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ストルーエンセの改革の弊害 1971年春 不安と不満の渦Ⅴ

王妃キャロライン・マチルダとして次に向かうのは教会での慈善事業の慰問。

しかしそれは表向き?

朝食会で初めて政治に口出すような言動をして今頃喫煙室では不平不満の嵐の中でしょうね。

でもそんな事はどうでもいいのよ。

後からストルーエンセに適当に話すればいいんだし。

挿絵(By みてみん)

そんな事より今日はこれから助けを求められた夫人のいる慈善活動の慰安訪問の予定なの。

久しぶりに王妃として外出する。

慈善活動だから馬車はそう少し裕福なブルジョア階級使用でね。

ドレスも落ち着いた紺色のサテンの生地でゴテゴテした刺繍や飾りもないわ。

こっちの方が好き。

動きやすいし楽だわ。


揺れる馬車の中でまた思いついた事業を手当たり次第メモするの。

ドンドン滝のように出てきてもう頭から溢れでそうよ!

書いてはあれこれアイデアを模索しながらふと脳裏に浮かぶ。


巷では私の評判はだだ下がりらしい。

宮廷を追われた旧保守派達がこぞってあちこちで私の悪い噂話を広めているらしいわ。

らしいわっていうのは流石にめんと向かってはないのよ。

それって命をはらないといけないから。

なんせ私は未来の国王の母。

おいそれと批判すれば王室侮辱罪になるから。

その噂はほとんどストルーエンセとの不倫ネタなの。

ただ公然と非難はできないわ。

何せ確実な現場をおさえられていない。

なぜなら私とはそんな関係にないもの……。

私の評判は落ちれば更にこのデンマークを離れやすくなる。

将来的に息子の王太子の王位継承権を剥奪される事はないわ。

彼の出生にはなんの疑いもない。

ストレートエンセと出会う前に生まれた子。

デンマークの未来を託された子。


そんな事を考えていると馬車は目的地の教会に到着したのか歩みを止めた。

馬車からゆっくりと降りる。

なんせ妊婦姿だから……。

少し雨雲の残る空に高く聳え立つ屋根と重厚な石造りの教会が目の前に建っている。


その教会の前には威厳を湛えた牧師と見覚えのある品のよい若い婦人も隣に立っている。

彼女は潤んだ瞳と震える手をぎゅっとスカートを握りしめてこちらを見つめている。

実は朝食会で出た慈善活動で知り合った夫人とはこの方。

彼女の事で彼女の使用人を助けてほしいと懇願されていたのは事実だったの。

嘘の話だといかにも演技しているように見えるし、丁度使用人の兄の窃盗の話の相談を受けていた頃だったわ。

だから話題に出したの。


「御機嫌よう牧師様」


「ごきげんうるわしゅう王妃陛下。

 この度はわざわざご訪問を光栄に存じます」

誠実そうでいかにも牧師という風貌の初老の彼はやや腰を曲げて礼をする。


「御機嫌ようフォスター夫人」


「ごきげんうるわしゅう王妃陛下」

もう彼女は感激のあまりなのか涙目で思わず抱きしめてしまいそう。

夫人といっても年は私より1歳下で、しかも外国国籍結婚の為にデンマークにやってきた。

その使用人は自国から唯一連れてこれた召使いだったそう。


「では早速ですが。

 孤児達が待っていますわ。

 皆様参りましょう」


「はい王妃陛下」


「ではご案内いたします」


「牧師様宜しくお願いします。

 それとフォスター夫人。

 お手紙に書いたようにご心痛の件なんとかなりましてよ。

 後で私の懇意にしている商会で彼をお世話しますからご安心くださいな。

 後日この件でおたよりいたしますね」


「王妃陛下。

 感謝いたします」


「お気にされずに。

 フォスター夫人にご紹介する商会を今後も懇意にしていただきたいと思っておりますの」


「勿論です。

 やっかいな事をお願いするのですもの。

 こちらも誠意をしめすのは当然です」


「ありがとう」


この後教会では附属の孤児院で育っている子供達の食事のお世話をしているの。

その子供達と楽しく食事しながらお話したり、食後に読書を読み聞かせたり、お祈りをしたりして過ごしたわ。

でも今回の訪問の一つには別の目的もあったのよ。

全ての日程が終えた後、牧師にお願いして小さな部屋を用意してもらった。

普段は祈祷室として使用されている場所で教会の中でもあまり人が出入りしない場所にあって前から目をつけていたの。


小さな子供達とフォスター夫人と別れて祈祷室のドアノブをガチャッと回す。

ギィ~~~という木製の扉の軋む音が甲高く響いた。


ゆっくりと祈祷室が開かれた。


小さなその部屋に見覚えのある青年と中年の品のよいご婦人、初老の男性2人がこちらを見ている。


「サンジェルマン伯爵、ラファイエル、グディール夫人そしてわざわざこのような場所に呼びつけ大変失礼いたしましたオンディーヌ海運会頭」


「いえキュー夫人。

 これを機会にうちとも取引をお願い出来ればどうってことないですよ」


「ご機嫌麗しく存じます」


「これはキュー夫人。

 お久しぶりです」


「まあ気楽に。

 今日は皆様に御願いがありますの」


小さな部屋は昼間だというのに窓もなく小さな蝋燭の灯が小さく揺れている。

神に祈りを捧げる部屋に相応しく簡素ながら祭壇と十字架が掲げられている。


杉で出来た年代物の机と簡単な背もたれのない椅子がぽつんと置いていある。


「まずは座って話しましょうね」


「はいキュー夫人」


「さて今回お2人に来ていただいたのは最近の無謀な解雇で路頭に迷った役人達についての相談なの」


「あぁ~~ストレートエンセが中心になって退職金も出さず次々解雇して巷に失業者があふれ始めている件ですね」


「えぇ……。

 実はキュー商会にも被害がありまして。

 ただいろいろ理由もあって。

 その人達をうちで雇い入れたのですが。

 何分うちだけではどうする事も出来ずに」


「でしょうな。

 なにせ随分多方面にわたって解雇しているようです。

 しかも後任についた者は意欲はあるものの経験値が低くどこも右往左往しているようです」


「そのようですな」


「そこで相談です。

 そういった中で経験の深い者を適材適所に再就職させてあげたいの」


「なるほど………。

 うちの商会も貿易に詳しい者を丁度ほしいと思っておりました。

 通商関係の部署の者や力仕事を得意とする者など細かくリストアップして雇う入れましょう」


「ではオンディーヌ海運は何かと問題のある者を引き受けましょう。

 なに海の男は多かれ少なかれややこしい者の巣窟です。

 ちょっとやそっとのならず者なら叩きなおしましょう!」


「ありがとうございます」


「私のサロンでも会計係り、給仕や小間使い、いろいろ雇用できましてよ。

 元お役人でしたら身元もしっかりされていますし。

 願ったり叶ったりですわ」


「ありがとうございます」


「ところでキュー夫人。

 私達だけなら雇い入れても数に限りがあります。

 そこれキュー商会で仕事の仲介業をしてはいかがですか?」


「えっ?ラファイエル?

 そんな考えは出てきませんでした。

 そうですわね。


「経験者の職歴をリストアップして、各業界に閲覧出来るようにする。

 彼らを派遣してもしお互い問題なければ希望で各企業は雇用するという条件を。

 キュー商会は仲介料を企業から徴収すれば利益になります。

 その事業部門でも雇用が生まれるでしょう」


「Waaaa~~~~~!

 ラファイエルすごいです!!

 それは名案~~です!!」


「いいんじゃないですか?」


「ただ全ての解雇者や失業者を雇い入れるほどデンマーク経済は活性化していない。

 ストルーエンセが奴隷貿易を廃止する政策

 でプランターを持つ地主達はあからさまに

 反発し始めている。

 確かに正しい政策だ。

 だが早急に進めすぎる。

 返って逆効果にならなければいいが……」


オンディーヌ海運の会頭は深い溜息と共に何とも言えない無力感が入り混じった言葉を吐いた。


「確かに……。

 でもやれる事はやりましょう」

私も無力感とそれと同じくらいの何かしないといけないという衝動に駆ら身体の震えが止まらない。


私達の試みは失業中の旧役人達の一握りしか助けられない。

それはわかってる。

でもなにもしないよりはいい。

そう信じて。


私達の試みはある程度機能し失業者に新たな雇用を生む事に成功したの。

毎日従業員がさばききれないほどの就業希望者が店にやってきて順番待ちしていたわ。

彼らの受け入れ先の企業も順調に増えてきた。

でもそれにもかかわらず全ての失業者を雇い入れる事は困難。

しかも残された役人達の給与は理由をつけては大幅に減額され続けていたの。

残った者も理不尽に追い出された者もストルーエンセに対して不満と不審の渦は巻き上がり、それはドンドンと確実に溜まったマグマの様に今にも噴き出しそうだった。

けれど彼と彼の周りの人間だけがその事に気がつかず、自分達は正しいのだと言わんばかりに次々に改革の王命を発布していくのだった。









ストルーエンセの改革はドンドン推し進められて、いずれ多くの階級で不満や不平が巻き起こり始めます。


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