宮廷舞踏会の光と影 春と別れを告げて運命が動き始める夏へⅢ
宮廷夜会の日にストルーエンセに近づく女が。
予期せぬ危機がキャロラインマチルダ王妃にたちはだかるのか?
「ストルーエンセ様。
私は見たのです!
フランス人商人のラファイエル・ドゥルヴィーユと王妃様の密会現場を!!
この目で確かに!!
王妃陛下に騙されてはいけないと存じます」
客と歓談中にどこからか現れたワインのグラスを手にした下級の女官が私とぶつかった。
いやあれはわざとだ。
その女の手からワインが零れて私のジャケットの胸元が赤く染まった。
女は慌てた様子で染み抜きをすると言い張り続け断る私の腕を掴んで有無を言わせず使われていない会議室に連れてきた。
すると女は慌てた様子でこう言ったのだ。
下級女官の分際で私を呼びつけたかと思ったらそれは突然の衝撃的な告白。
開いた口が塞がらず暫く身体が膠着して動かせない。
それでも頭の中は鮮明で必死でこの女の身元の記憶を探しだす。
あぁ~そういえばこの女……!
そうだ国王陛下付きの着替えを担当する女官だ。
度々王の寝室を訪問した折に陛下の着替えを手伝っている女官だと気がついた。
無理もない目に入らないほどの地味な印象の女だ。
確か陛下はほとんど寝室から出てこないから、着替えといってもナイトガウンを度々着替えるくらいだ。
今日の様な夜会か晩餐会、舞踏会、外交の謁見くらい礼服は着ず最近はほとんどないらしい。
そんな女の告白!?
信じるべきか?
それとも??
「………それに私以前王妃陛下がキュー庭園に突然現れたのを見たのです。
ストルーエンセ殿に報告したかったのですが……。
機会に恵まれず・……。
私は貴方様のお役にたちたいのです。
その為にどんな事もいたします。
ストレートエンセ様の為ならこの身を代えても……。
宮廷に使える下級女官ですが……それには事情がございまして……実家が落ちぶれた為。
生家は古くから王室に忠誠を尽くした伯爵家です。
王妃様は国王陛下を裏切っておられます。
どうか私の話を信じてくださいませ。
お願いします。
ストルーエンセ様!!」
この女の表情と言葉に嘘を感じなかった。
焼けつくほどの炎をたぎらせている瞳は嘘をついているようには見えない。
「王を愚弄している?
……貴女も宮廷に出入りしている女官。
私と王妃陛下の噂話を耳にしているだろうに。
私は国王陛下を愚弄しているとは思わないのかな?」
「ストレートエンセ殿の国王陛下への誠意と忠誠心は政治を知らないただの無知な女官にも。
わかります。
宮廷の噂話は面白可笑しく。
さも真実の様に語られるもの。
私はストレーエンセ様がそのような不埒な者にはとても思えません。
信じてくださいませ!
信じてくださるように私は何でもいたします」
「何でもか……?」
しばらくは目線を天井の隅に向けながら何気に思案しているような表情に変わる。
私は王妃とあの男が恋人同士だと知ったらどうするのだろうか?
王妃を見限る?
いや王妃はまだ利用価値がある。
表の宮廷と裏の宮廷どちらも制御出来てこの国は成り立っている。
まだ理想の国家とは程遠いのだ。
今はまだ国王も王妃も必要だ。
この女は愚かにもほどがあるが、王妃の監視にまあ利用する価値はありそうだ。
まぁはっきりさせて対策を講じるのがよいか?
王妃の私への愛情が消えたなら早くに手を打たないといけないだろうから。
思い返すように口角を少し上げて私はその女に微笑みかける。
勿論うわべたけの微笑を。
「では……あっ!
貴女のお名前は?」
「クリスティーナ・フォン・オルディルと申します。
今は国王陛下の着替えのお世話をいたしております」
「わかったクリスティーナ殿。
こちらからまた連絡するから。
この話は決して他言する事のないように必ずお願いしますね。
また私から連絡をするのでしばらくは動かずに陛下にお仕えしてくださいな」
「……はいストルーエンセ様」
ラファイエル・ドゥルヴィーユか。
確か王妃陛下に一度謁見していたなぁ。
確かに言われてみたらさっきの王妃を見るあの表情がやけに不愉快だった。
早めに手を打つのがいいかもしれないな。
***********************************************
下級女官と別れた後私は夜会の会場へと戻った。
宮廷に招かれた者達は機嫌よく踊り、会話して満足している様子だった。
しかしさっきの暗い会議室と違い煌びやかな大広間のここは煌々と輝く蝋燭の灯りは目に痛いほどだ。
足早に会場を歩く男の姿が気になり視線を移す。
あっ!ドゥルヴィーユだ。
絶妙なタイミングで現れた例の王妃の恋人だとあの女が主張した男だ。
彼の来た方向に視線を向けるとそこはバルコニーへと向かう窓があった。
しかもその傍には王妃の姿が見えたのだ。
これは何かあるかもしれない……。
私はそう直感した。
とにかく彼の反応が今はみたい。
ここは……。
丁度王妃はバルコニーを出てすぐに取り巻き連中につかまり、こちらの様子を見る事は出来ない。
今だ。
「ドゥルヴィーユ。
謁見の日以来ですね。
フランス商人である貴方が我がデンマークの経済を活性化を手助けしてくださること。
お礼申し上げる」
私は頬を上げながら手を差し出した。
彼は少し戸惑った表情を一瞬したもののすぐに落ち着いた物腰で私の手を取り、にっこりと微笑んで軽く私に会釈する。
「いえ…こちらこそよい取引をしていただいています。
これもストルーエンセ殿の尽力の賜物と感謝しております」
言葉とは違い瞳の奥は僅かに濁り、やや不満の渦が見え隠れしているように見えてならなかった。
「それよりも………。
我が国の王妃陛下の印象はいかがですか?」
「…他国の貴人をどうこうというにはあまりに無礼とぞんじます。
聡明で美しい御方と存じます。
ただ平民の中では悪意のある者の噂を信じている者も多く。
王妃陛下の評判を落とす言動が度々聞きますのを大変心配いたしております」
「どんな噂でしょうか?」
「……ストレーエンセ殿…聡明で宮廷の事情も詳しい貴方様。
ご存じないはずはございますまい」
「さあぁ??
……あぁ~もしかして王妃陛下と私の関係についての噂話でしょうか?
中には王妃陛下のお腹の子は私だと。
王家を愚弄する様な軽率な言動をしている者もいるそうだと聞いています」
「………ストレーエンセ殿。
私はその事については噂を信じている訳ではございません。
ただ事情を知らない人に流されやすい平民達にはそう信じてしまう者がいるのです。
これは王妃陛下にとっても。
貴方様にとっても。
良い事だとは思いません」
「そうでしょうね。
ただ国王陛下が私と王妃陛下だけを信頼されており、また恐れ多くも王妃陛下と私の信頼関係を強く望んでおられます。
私にはそういう噂の類には慎んだ行動が正しいと承知しておりますが……。
国王陛下の御意向も汲む必要がございます。
ただ外国人である貴方様が我が王妃陛下の御心配をしていただける事をとてもありがたく思います。
私も常に国王陛下の御意向を考慮しつつ王妃陛下に失礼のないように接する事にいたします」
「ストルーエンセ殿のお気持ちを察せず、大変な無礼をお許しくださいませ」
「いや。
また機会があればお話をしたいですね」
「そう言ってくださるのを光栄に存じます。
でも私の連れも戻ってまいりましたので。
これで失礼いたします」
はあぁ~~これは少し問題だ。
やれやれ一案を講じないといけないか………ドゥルヴィーユか…。
私はそう心の言葉を人知れず吐き咽る様な会場を後にした。
ラファイエルとキャロラインマチルダ王妃の関係に疑惑をもつストルーエンセ。
次話彼が仕掛けにいきます。
秘密は守れるのか?




