王宮での秘め事Ⅱ キャロライン・マチルダとマチルダⅢ
謁見を終えた王妃とストルーエンセは?
2人秘密の時間を過ごしていた。
「国王陛下の様子はどうですか?
さっきは怖くて仕方がありませんでした。
陛下はドンドン不安定になっていくようで
す。
貴方がいないと怖くて………」
王妃の私室である居間で王妃とストルーエンセ2人はぴったりと身を寄せてソファーに腰を降ろしている。
王妃の顔色は青白く恐怖で震えながら思いを告白する。
ストルーエンセは余裕のある落ち着いた表情で身体の中にすっぽりと王妃覆いつくし、王妃の乱れた髪の毛を指でもてあそんでいる。
「私がいるのです。
国王陛下は大丈夫です。
薬で眠らせました。
暫くは夢の中においでです。
王妃陛下は安心して王妃として宮廷でお過
ごしくださいませ。
全て私にお任せくださいませ。
国王陛下から全権を賜りましたら、王妃陛下の宮廷地位も盤石。
王太子殿下のご生母、後の王太后としてこの輝かしい国の母となられるのです」
王妃の耳元で囁くように静かな低い声で答えた。
「…ス…ヨハン」
「ああっ…二人の時はフィリップと……」
「…フィ…リ……フィリップ…」
やや戸惑った様な唇が震えてか細い声で答える。
そういえばいつも2人きりの時にはよく私をゾフィーと呼んでくるし。
時々今みたいに聞き覚えもない名フィリップと呼ぶようにおっしゃるし。
前から不思議だった。
ただ手紙のやり取りは二人ともその名前を使っているからあまり気に止めなかったから。
ゾフィー??
考えないでおきましょう。
今は……。
愛しい貴方を失いたくない。
ずっとこのまま夢の中に身をゆだねていたい。
「ああぁ ゾフィー。
それより顔にできものなど聞いておりませんでした。
おみせくださいませ。
美しい肌がおいたわしい」
王妃の頭が僅かに動く。
しかしそれより先にストルーエンセの手がそれを捕らえた。
ストルーエンセは頭に手をやり、素早くヴェールを剥ぎ取ってしまう。
「あっ!!」
はっと王妃は顔を背けるがあまりに遅すぎた。
ふわふわとヴェールが床に静かに落ちた。
「……少し腫れていますね。
後で軟膏を処方いたしましょう」
ストルーエンセは顎を手を寄せると、そのまま唇を近づける。
「……ヨ…ハン」
甘い吐息が漏れて静寂が2人を包んでいった。
頼もしい筋肉質なストルーエンセの身体から名残惜しそうにやや身を引いて口を小さく動かした。
「少し疲れました……。
湯浴みをして……。
横になってから夕食をとりたいと思います
わ。
いいかしら」
「お疲れでしょう」
ストルーエンセは最もだと微笑みながら頷いて、手の甲に口づけて深い礼をした後に退出していった。
廊下にストルーエンセの足音が響き渡る。
しかしそれはドンドンと小さな音になってやがて聞こえなくなっていった。
はぁ〜。
小さな吐息が部屋に漏れる。
後悔なのかそれとも離れないといけない失望なのか?
どちらとも受け取れそうなそんな吐息だ。
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居間には王妃だけが残されたが、暫くして隣へと続く扉がゆっくりと開かれた。
「……マチルダ!!」
軽やかな女性の声がした。
「王女様!
あっ!!
王妃陛下」
部屋の中にいたはずの王妃はその扉の向こうから現れたアルベールに向かってそう答えた。
そう実は謁見の間にいたのは侍女のマチルダが王妃に扮して演じていたのよ。
勿論完全に顔を入れ替える事、ましてや性別を変えるなんてできないわ。
そう例のサンジェルマン伯爵の香り薬で私達は入れ替わったの。
謁見の間でいた王妃はマチルダで、私はアルベールの姿をしてね。
「ごめんなさいね。
マチルダ!
もう大丈夫よ。
窓を開けて部屋の換気を入れ替えて。
そう!
湯あみをして元に戻りましょう。
あっちにバスタブを用意しているの。
下女に熱い湯を入れてもらっているわ。
湯あみを手伝って!!」
「……はい……王妃陛下」
「いやね!!
2人の時は王女でいいわよ!」
「……はい……王女様」
そう言って隣の部屋へ2人で移動して、私は用意されていた湯船に浸かったの。
温かなお湯にマチルダが優しく絹の布で身体を拭ってくれる。
湯船には精油ヺ垂らして仄かに薔薇の香りがしている。
サンジェルマン伯爵の香水は香り自体は爽やかな清涼感溢れる匂いだけど、実はあまり強いものでないの。
他の香りに負けるくらいに思うけど、どんなに強い香水を振りかけた人がいても、ちきんと催眠術は効いているから不思議。
伯爵曰く湯船に薔薇の精油を垂らして浸かれば効果はなくなるといった通り。
少しずつ男性の筋肉質な手触りから、女性の柔らかなしっりとした肌に変わっていく。
本当に不思議な感覚。
サンジェルマン伯爵曰く性別を変えたり、他人に変身する事は出来ない。
一種の催眠術で同じ香りをつけた者が他人に見えるようになるらしい。
確かに私自身もその時は別の顔、身体に見える。
「居間にも香りを焚いていてよかったわ? ストルーエンセがくる可能性があったから。
変な様子はなかった?」
「ええっ……王女様。
疑う素振りはありませんでした」
マチルダも少しづつ顔立ちが戻ってきている。
彼女はそう言いながらもあの日の事を思い出していたみたい。
あの身を焦がすような……。
愛する人が愛を語る姿に自分に向けられた愛情と錯覚してしまいそうな。けれどそれは同時に自分ではない、そして自身も敬愛してやまない主人で高貴な方に向けられているという現実に身がきり裂かれそうになる。
「ごめんなさいね。
いやな役回りをさせて、辛いでしょうに」
「いえ…。私が……お願いしたのです」
「……ストルーエンセを愛しているのね」
「いえ。
王女様に比べれ……」
突然マチルダの身体は重力を失ったように崩れていく
ドン!!
鈍い音が部屋に響いた後、マチルダの身体は床に落ち微動だにしない。
「マ……チルダ!!」
突然のマチルダの失神に王妃はどうするのか?




