第六章 ストルーエンセの改革の始まり 1771年春
満足だ。
それでいて瞳の奥には強欲な野心と欲望に満ち溢れてくる。
これは始まりでしかないと言わんばかりに。
「誰が想像出来たろうか?」
プロイセン王国にしがない中産階級生まれ、父は牧師であちらこちらを転々として育った。
両親は牧師になる事を強要せず、ただ学問が好きで大学は医学の道にすすんだ。
博士号を取得し独立してからは細々と医師として従事しながらも政治的論文を書き自分を高めるためにいろんな有識者と交流を心がけた。
医師として立身出世するつもりはなかった。
当時最新政治思想である啓蒙主義に憧れ、表舞台で剛腕を振るいたい。
そんな夢のような考えが捨て切れず、そんな折にデンマーク領だったアルトナで、宮廷の追放者達の元に出入りして貴族達に重宝がられた。
そんな時に宮廷に再び返り咲きたい貴族ランツァウ伯爵からデンマーク国王の外遊の医師団に推薦され、王の信頼を勝ち得た。
それからはトントン拍子だった。
ベルンストルフ侯爵と財務大臣シンメルマンに推挙されて名誉国務大臣、宮廷の三等職、請願審議官へ出世出来た。
遂には国務会議を解散させて請願審議官長に任命された。
あとは独壇場だ。
ノルウェー総督職を廃止、全ての政府長官を解任させる事に成功した。
国王は益々持病を悪化させて政治にまったく興味を失って、思う通りに動く人形と化してくれている。
もう自分の理想の国家を構築出来る自信以外何もなかった。
「私もここまで来たか。
いやこれで終わらない」
全ては予定通りだった。
強いて言えば王妃キャロライン・マチルダに嫌われた事だった。
あの時は一瞬だったが頭を抱えたとふっと苦笑いが起る。
しかしあの王妃はやはり世間知らずだ。
そう思いながら昔の事を思い出していた。
ハレの学生時代当時スウェーデンの貴族ケーニヒスマルク伯爵家のとある子息と知り会った。
彼は酒を飲んだ際に面白いものがあると見せてくれたのがフィリップ・ケーニヒスマルク伯爵の日記だった。
彼についてはまったく興味がなかったが、歴史にあるようにハノーファー宮廷での出世と侯子妃との不倫について興味が勝ってしまった。
彼が泥酔してしまい意識を無くした後、その日記を持ち帰ってしまった。
しかし多忙の為に読む事なくそれから本の事は忘れていた。
そんなある日王妃がイギリスの王女で、ケーニヒスマルク伯爵の不倫相手ブラウンシュヴァイクリューネブルク公子妃は曾孫だと思い出し、コペンハーゲンの宮廷の書斎で例の日記を探し出した。
スウェーデン語からドイツ語に秘書官に翻訳させて読み漁った。
その本には貴人と貴族とはいえ外国人との不倫の様子と心情があからさまに書かれていた。
その貴人の環境が王妃キャロライン・マチルダの環境ととても似ていたのだ。
これは使える。
もし……。私が運命の相手だと王妃に思わせる事が出来たなら、宮廷は思いのままだ。
デンマーク王室に国王には絶対的権力がある。あの精神的に大きな問題を抱えているにも関わらず、異母弟を利用してクーデターが起こらない。
王室さえ私中に収めれば何の不安も問題もない。
私はフィリップ・ケーニヒスマルクの生まれ変わりだととんでもない告白をして、王妃に近づいた。
「けど…まさか王妃があの話であんなに動揺するとは思わなかったな。
妄想癖のある者だと思うところか。
王室の方はあんなに浮世離れしているんだろうか?
あれは想定外だった。
しかしうまく王妃を取り込め懐柔出来る。
後は国王陛下を薬でおとなしくさせるだけ
だ。
これからが楽しみだ」
これからデンマークを野蛮で非人権な国家から改革していかねばならない。あらゆる弊害が起こるだろうが、大義には仕方のない事だ。
まずは高位貴族達の不正から正すべきだろう。
すぐさま高位貴族達に群がる家門の者が優位な役職に就くのを禁止した。
そして賄賂や買収の禁止。
デンマークで慣習となっていた政治の腐敗から着手する。




