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ストルーエンセの改革の始まり 1971年春 傷害事件Ⅲ

突然ティーサロンに響いた叫び声に事件は起こる。

まるで金縛りにあったように一歩も歩けない。

目の前の狂気の宿る男は私を睨みつける。

すざまじい勢いでこちらに向かってくる。

身体の血液が一瞬のうちに氷つくそんな感覚が襲ってくる。


何?

えっ!!


もう男はすぐ傍まで来て、手にはペーパーナイフを握りしめ襲いかかってきた。


私は顔を手で覆うのがやっと。


冷たい風が吹く。


「キャ!!」


「わぁあー!!」


「ぎゃぁぁぁ」


ダンダンダンダン


バタバダバタバタ


ドンドン


逃げ惑う人々がいっせいに出入り口へと走っていく音と強烈な痛みが走る。


私は咄嗟にそのまま床に倒れ込む。

痛みは一瞬で去った。

それよりも恐怖と緊張で頭はいっぱい。


ドン!!

しかし次の瞬間に床に叩きつけるような鈍い音が聞こえた。


少しだけ静かになった。


やや頭をそっと上げるとラファイエルが男の背に馬乗りになって手からペーパーナイフを取り上げていた。


サロンの3人の男も足や頭を押さえつけ、1人はナイフを離した両手を後ろにロープで縛っていた。


「ラファイエル?」


ラファイエルの白いシャツは大きく裂け止めどなく血が流れていた。


「血が!

 ラファイエル?」

私は駆け寄った。


ラファイエルの腕は大きくきり裂かれ、肉や見えてそこから鮮やかな血がボトボトと零れ落ちている。


私はとっさにスカートの裏地を手で切り裂いて彼の腕に巻きつけた。


「大丈夫で……しん…心配され……」


犯人は取り押さえられラファイエルはほっとしたのか、そのまま気を失ってしまった。


「グディール夫人!

 お医者様をお願いします。

 早く!」


グディール夫人が駆けつけて使用人に伝えて、彼は走っていった。


「皆。ラファイエル殿を担いでサロンの裏部屋に。

 犯人は警察を呼んで!!

 それから避難された方々に支配人対応をお願い。

 キャロン様も怪我をされています。

 一緒に治療を。」

そう言って私の身体をふんわりとつつみこんだ。

夫人の掛け声でいっせいに使用人達が動き出る。

お願い無事でいてラファイエル!


****************************************


サロンミューズの使われていないゲストルームに運ばれたラファイエルは医師の治療を受け、ようやく呼吸も落ち着いて眠りについている。

医師の話だと急な出血でショック状態になった為に気を失ったのだそう。

今は止血して、顔色も戻り安定していると告げて医師は部屋を出ていった。

挿絵(By みてみん)

彼はいつも私の危機を助けてくれる。

身を挺して。

そんな彼を信用出来ないなんて、私は王妃の前に人としてダメなんじゃないかと自己嫌悪に陥る。


サンジェルマン伯爵も辛く苦しい亡命生活を余儀なくさてきた方だ。

その彼が見込んで、しかも命を掛けて私を守ってくれる彼を信頼しないでどうするのよ?


コンコン!!


扉を叩く音っハットして反射的にその音の方向をみる。


「グディールです。

 入ってよろしいでしょうか?」


「あっ!

 はい。どうぞ」


扉から入ってきたグディール夫人は髪が乱れて、申し訳なさそうに頭を下げながらゆっくりと近づいてきた。

顔は疲労困憊といった様子でこちらが心配になりそうなほど肌が青白い。


「キュー夫人。

 そしてラファイエル殿にも取り返しのつかない目に合わせてしまい。

 私共のセキュリティー不足です。

 誠に申し訳ありません。

 どのようなお詫びをしたらいいのか…。

 誠意を持った応対をいたします。

 本当に申し訳ありません……」

頭を下げ震えながら絞り出す様に謝罪の言葉を告げるグディール夫人が痛々しい。


「グディール夫人。

 とっさの事ではっきりは見ていませんでしたが。

 彼とすれ違いました。

 彼の身なりは鮮麗されていて私もそれほど……

 気にはとめなかったのです。

 入店拒否するのは難しかったでしょう。

 顔つきも酷くおかしいとも見えませんでし

 たし。

 グディール夫人もこのティ―サロンも被害者ですわ。

 私共は大丈夫ですから。

 他の方々への配慮や対応くださいまし。

 こんな事でこのサロンの評判が落ちるのは

 私も嫌ですわ。

 落ち着いたら改めて私共と何か催しをいた

 しましょう。

 どうかお気つかいなさらず」


「キュー夫人…!!」


グディール夫人は震えながら私の手を強く握りしめた。

私は彼女の肩を抱いてそっと耳元で囁いた。


「きっと私共は何かの縁で結ばれているのです。

 これから末永くお付き合いして欲しいですわ」


「キュー夫人……。

 この恩は決して忘れません。

 キュー商会に何かあれば私が力になります。

 必ずや」


「ありがとう」


その時だった。

ラファイエルの眠る寝台に何かが動く気配を感じた。


振り向くとラファイエルがすでに上半身を起こしてこちらをぼんやりとみている。


「ラファ……」

名を呼ぼうとした時だった。


「あぁ~~~。

 君だったのか?

 ……随分長い夢を見ていた………気が………」


「ラファイエル??」

そう私が呼ぶとはっと我に返ったような顔つきに明らかに戸惑いと同時にしまったと言わんばかりの表情で私の瞳をずっと凝視している。

 

「ああ~~大丈夫かしら?

 ラファイエル」

ラファイエルはぽかんと気の抜けた表情をしながら何故心配そうにしている私を不思議そうに眺めている。

と思ったらふいに我に返ったように話しかける。


「陛下。

 お怪我は?」

自分が危なかったにも関わらず私の心配をする彼に嬉しいやら恥ずかしいやらなんともいえない感情が湧き上がる。


「大丈夫。

 かすり傷ですわ」

右腕には医師が巻いた包帯が巻かれてそれを見て慌てて出た言葉ね。


「それより。

  今まで信用せずにごめんなさいね。

 身を挺して助けてくれてありがとう。

 無理せずに良くなって。

 そして私を支えてほしいわ。

 ラファイエル本当にありがとう」


「ラファイエル殿。

 本当に申し訳ありませんでした。

 お詫びしてもしきれません」


 「キャロン様が無事ならそれで良いです。

 他の方の対応に集中してください。

 気になさらずにそちらへ」


「ありがとうございます」

グディール夫人は涙を瞳にためながら礼をして部屋を去っていった。


「良くなったらいろいろよろしくね。

 貴方がいたら私のデンマーク逃亡もうまくいく気しかしないわ。

ありがとうそしていままで素直に頼れずごめんなさいな」


ラファイエルは満面の笑顔を讃えて私の一片の曇りもない瞳を嬉しそうに見ながら少年の様に笑った。

次回殺傷事件現場に思わぬ人達が。



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