ストルーエンセの改革の弊害 1971年春 不安と不満の渦
命を狙われたキャロン(実はデンマーク王妃キャロライン・マチルダ)はかすり傷ですんだ。
そんなある夜キュー商会の支配人に呼び出されて、変装して王宮を脱出して夜のコペンハーゲンへとくりだした。
夜のコペンハーゲン。
闇夜に突風が吹く。
車輪が石畳を踏む耳を切り裂く音が響き渡る。
御者は鞭を激しく上下に振う。
馬は歩みの速度を上げ、酔いどれた男達の蹴散らす様に猛スピードで走り抜ける。
その目的地に向けて猛スピードでたどり着いたのはキュー商会だ。
「夜間に突然アルベール様をお呼び出しして申し訳ありません。
サンジェルマン伯爵に相談した所、オーナーは今新しい事業でこちらに来る暇がないと。代わりにアルベール様をとおっしゃって来ていただき。
申し訳ありません」
支配人が珍しく慌てた様子で走って馬車に近づいて開口一番謝罪を口にした。
本当に律儀な人。
サンジェルマン伯爵からの連絡で急いで、アルベールとしてキュー商会を真夜中に訪れたの。
なんでも緊急事態だって言うじゃない。
卒なくなんでもこなす支配人が言ってくるんだからただ事じゃないわ。
とはいえ宮廷を昼に中に外出するにも目立つので、真夜中に王宮を抜け出して男装して例の催眠術でここに来たわけ。
「いいんだよ。
気にしないで。
丁度実家の事業整理もあらかたかたずいた
から。
姉から至急キュー商会に来てほしいといわ
れて。
急いできたんだ。
何があったの?」
「……それが…ですね」
唾をごくりと飲んで震える声で支配人は話始めた。
「アルベール様。
実は昨日の夕刻でした。
店舗に強盗団が侵入し……。
いえ被害はなかったのです。
雇い入れていた屈強な警備者に取り押さえ事なきを得ましたが。
警察に通報する前に事情を聞こうと取り調べをしたのです。
するとそのリーダー格の男がうちの本店長
と幼馴染だとわかり。
彼に取り調べさせましたら。
その男はコペンハーゲン支庁の経理部門の
責任者を務めていた者とわかり。
それがですね。
行政改革で突然退職金もなく解雇されたそうで。
家には父親の残した多額の借金があり、また母親は難病で医者代もかかると…。
まだ小さな弟、妹を養わなくてはいかない事情があったと申していると。
自分の経験を生かせる次の仕事が見つからず。
日雇い労働に従事していたそうです。
そんな給料ではやっていけず、とうとう同僚と強盗を実行したと言う話でして。
このまま明日警察に引き渡していいのか悩みまして……」
「ぁぁ~。
差し出せば拷問か死刑かだよね。
そっか。
まずは本店長を呼んで。
彼の意見も聞こう。
姉からは一任されているから僕が解決する
よ。
大変だったね。
大丈夫だ。僕が責任を持って処理する。
遅くまで申し訳ないね。
僕の乗ってきた馬車で送ろう。
明日には解決しているだろうから。
遅く出勤していいよ」
そうこのデンマークの法律は平民の特に貧困層に対して容赦ない。
窃盗しただけで処刑など日常茶飯事だ。
「申し訳ありませんアルベール様」
「いいって!
支配人もお疲れ様。
今夜中に解決する。
帰る前にその本店長と話がしたい。
まだいるかなぁ?」
「はい。
彼らの監視やいろいろあって今は仮眠室におります」
「わかった。
じゃあ支配人は気をつけて帰って。
ご苦労さま」
「アルベール様。
ありがとうございます」
私はすぐに仮眠室にいた本店長と膝を割って話す為に仮眠室に向かった。
私の姿を目にして彼は血の気の引いた顔立ちで疲れた顔で迎えた。
そして言葉少なく私に事情を話してくれた。
幼馴染とは家が近く同い年だったから子供の頃からよく遊んだ。
頭がよく父親が生きていた頃は事業を成功させて、苦労のない生活をして大学まで通って役人になったという。
昔ほどではないが、時折会っていたらしいが。
あたり今の生活を話したがらなかったと言う。本店長は就職先の話しはしたことがなく、彼も本店長の顔を見た時には驚いた様子だったという。
「つまりは貴方が思うに彼の置かれた境遇のせいで事件を起こした。
本来の姿ではなくきちんとした環境があれば立ち直るって思っているのね」
「はい。
おっしゃるとおりです。
私も同じ目に会えばやるかもしれません。
私には今キュー商会と仲間がいます。
だから……。
彼にはいない。
助けてあげる人が。」
「………そう…そうかな」
「えっ??」
「貴方がいるじゃないか」
「私?」
「ああ…」
「だって……。
私は彼に何もしてあげられない。
今だってわざと逃がす事も出来ない」
「いや。
だって僕に事情を話してくれているじゃないか。
もうそれだけで君は彼を救っているんだ。
いいかい。
彼を更生させてあげよう。
君の力も必要だ」
「アルベール様?」
「ああ。
明日は警察隊を呼ばないよ。
それより彼ら一人一人と話す機会を作ろう。
中には嘘をついて逃れようとする者はいるだろう。
それはそれで手を打つよ。
心配せずに僕を信じて任せてほしい。
そして手をかしてほしい。
彼らのために私の手を。」
「アルベール様!!」
「僕は彼をうちの財務部に来てもらいたいと思ってる。
急速な事業拡大で特に資金面のスペシャリストがほしくてね。
勿論彼の人となりを観察してからね。
それなりの給料は払うよ。
家族が平凡だけど暮らしに困らない金額をね。
だから今夜は君もここでしっかり寝て明日彼らと話す段取りをお願いする。
僕は明日までに支配人に指示をしてすぐに働けるようにするよ。
必ず彼の希望を聞いてね」
「あ……りがとう……ございます。
アルベール様……」
本店長は目頭を押さえながら震えた声で感謝をのべた。
「いいんだ………。
それより………うん……。
なんとはしないと……」
強盗に入られたキュー商会。
けれどキャロン(姿は表向き双子の弟アルベール・実はデンマ―ク王妃キャロライン・マチルダ)は彼らを助ける。
次回解雇された役人達の救済をどう行うのか?




