王宮での秘め事Ⅳ キャロライン・マチルダとストルーエンセ(ゾフィー・ドロテアとフィリップ)
マチルダの体調が回復するまでそれほど時間はかからなかった。
彼女は何か吹っ切れた様に元気でよく、食事をとり、今まで通りの行動を心がけていて少し安心した。
ようやく私は次の行動する。
ある日体調の悪いふりをして、寝室でストルーエンセの診察を受ける事にしたの。
私の脈と顔色、そしていくつかの質問をしたわ。
ストルーエンセは紅潮しながら少しの困惑と不安が滲んだ表情をして、私の顔を覗き込んだ。
そして小さな声で話始めたわね。
「王妃陛下。
おめでとうございます。
ご懐妊でございます」と……。
えっ?
妊娠もしていない。
ストレートエンセも事実を知らない。
なのに何で妊娠の診断が?
そう!!
これが白魔術!!
サンジェルマン伯爵の秘薬で妊娠した時に出る症状を作る事の出来る薬を処方されているの。
本当に彼は天才ね!!
私はこれでもかと嬉しいといわんばかりに力いっぱい彼を抱きしめたわ。
そう愛する男の子をっ身ごもった女性を演じた。
彼に触る度に嫌すぎて身震いするけど、いつも嬉しくてと誤魔化しているの。
侍女さえ退出させていたから彼も大胆に私の耳元で囁いた。
「なんの心配もありません。
あと8か月後にはデンマーク国王の殿下が誕生するのです。
国王陛下もお喜びになる事でしょう。
いえ喜んで頂けるように全力でお仕えいたします。
暫くの間貴方と肌を合わせられないのは淋しいですが…我慢いたします。
デンマークの新しい時代の寵児の誕生に心よりお喜び申し上げます」
これから暫くはマチルダと同衾させなくてすむと思っただけでよかったといえる。
あの子ったら出産したら私の夜の代役をすると言ってきかない。
小声ではいたけれどやけに低いその声で、私は益々彼を嫌いになったわ。
フィリップは少なくても政治的野心はなかった。
宰相になりたいや身分を上げたいといった欲望はなかった。
ただ男性という顕示欲だけで私を手に入れようとしただけ。
でも今の彼は違うわ。
私を味方につけて夫と共に王室を取り込んで、政治を行いたい野心に満ちているもの。
今世は大丈夫よ。
私も勉強しているのよストルーエンセ!!
「ありがとう……フィリップ」
その瞬間ストレートエンセの顔がパッと明るくなったのを私は見逃さない。
気がついていない。
微塵も私がデンマークから逃げるつもりも、私がアルベールだという事も、キャロンという事も。
頭はいいかもしれないけれど馬鹿な男。
「ゾフィー私の愛しい方。
それとアイベンは宮廷を去って行ったよ。
もう君の邪魔はさせない。
それと君の片腕となる新たな人材を紹介しよう。
今の時代に相応しい試みになるだろう。
楽しみにしてほしい」
「ええ」
私はこれみよがしに従順そうに返事をしてみせた。
心ではめんどくさいスパイをこよすのねと思いながら彼の腕に身を寄せている。
私の妊娠という吉報はすぐに王に伝えられ、翌朝侍従が手紙を持ってやってきた。
「懐妊嬉しい。
今は体調が悪いから会えないけど、ストルーエンセのいう事を良く聞くように。
彼は私達の希望だ。
身体を厭うように」
そう手紙に書いていた。
彼と私は同衾していないのにしっかりストルーエンセの話術にハマってるわね。
でも体調は悪いよう。
文字はかなり震えているからわかるわ。
彼も気の毒よね。
まぁ〜本人に自覚がないようだから幸いかもだけど。
その後の宮廷はそれはそれは大騒ぎだったというの。
私には直接言えないもの。だけど耳に入ってくるわ。
宮廷を訪問した貴族達はある者は扇で口元を隠しながら。
ある者は耳元で囁きながら。
ある一つの噂話に花を咲かせていたという。
何故なら国王のあの健康状態で妊娠させるほどの体力があるのか?
王妃陛下は本当は恋人との間に出来た私生児になるのではないか?
相手はあのストルーエンセに違いない。
あんなに慎重にといったのに………。
ストレートエンセの私への態度や言動は日増しに深い関係だと言わんばかり。
あからさまになっていたので宮廷では陰で噂になっていた。
王妃の秘密の恋人達と………。まあある程度予想はしていた。
っていうか私は意図的にほおっておいた。
だって王妃の品位を低下して評判を悪くすることを狙っていたからだもの。
ただやはりフレデリックが嬉しそうに兄弟の誕生を楽しそうに話す姿が心にチクリと針をさしては私の良心が傷んだから。
ごめんなさいね。
このデンマーク王国で一人ぼっちにさせる………。
せめて精神的な肉親が傍にいれば違うと思うしかなかった。
だからマチルダの産む子供は必ず息子の支えになるはずよ。
この後誕生したルイーズ・アウグスタはキャロライン・マチルダ王妃が宮廷を去った後、フレデリック王太子と共に宮殿で王女殿下として養育される。
二人は孤立した宮殿で兄妹愛をはぐくみ仲がよかったといわれています。
彼女は後に親戚筋の大公と結婚し、その子孫にはドイツ帝国最後の皇后ヴィクトリアや現在在位している世界中の君主の中でスウェーデン王カール16世グスタフ、およびスペイン王フェリペ6世が、ルイーセ・アウグスタの直系の子孫にあたります。
つまりは平民であったヨハンフリードリッヒ・ストレーエンセの血筋が現在もヨーロッパ王室に繋がっている不思議。




