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ストルーエンセの改革の始まり 1971年春 殺傷事件Ⅳ

傷害事件の後、ラミューズの小部屋にはある訪問者が訪れていた。


騒がしい店内の奥の隠された小部屋は商談や重要な顧客用の客間になっていて、今日も重要な会談が行われていた。

事態収拾をある程度終えたグディール夫人は慌てた様子で足早にその部屋へと入って行った。


「ホールが騒がしかったですが。

 何かありましたか?」

そこには恰幅のいい老紳士が不思議そうに部屋に入っていたばかりのグディール夫人に話しかけた。


「あっ。

 ……サロンに不審者が入り込みまして。

 今日お招きしたキュー商会のキャロンキュー様が襲われかけたのです。

 同伴のラファイエルとおっしゃるフランスの商人が助けてくださったので夫人は腕の内側にかすり傷ですんだのですが……。

 ラファイエル様は出血で失神されてしまって………。

 私共の不手際です。

 とんだ不始末を起こしましたのに寛大なお言葉をかけていただいて。

 あれほど成功されているのに、謙虚で心優しい方にお会いした事がありません」

 

目線を下げて申し訳なさそうに小声で問いに答えた。


「では警察がそろそろつく頃では?」

老紳士の隣にもう一人壮年の男性の声がしたが、丁度窓側の光が届かずに顔立ちは見えない。


「ええ。

 犯人は使用人達が取り押さえて。

 今見張りをつけて監禁しています。

 暴れまくって手がつけられなかったので今

 は薬で眠らせていますわ。

 警察官が到着したら少し失礼します」


グディール夫人は少しほっとした声で話す。


「それはやっかいな目に合われましたね。

 どこでも頭のいかれた奴がいるものだ」


壮年の男性が同情するようにグディール夫人を慰めの言葉を口にした。


「何でも対した商才もないのに有力高位貴族に賄賂を贈り続け、巨万の富を築いたのだそうですが。

 この度の賄賂禁止を受けて商売が傾き借金地獄。

 そのタイミングで唯一取引先がキュー商会に流れたと、難癖をつけてキュー夫人を襲ったそうですわ」


「それはキュー夫人も災難でしたな」

老紳士はそう言い終えると口にコーヒーカップを運んでゴクリと飲干した。


「自分の力不足を棚にあげて傷害事件を起こすなど片腹痛い」


壮年の紳士は呆れたと言わんばかりに不快な表情で言葉を吐く。


「賄賂で商売が出来るなど。

 あってはならなかったのです」

グディール夫人が怒り千番といった様子で声を荒げる。


「ストルーエンセ殿。

 信念を持って改革に勤しんでくださいませ。

 私共は貴殿を支持いたします」

壮年の紳士こそストレートエンセだった。


「ありがとうございます。

 しかしこちらにもキュー商会にも災難をかけましたね。

 改革に血は付き物とはいえ……」

ストレートエンセは自身がおこなった改革の弊害にやや怒りを覚え不機嫌な様子で言葉を吐いた。



「いえ。 

 暫くは店も大変ですが。

 セキュリティー面を強化してまいります。

 なので少し休業しようかと。

 いい機会です。

 内装も変えて新たな門出だと思います」 


「なかなか商売が上手いですな」 


「いえいえ。

 オンディーヌ海運の経営者の貴方様には及びません」 


「いやいや」


「それでグディール夫人。

 暫くこの子の行儀見習いをお願いします」


そう言ってオンディーヌ海運の会頭は隣に座る若い女性を満足そうにグディール夫人に笑顔で話した。


「ええ。会頭。

 相応しい行儀見習いにしてみせますわ。

 あの高慢な高位貴族達が唸るような気品と身のこなしを身につけるように」


「しっかり学ぶのだよ。

 宮廷に作法はつきものだ。

 ただあくまで宮廷人と同じではいけない。

 奴らは権威と身分差を最も大事だと思っている。

 ほどほどに彼らにも時代遅れだと思わせるだけでいい。

 お前は王妃様に気に入られるように振る舞いなさい。

 ストルーエンセ殿が助けてくれるだろう」


「はい、会頭」

その若い女性は美しくいかにも利発そうで知的な印象だが、やはり窓から入る薄明かりの光では顔立ちははっきり見えない。


「また日が決まれば連絡いたします。

 王妃陛下にさりげなくお会い出来るように取り計らいましょう。

 貴女の宮廷での役割は王妃陛下に啓蒙主義とは優しく教育する事です。

 教育といってもただ貴女が隣にいる事がすでに時代を超えたと言えるでしょう。

 自由という喜びを束縛と偽善の巣窟に風穴を開けるのです。

 貴女は宮廷で非難されるでしょうが。

 彼らはもはや古い遺物化となるでしょう。

 近い将来。

 それまで王妃陛下の近くで、私に代わり時代の代弁者となるのです。

 時々王妃陛下の様子を報告ください。

 私の知らない陛下が見えるかもしれないから」


「ありがとうございます。

 かしまりましたストルーエンセ殿」

 

「貴女は王妃陛下に新しい時代の息吹を伝え宮廷に広めるのです。

 他にデンマークの三美神と呼ばれる宮廷貴婦人達が支えてくれるだろう。

 私も君も平民だ。

 しかし時代は急速に変わりつつある。

 時代の寵児として。

 君も時代を切り開こう!」


「この子は。 

 私の部下で船長の養女でしてな。

 なかなか美人で頭もいい。

 必ず王妃陛下のお気に召すでしょう。

 この年で結婚させましたが、なに元々宮廷

 に出仕させる気でおりました。

 お気になさらずお使いください」


「ありがとうございます。

 王妃陛下もきっと寵愛されるでしょう。

 後方から陛下を支えてください」


「はい。勿論です。

 心を込めてお仕えいたします」



次回はこの女性が宮廷に現れる章です。

キャロライン・マチルダ王妃の危機が訪れ??

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