ストルーエンセの改革の弊害 1971年春 不安と不満の渦Ⅲ
窃盗罪の処刑を廃止する事に成功した王妃が次に行ったのは?
王宮ではそんな事も知らないストルーエンセと重鎮達が密談を重ねていた。
全権をストルーエンセに与えた後、国王が途中で退出したものの私の意見は採用された。
後から侍従長から聞いた話によると朝食会での意見を採用し、窃盗における処刑は廃止される事が決定したようだった。
私を除くストルーエンセ達は喫煙室へと場所を変え、今朝の突拍子もない私の言動に訝しげに話し合っていたそうよ。
「王妃はどういうつもりであのような発言を
したのでしょうか?
考えられない。
いままで政治的な事にはまったく興味もなかったと
いうのに!」
ランツァウ伯爵は歯ぎしりをしながら不満満載といった顔立ちで吐き捨てる様な言葉を発す。
「まあぁ~~女性特有の突拍子もない感情的なものでは?
政策にそれほど大きな改革ではありません
し。
私達の評判を落とすものではありません。
むしろ好意を持って受け入れられるかと。
目くじらを立てる事でもないではありませ
んか?」
ブライトンはブランディーグラスを廻しながら皮肉交じりに放った口元にゆっくりとその液体を流し込んだ。
「しかしただでさえ国王陛下の体調が思わし
くなく……。
逝去などどいう事になれば幼い王太子殿下
が即位された場合は王妃陛下が摂政におな
りになるでしょう
それは避けなくてはなりません。
今から政治に興味を向けられましたなら
我々の政権に大きな支障となりましょう」
ランツァウ伯爵の不審は拭えそうになく不平と不安を口にした。
「それは私への無策とおっしゃっているのでしょうか?
ランツァウ伯爵」
横目でやや厳しい視線をランツァウ伯爵に向けたのはストルーエンセだ。
「……そう……いう……訳では…………」
「陛下の気まぐれとプライドからでしょう。
王妃陛下の宮廷外での権威があがるのは我
らにも+となるのです。
ある程度の希望は聞いてさしあげなくて
は」
ストルーエンセは仕方ないと言わんばかりに宥めた。
「………それは……そうではありますが…」
「まああまあ~~ランツァウ伯爵。
王妃陛下の事はストレートエンセ殿にお任
せすればいいではありませんか。
我らは改革を進めなくては………そうでし
ょ?」
ブライトンは硬直したランツァウ伯爵の肩を叩きながら半笑いながら強い口調で説き伏せた。
「まあ~~~……ではストルーエンセ殿。
以前提案した軍内部の改革と旧保守派の高
位貴族への弾圧ですが。
まだまだ彼らは力を保有しています。
徹底的に潰さないと。
それには軍の再軍備を提案します。
行政の経費削減は十分に出来たはずです。
余った部分の経費を軍部編成に回さない
と。
国力低下と旧保守派の弾頭を再び招く事に
なります」
「まあ~~ランツァウ伯爵。
その話はいずれ国王陛下に。
今陛下は行政改革を啓蒙主義にのっとって
進める様にご指示です。
まだまだ我らの時代。
国王陛下と未来の国王陛下たる王太子殿下
の後ろ盾さえあれば彼らとて私達に手出し
する事は出来ない」
「ストルーエンセ殿。
念には念を」
「わかっていますよ。
ランツァウ伯爵。
しかし貴殿の思惑は暫く待ってほしい。
しばらくの辛抱です。」
そう言って冷たい瞳を湛えたまま煙草を吹かした。
「……わかりまし……た。
しかし……今コペンハーゲンでは職を追わ
れた者の一部が不平不満をまき散らし政府
を中傷する世論を誘発しています。
……このまま大きな波となっていずれは
我々の害となるでしょう。
改革の大きな壁となり立ちはだかり、我々
を孤立させかねません。
ストレートエンセ殿時は刻々と変化しま
す。
まずは世論を味方につける必要があ
り………。
それには…」
ストルーエンセの射抜く様な刃の視線を向けられたランツァウ伯爵は一瞬でその言葉を喉奥へと無理やり押し込んだ。
「私に策がありますから。
改革というものは激痛をともないます。
しかしいずれ不満は跡形もなくなくなるで
しょう。
目先の問題はその先にある輝かしい未来に
勝つものはありません。
まずは宮廷を一つにしましょう。
地盤を固め王を懐柔し続ければ無敵です」
ランツァウ伯爵はそれ以上自分の意見を言えずにいた。
それほどストルーエンセの宮廷での地位と意向は強大になっていった。
王さえも凌ぐ権勢を手に入れたようにさえ思た。
「……わかっていますよランツァウ伯爵。
王妃陛下の意見を聞きながらある策を思いつきました。
今どんなに非難されようともいずれ我々の道が正しいとわかる日がやってくるでしょう。
理性が勝つ日がやってくるのです。
今はその弊害が。
摩擦が起っているだけです。
気になさらずに参りましょう。
それよりも我が思想をおなじくする者達を
強固なものにしないといけません。
宮廷が何事も動じないという行動をとりま
しょう。
明日は大々的な仮面舞踏会を」
「仮面……舞踏会??
………私はこれから私用で邸に戻らないといけません。
それではストルーエンセ殿。
失礼しますね」
ランツァウ伯爵は拍子抜けしたような小声で呟くと、そのまま口をきつく閉じて黙り込んで部屋を出て行った。
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太陽の日差しが零れおちる喫煙室にはストルーエンセとブライトンだけが残された。
二人はアルトナでストルーエンセが初めて王付き随行医師に就任してからの友人関係でもあった。
ブラントはホルツ伯爵が宮廷で勢力を握っていた頃、宮廷から左遷させられた貴族の一人だった。
再び政治の中枢に戻る野心をまずにストルーエンセにかけたのだ。
「確かに王妃陛下の突然の発言は奇妙と言え
ば奇妙です。
いままで王太子殿下にしか興味がなかった
方なのに。
いくら知人の願いを叶えるとはいえ…
正直警戒するに値すると思うが。
ヨハンほっといて大丈夫かぁ?」
「わかっている。
王妃は私にゾッコンで言う通りに動いて宮
廷を管理してもらわないと。
手は打っている。
近々ある者を傍に置いて同行を報告する手
はずになっている。
この国はまだ王政を民衆が支持している。
あからさまに天地がひっくり返るような真
似は流石に出来ないからな
まぁブライトン。
見ていたまえ。
私達の理想の国家はすぐ目の前さ」
「しかしまぁ。
お前も大胆だな。
一国の王妃を骨抜きにするなんて。
ばれたら不敬罪、王室侮辱罪で。
処刑も免れないぞ」
「誰が王印を押すのか?
この国はまだ絶対王政の敷かれた旧体制な
ままさぁ。
あの王は事実を知ったとして、私と王妃
が仲良くなる事を喜びはするが、嫉妬や侮
辱など感じはしないさ。
それに今は薬の効きも弱めている。
判断出来ないさ」
「なるほど絶対王政の死角だな。
改革あるのみだ」
「そうさ。
だから今行政も私達に賛同する者に適材適所人を配置している。
不満は出るであろうが。
旧保守派に群がってきた奴らだ。
大した事はない」
「まぁそうだな」
「それより旧保守派達をさらに窮地にたたせるために思いついた事がある。
これが発布されたら前代未聞だ。
デンマークは時代の最先端をいく国家になるぞ」
「ヨハン。
なにする気だ?」
「まぁ。
見ていてくれ」




