝所での着替えを担当しております宮殿の侍女でございます」
眼差しに敵意と侮辱めたさが深く根づいている。
私の事が大嫌いのようね……。
「国王陛下の御意向でお呼びいたしました」
ストレートエンセが呟くような低い声で教えてくれた。
「あっそうなの」
そんな訳ないでしょう。
貴方でしょ呼んだのは!
あの夫が啓蒙主義の広い啓発の為に自分の侍女を推薦なんてする精神状態じゃないのは知ってるのよ。
「はい!
国王陛下の傍に仕える者として………どうしてもお聞きしたい事がございます!!」
「えっ??
何かしら??
オルディル嬢」
「………王妃陛下。
あんまりです。
国王陛下と敬愛されているストレートエンセ殿が不憫で!」
「な……」
不憫って?
あの人が?この人が??
は~い??
表情を出さないようにするつもりだったのに濁流の様に表に出てしまったの。
言葉につまって身体が凍り付く。
「貴女!!失礼でしてよ。
今日は王妃陛下が主催の会ですわ。
それを無礼にもほどがあります」
年長のホルスタイン伯爵夫人の甲高い声が空に木霊して嬉しいやら恥ずかしいやらなんだか微妙です。
「国王陛下は確かに怖いです。
突然叫んだり、物を投げつけたり、臣下を殴ったり。
でもストレートエンセ殿が来てから穏やかになられました。
なのに………あんな…」
骨の浮き上がった手の甲で顔を覆いつくしてすすり泣き始める。
興ざめ………。
「だからどうしてお2人が不憫なのかしら?」
私は怒りを胸の奥底に沈め無理に口角を上げながら静かに問う。
「私この前の宮廷の夜会のバルコニーで偶然見たんです。
王妃陛下とそこにいるラファイエルという男性と親密な関係ですよね。
王妃陛下は………。
国王陛下を裏切り、ストルーエンセ殿を裏切り。
国家を裏切っているのです」
ラファイエルを指さして何か立派な事を成し遂げたと言わんばかりに言い放つ、
「ちょっと貴女。
本当におやめなさい。
王室への侮辱罪で逮捕重罪になりますよ!!」
ビューローがここで留めに入る。
彼女はどっちかというとこういうめんどくさい話題は普段知らないふりをするタイプだけど流石にまずいと思ったみたい。
「そ…そう………ですわ!!」
怒りで声が上擦っているホルスタイン伯爵夫人は手を強く握りしめている。
「………??」
まじか?
あの夜の光景を見てた?
そうこの前の宮廷の夜会のバルコニーでラファイエルは私に告白したの。
あの時傍に人がいたなんて!!
「ちょっと貴女!
それだけでは王妃陛下が不倫をしているという証拠にはなりませんわ」
「そうですわ。
それに無粋ですわね。
だから下級貴族の娘は………」
ゲラーがつかさずビューロの言葉に同調してその侍女を征止する。
「私は落ちぶれたとはいえ初期の王室に仕えた騎士の家系に繋がる由緒高い名家の家柄の血筋です。
貴女達とは違います。
この目でしっかり、この耳で聞いたのです。
あのラファイエルが王妃陛下に愛の告白をしていました!!
それに!!
王妃陛下は夜な夜な宮殿を抜け出し。
変な老紳士と突然キュー庭園に現れましたよね。
私見たんです!!」
「また訳の分からない事を!!」
ホルスタイン伯爵の目頭がキュッと上がり侍女を睨みつける。
怖い~~~普段は温和な伯爵夫人です。
「多くの近衛兵のいる宮殿のしかも王妃陛下のいるエリアに老人が出入りできるはずはありませんわ。
貴女はどういう訳でそんな事を言い出すのですか?
宮殿の近衛兵も愚弄する発言ですわよ」
ビューローが淡々と問いただす。
「勿論です!
皆様王妃陛下に騙されているのです。
今では大人しく人の良い国王陛下と生真面目で理想高い啓蒙主義の申し子唯一の王顧問官であるストルーエンセ殿を!!」
ちょっとあんまりじゃない?
私は英国の王女。
お父様は即位しなかったとはいえ王太子だったのよ。
そりゃ王女としての公務は全然していなかったわ。
お母様は国王陛下からも王妃陛下からも市民からも評判は悪かったわ。
私も国でもこの国でも不評よ。
わかっているわ。
でもこんなに侮辱されることある?
あぁぁ~~~わかったわ…わかった。
そうストルーエンセの事が好きなのね。
あぁぁ~~~~だから彼女をここに招待したのねストルーエンセ!!
本当に嫌な奴!!
私がどう出るか??
試しているのね!!
この性悪男めえ~~~~~~~。
「どうやら我々はここにはいないほうがよいようだ。
静かになるまで軽い狩りでもしないか?
ラファイエル君。
あっ!それとも狩の経験がないなら乗馬だけいかがかなぁ」
この修羅場から逃げ出すのか動揺した様子もなくさらりとラファイエルに離席を誘ったの。
ちょっとこの状況で放置するですって?
嘘でしょ!
何を考えているの?
私達の真意を確かめているのかしら?
「……」
ラファイエル何かいようとした時だった。
隣のサンジェルマン伯爵がテーブルの下で彼の手をしっかりと握りしめて、大丈夫だと言わんばかりに少し口角を上げて動揺するラファイエルを僅かな微笑みを瞳に湛え見つめていた。
「さぁ。
君は今席を立つべきだ。」
落ち着いた声でサンジェルマン伯爵がぼそりと呟くように促した。
ラファイエルは深く息を吐き言われるままゆっくりと席を立ち、ストルーエンセに促されながら私達から離れていった。
どうなるのかしらこれから………………。
離席したストルーエンセとラファイエルの二人はいったい?
そして残されたキャロライン・マチルダ王妃はどう立ち向かうのか?




