宮廷舞踏会の光と影 春と別れを告げて運命が動き始める夏へⅡ
ストルーエンセの主導で宮廷夜会が開催された。
ストルーエンセにヘキヘキとする王妃キャロライン・マチルダそこで新たな展開が待ち受ける。
本当に色んな階層の人々を招いたのね。
宮殿の大広間に蝋燭の灯が煌々と輝きを放っている。
嫌みなくらいに…。
その光で金彩や銀彩で描かれたゴテゴテした装飾と中央の巨大なクリスタルガラスで出来たシャンデリア。
本当に悪趣味。
そんな場所に今日はいろんな階級の人々が招かれたようね。
でも身なりは質素ながら品の良い装いの者も多いみたい。
概ねそれなりの階級の方々のようだけど、いままでこんな宮廷の光景を見た事がない高位貴族達はあからさまに嫌そうに壁際でこそこそと小声で話している貴婦人達もいるわ。
きっと旧保守派の奥方達ね。
ただでさえストルーエンセの断頭で夫達は宮廷で肩身が狭い。
その地位は直接自分達にも降りかかる。
プライドの高い彼らがいい気がしないのは当然よね。
「王妃陛下?」
ふっと耳をついたその声はストルーエンセのものだった。
うっかり気を抜いていたわ。
「ストルーエンセ。
何かしら?」
何事も思っていない風に装い彼の名を呼ぶ。
「ご覧くださいませ。
以前謁見に来たラファイエル・ドゥルヴィーユ殿があそこにいます」
口元にはやや不服そうな音を隠そうとしていない。
「そうだったかしら?
あまり記憶にないですわ」
ここで嬉しがったり気を引くような様子は見せない方がいい。
そう判断したの。
「私は彼の王妃陛下に向けた眼差しを忘れる事がありません」
ストルーエンセのが奥歯を噛み敵意さえ見せる。
ゾッとした。
権力への執着に似たしかしそれは嫉妬からくるものではない。
私はちらりとラファイエルを見る。
彼はこちらを見る様子も見せずに招待客と共に談笑していた。
彼もそうした方がいいと判断しているのは明確ね。
なのに……………。
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「王妃陛下。
失礼いたしました。
少し休むつもりでバルコニーに…。
私は……これで……」
僅かに震えてた声を発したかと思ったらラファイエルは私の横を通りすぎようとした。
少し疲れた私はバルコニーで休もうと熱気溢れる大広間を離れたの。
そこにラファイエルが立っていたのよ。
瞳があってすぐにラファイエルは視線を外してしまった。
どうしてなのかしら?
今は王妃の姿でいるけれど謁見の時にも動揺した素振りはなくて落ち着いていたのに。
「まっ!」
そのまま去るのがよいのはわかっていたけど、咄嗟に彼の腕を掴んでしまった。
「王妃陛下」
彼は明らかに戸惑っている様子で、辺りをチラチラと気にして瞳は忙しなく動いている。
「久しぶりですのに水くさいですわ。
ラファイエル。
今日はいらっしゃるのを聞いていませんで
した」
ラファイエルの表情に影が宿ったように見えて何故かドキッとした。
多分ストルーエンセの近くにいて何か勘付かるのではないかと思っているのね。
「はい王妃陛下。
王妃陛下もご機嫌いかがでいらっしゃいますか?」
「おかげさまで……つつがなく…過ごしています」
途切れ途切れに言葉を話すラファイエルの視線は暗い庭園に向けられ私を見ない。
ラファイエルは今この瞬間より、さっきまで招待客と話している世間話が頭からこびりついで離れないでいたらしい。
「ラファイエル殿の耳に入っているかは知らないけれど。
今コペンハーゲンでは王妃陛下の生まれてくるお子様の出生について噂話が尽きない。
つまり……王妃陛下が国王陛下を裏切り不貞をおこなった証が懐妊なのだ。
生まれてくるお子様は王族ではない。
国王陛下を侮辱し王室の品位を下げる。
決して許されないっと。
私は信じてはいないのだがね」
「その話なら私も。
その相手がストルーエンセ殿だと…!
無知な人民はそう信じて疑わないようです」
「…ラファイエル殿?」
「…いゃ……。
無知な人民を先導する旧保守派の根も葉もない噂を焚き付けたのでしょう……」
「きっとそうでしょう。
それにご覧になって。
国王陛下と王妃陛下にストルーエンセ殿
が和やかに歓談されているではありません
か。
お二人の寵臣でいらっしゃる方がそんな無謀な事をされるとは考えられないですもね」
「まったく。
人民はこのような和やかで宮廷を知らないから悪意を持つ輩に騙されるのですわ。
大方旧保守派達が広めたのですわ。」
そうコペンハーゲンで広まっているこれらの噂話はラファイエルの耳にも入っていた。
しかし真実は違う。
王妃陛下は裏切りってはおられない。
侍女が王妃の身代わりに秘密の夜伽をした結果の顛末だった。
その事実を知っているだけにラファイエルは胸の中にある真実を白日の元に晒したい衝動を必死に抑えたのだ。
まだその余韻は収まるどころか、王妃を目の前にして全てを吐き出させて一刻も早くこの国を脱出させたいと気だけがはやった。
「ならよいのです……」
私はやや伏し目がちにラファイエルを見つめた。
「王妃陛下!」
「何?
ラファイエル?」
「まだ例の時期ではありませんか?」
「時期?
あぁ〜。
えぇ……一緒に一掃したいの」
「しかし!」
「耐えられないのです」
「何が耐えられないというの?」
「王妃陛下が皆から誤解され、憎まれるのを……」
「…ラファイエル殿……ありがとう。
私はね。
目的の為なら何だって耐えられるわ。
だって本当に知ってほしい人はちゃんとわ
かってくれるもの。
それだけで十分よ」
「王妃陛下!
でも私は辛いのです。
貴方様が憎まれるのを………」
「ありがとう。
私は幸せよ。
ラファエル殿。
サンジェルマン伯爵。
そしてキュー商会の皆。
本当に!!
素敵な方に巡り会ったもの」
「王妃陛下!!
この実身を捧げます。
御為に全てを。
私は貴方様を……」
「………」
詰まる声にならない声の後に絞り出す様に思いもよらない言葉を聞く。
「貴方様を恐れ多くも愛しております」
ラファイエルは私の手の甲を震える指先で捕らえそっと口づけた。
「ただのたわけ者の台詞。
ただ真実を伝えたかったのです。
どうか…王妃陛下」
そっと私の手から熱い彼の指先が離れていく。
私に身を焦がすような甘い刹那的な気持ちがわかって胸がざわめく。
「ラファイエル……」
私の声が聞こえたか聞こえないかラファイエルはバルコニーを後にして去っていった。
なんとも言えない伝えきれない物足りなさと不安が私の心を激しく揺さぶった。
遂に愛の告白をしたラファイエルにキャロライン・マチルダ王妃はどうするのか?
次回この告白がキャロライン・マチルダ王妃が窮地に追い込まれていく。




