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国王の宮廷医師 小さな改革の座礁

公娼を迎えるのか?

王妃のライバルは誰になるのか?


「王妃様!

 お聞きになられましたか?

 国王陛下に公娼を召させるお話!」


息を切らせて私室の居間に走ってやってきたマチルダは、開口一番腰に手を置いて口をへの字に曲げて不満そうに話し始める。


「しかもストルーエンセ殿が動かれたそうです。

 王妃様を差し置いて、公娼を担ぎ上げるなんて!

 見損ないましたわ!

 私ったら!

 人をみる目がまったくありません!!」


もはや叫び声に近いマチルダにぷっと思わず笑いがこみ上げた。

私の表情は目に入らないのか崩れ落ちるようにソファーに腰掛ける。

バン!!

私の膝に上半身を投げ出した。


wan〜wwww ww〜〜〜

鳴り響く鐘の音のような鳴き声と私のドレスをマチルダの流した涙で濡れ始める。 


はああぁ〜〜〜。

仕方ないなぁ。

でも可愛いわね。

息子フレデリックが誕生してからも夫の行動に感情的になる事はなかったから。

元々なかったのだけれど…当の私は怒りも悲しみも全然湧いてこない。

だって夫婦関係は破綻していたし、私は自由になる為の関係だと割り切っていたから。

あるのは成長著しい息子とキュー商会の事で頭はいっぱい。


キュー商会にはあれから一度もいけていない。

手紙では再建は順調で、皆私が帰って来て元通り以上にすると意気込んで頼もしい。

支配人は頻繁に近況を手紙に書いてきたわ。


っでもやはり心配……皆元気なのか直接会いたいわ。

また現実逃避してしまった~~。

あぁ~~今は目の前のマチルダをどう落ち着かせるのが一番ね。


「マチルダ。

 それは悲しいけど公娼は陛下がお決めになる事だわ。

 私を王妃の地位から廃位させる事はないし、たとえ子供が出来てもフレデリックを脅かす存在にはならないわ。

 認知しても庶子ではね。

 わかるわね。

 ここで王妃の私が大騒ぎをするとそれこそ相手の思うつぼ。

 他の廷臣やストルートエンセが王妃たる者の威厳がないから国王に無視させるのだって。

 私達の行動や言動は慎重にね」


そうその通り公娼に誰がなろうと興味はないわ。

ただその者が息子に悪影響を及ぼさない限りは…。


「だっ……て!だって!!

 王……妃様……!!」


まぁ〜宮廷ではストルーエンセに不愉快だと周りにわかるようにしないといけないわね。


「まぁマチルダ。

 様子を見てみましょう。

 ねっ!」


本当にめんどくさいわね。

また真意でない行動をしないといけないじゃないの………。

キュー商会の経営についてはマチルダには内緒にしているから私の気持ちが言えないのか更にストレスよ!!

なんて言えるわけはない……。



********************************************


太陽の当たらない使用されていない王宮内の一室に薄暗がりの中で二人の男女の姿が浮かびあがる。

2人は身体が触れ合いそうな距離で、いかにも親密そうな雰囲気をかもしだしている。


「それではブリギッテ。

 陛下の公娼になるのを諦めるのか?」


ストルーエンセは珍しく声を荒げ女に詰め寄る。


その女性の姿から貴族の貴婦人だとわかる。視線をやや下げていかにも暗い表情のまま重い口を開く。


「だって以前陛下が私に興味をいだかれて誘惑されようとなされましたが…。

 あの時は私にその気はありませんでした。

 しかし貴方の強い要望で公娼になると決意したわ。

 デンマークの安定の為、主人の未来の為に陛下にアプローチしていました。

 でも陛下はあの時とは違って興味すら抱かれず、お誘いしてもなんの反応もないもの。

 健康状態も不安定だわ。

 会話の途中で大声を出されたり、走り回ったり。

 私がお仕えしても変わるとは思えません」


「しかし、このままでは……」


「ヨハン。

 無理は止めておきましょう。

 何事も自然の成り行きに任せるのがよいですわ。

 私もこれ以外の注目は思惑に反します」


「では誰が陛下の病状を改善出来るというのだ?」


「誰にもできやしないわ。

 ヨハン。

 陛下の精神はもう現実世界ではないも同然じゃない。

 ……それと………これを機に私達の関係も終わりにしましょう。

 もう面倒事はたくさんだわ。

 私は宮廷で楽しく過ごしたい。

 何の責任もなく自由に。

 名声や権力に興味を失った。

 陛下は私の自尊心を酷く傷つけた。

 もう……さようなら」


ブリギッテはそう言い切るとストルーエンセに未練もなく、冷ややかな固い表情で部屋を去っていった。


残されたストルーエンセは呆然と立ち尽くす。

美しく知的で宮廷の評判もよい。

権力欲もさほどなく社交界でも評判が良く敵も少ない。

だからこそ利用価値があると男女の関係になったのだ。

気持ちはありはしなかった。


では私以外に誰が陛下の精神安定剤になれるというのだ?

誰が!?


中産階級の家庭に生まれ、医学の道に進んだ。

けれどそれだけではあきたらず、啓蒙主義にはまり政治の世界へ野心は膨らんでいった。

その為にあらゆる手をつくした。

理想の社会を作るため、宮廷を追われたデンマーク貴族達と交流して国王の随行医に加われた。

しかも医師としての能力を高く買われ、廷臣達のみならず国王にも信頼され今の所順風満帆だ。

ここにきて、ブリギッテに去られるのは痛い。

昼と夜どちらも陛下を抑えないと目的は達成されないからだ。


ストルーエンセは気持ちを落ち着かせるために一旦外の空気を吸おうと静かにゆっくりと部屋を出ていった。

しかし廊下を歩くとすぐに足音が聞こえ、微かに人の声が耳について咄嗟に隠れる場所を探した。


曲がり角の使用人が使う小部屋の扉の前の窪みに身体を隠す。


足音は軽やかで女性のものらしく2人連れのようだ。

ちらりと前の廊下を覗くと下級侍女らしき女性が見えた。

何か話しているようだった。

耳をすまして会話を盗み聞きをする。


「王妃様は公娼についてはご興味がないのよ。

 王子様に悪い影響がなければいても構わないって。

 私は違うわ。

 ストルーエンセ殿には見損なったわ。

 素敵な方だと思ったのに!」


「まぁまぁマチルダ。

 王妃様も傷心され続けておられたから。  

 そう思うしかないのじゃない?」


「そうかしら? 

 本当王妃様は素晴らしい方なのに。

 陛下が感心を向けられないなんて!」


「…高貴な方の思いなんて私達には理解つ出来ないし。

 王妃様にしっかりお仕えして気持ちを支えて上げなさいな」


「勿論そのつもりよ。

 姫様には長く仕えたのですもの。

 あんな優しい気さくな王族の方はいない

 わ。

 私は精一杯お仕えするわ」


そう言葉を交わしながら笑顔でストルーエンセには気が付かず立ち去った。


ストルーエンセは面食らったようにその場を離れる事が出来なかった。


それは………。



公娼を迎えるにあたって侍女は色めき立つ。

アンヌにかわる公娼は誰になるのか?


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