キュー商会の快進撃 遊覧飛行 アルベール空を飛ぶ
サロンドゥキューのお披露目式の日余興として一部の客に披露された企画は?
新サロンお披露目式典は昼下がりから開催予定でまだまで3時間ほどある。
しかし一部の招待客のはすでにサロンドゥキューの新館の中庭に集まり、キュー商会が主催する特別な催しに、招待客達は目を輝かせ胸を躍らせて待っている。
彼らは皆着飾りかなり裕福なブルジョワ階級層の人々だと一目でわかる。
特別に厳選された一部の招待客に対して式典の開始時間を早めにしていたからだった。
彼らは待ちに待ったサロンオープンを期待に胸膨らませ、パートナーを連れ立って用意された椅子に腰をかけておしゃべりに講じている。
ざわつく会場に爽やかな森の香りを漂わせ、颯爽と現れたまだ若い青年に招待客の視線が集中する。
しかし招待客はそれぞれ隣の客と目を合わせると驚いた表情をしながら何かを小声で話し始めた。
その壇上の若い男性は静かに腰を降ろし、優雅に礼をすると招待客からはため息が漏れる。
まるで王族の気品が彼に見たからだ。
「初めてご挨拶いたします。
キュー商会のオーナーであり、私の姉キャロンキューは今妊娠しており別宅で静養中でございます。
しばらくの間キュー商会の運営を私弟アルベール・ザッハードワーグナーが代行する事になりました。
ご安心くださいませ。
あっ!失礼。
実は私日光アレルギーの為、帽子と黒の眼鏡、黒の手袋を着用しています。
ご不審に思われるかもしれませんがお察しくださいませ。
さて今回の催しはキャロンより多くの事を学び引き継いでおります。
皆様を失望させる事はございません。
我が商会をご贔屓にお願い申し上げます。
これより今回のお披露目式の前に大変素晴らしい体験を皆様にしていただきます。
まさに啓蒙主義の社会次世代の叡智に満ちた素晴らしい新時代の体験です。
皆様奥の樫の木の広場にお越しくださいませ」
静寂の後、ぽつりぽつりと湧いた拍手はやがてはちきれんばかりに木霊して晴天の空を駆け巡る。
「皆様。
本日お集まりいただきましたのは特別な体験のプログラムをご用意したからでございます。
今から皆様をその場所へご案内いたしますので、私の後についてきてくださいませ」
支配人は慣れた口調で告げ使用人を引き連れ招待客を誘導し始めた。
人々は不思議そうに顔を見合わせながらも、支配人の後について中庭の樫の木の並木道へと入っていく。
暫くまるで森の中へでも迷い込んだ様な緑の中を進むと、突然視界は樫の木の周りに広大に広がる空間と山々が目に飛び込んできた。
「新サロンは都市部から少し離れた場所にあり、この辺りの森を整地いたしました。
あちらをご覧ください」
招待客達が支配人の指差す方向に視線を向けると。
一斉に感嘆の声が漏れてきた。
「あれは??」
「なんでしょうか?」
「まあ~~~~」
「えっ??」
「あれは………なんなんでしょ?」
「大きいですな。」
「あんなの初めて見ますわ」
「すご、い……こんなのは見たことがありません」
小高い丘の先に大きな球に竹で編まれたバスケットが網で繋がれている。
皆見た事すらない巨大な物体がいくつも置いてあり、それらは辛うじてバスケットは地上にあったが、不思議にも上層部はすでに大きく膨らんで時折る吹く風に揺らめいていた。
「皆様。
我が商会では特別な資金を投じて高名な技術者に依頼して有人飛行の生産を成功させました。
気球という空を飛ぶ事の出来る乗り物でございます。
皆様本日気球へ搭乗出来る余興でございます。
勿論安全性は何百回に渡る有人飛行を経て確保いたしました。
また最初の搭乗は私アルベールとここにいる支配人、そしてドゥルヴィーユ殿です。
飛行に成功したから後ご希望者様先着順で遊覧していただけます。
では!私達はいってまいります」
一番前に置かれたそれは目をみはるほど巨大で、風船のように風に揺れながらも威風堂々と空へとそびえ立っている。
「気球?」
どよめきが沸く。
「気球というの?」
巨大な気球は丈夫な帆船の帆の布で出来ていて、赤と黄色のストライプ模様が人目を引いた。
幾重にも編み込まれた網で竹のバンケットがつり下げられている。
真ん中には樽が置かれていて、そのうえにバルブがとりつけてあり、水素を原料にして空中を飛ぶことが出来る構造だ。
アルベールは何の不安もないとばかりさっと涼しい顔でバンケットの端に軽々と片足を掛けて乗り込んだ。
支配人とドゥルヴィーユが後ろに続く。
バンケットにはすでにサンジェルマン伯爵が乗り込んで、短剣で吊るしていた砂袋の縄を切ろうとしていた。
「伯爵!
ありがとうございます。
素晴らしい気球です」
アルベールの弾んだ声が聞こえたら、サンジェルマン伯爵はさも当然とばかり顎に手を乗せてニヤリと微笑んだ。
「さあぁ。準備万端です。
出発しますよ!」
サンジェルマン伯爵の一声で3人はバスケットの端に手をかけてその時を待った。
砂袋が切られるたびにバスケットは左右に揺れながら、気球はふんわりと宙に浮く。
「わぁあぁ」
見物客とアルベールの声がまじったかと思うと見る見るうちに気球は空高く舞い上がっていった。
「あっという間に下の人が小さくなってきたね」
好奇心旺盛なアルベールは下を覗き込みながら少女の様に興奮しながら叫ぶ。
「クスッ」
あまりの可愛らしさにラファイエルが堪えきれず笑う。
「あっ!笑ったね。
あぁ〜子供っぽいって思ったろう」
プクッと頬を膨らませ不服そうに怒った顔がまだ少年に見えてまた笑いがこみ上げそうになる。
「そんな事……ない……」
「ほら!
思ったろう。
また笑ったね
僕は姉のように商才はないかもしれないけど。
キュー商会をもっと大きくしたいって思っているんだ。
まだ未熟かもしれないけど…。
それなのに僕を笑うなんて失礼だよ」
「いや!すまない。
そうじゃないんだ。
君は立派だよ。
私も力になりたい。
ただ…ただちょっとかわい…らし…と…。
失礼だよね。
男性にむかって。
気をつけるよ」
笑った白い歯が太陽の光線でキラリと光る。
思わず何故かアルベールは顔を背けて俯きかげんでぼそりと告げた。
「…僕こそむきになってわるかったよ」
「いえ。
それよりあちらにバルト海がうっすら見えますよ」
ラファイエルが指さした方向には石造りの建物の奥にうっすらと深い群青色の海が広がっていた。
「素晴らしい眺めだね。
海辺に行かなくても海が見れるなんて最高だね!」
「そうですね」
「クスッ」
「あっ!
また笑ったね。
許さないんだからね」
アルベールが怒った口調で言い放ち、思わず右手をバンケットから離す。
ふいに強い風が気球を揺らした。
グラリ!
気球は右に大きく傾く。
アルベールが勢いよくバランスを崩し身体が宙に浮きかけた。
バスケットを吊るすロープを掴もうとしたがつかみ損ねる。
握れない。
グラッと身体は更に傾く。
あっという間にバスケットの端に腰が当たる。
「ワァー!」
気球の初飛行は1783年モンゴルフィエ兄弟が無人熱気球の実験に成功し、5カ月後有人飛行は同年にモンゴルフィエ兄弟が熱気球の有人飛行に成功しました。
よって1770年設定の物語では架空設定のお話です。
伝説に基づきタイムトラベラーサンジェルマン伯爵が時空を超えて製作した設定です。




