#33〔神の造物〕
その骸骨は俺たちを見据えたかと思うと無防備に突進してくる。俺は手に持った短剣を握り締める。刺突に対する完全耐性を有しているため、多少強引にでも短剣で斬らなくてはならない。イチーザにもその辺りはいってあるが、やはりアサシン系統職でない方が良かったか。ともあれ、今更そんなことを言っても仕方がない。
念話で2匹に突撃を命じ——る前にその骸骨は砕けた。骸骨のいた場所にいるのは拳を振り下ろし終えたドゴゴルだけだ。
「こんな骨っころよりは俺の方が硬いぜ」
ドヤ顔で言うドゴゴル。なんかウザいな。ただまぁ確かにドゴゴルの強硬な鱗による打撃なのだからそちらの方が効率が良いのは納得だ。
「なら骨はドゴゴル担当だな。俺は……」
先程の骸骨のさらに先を見据える。黄色いゴムの様な身体。真っ直ぐ前に伸ばされた手から滴る気持ちの悪い粘体。その者が放つ異臭はここまで届く。出来れば戦いたくないが、そうはさせるかと言わんばかりにこちらに向かってきている。
種族:食屍鬼
レベル:10
HP:58
MP:0
筋力:29
防御:31
魔力:0
魔防:5
素早:12
器用:9
称号:人肉中毒
食屍鬼。
骸骨と対をなす不死者の代名詞と言っていいだろう。骸骨とは逆に打撃に対して高い耐性を有するが、刺突にめっぽう弱い。屍人と非常に良く似ている。亜種というところだろう。どちらがかは知らんが。
かなり弱いようなのでこの中で最も新参のグラムに経験を積ませるために行かせた。決して俺が行きたくないとか、臭いのが嫌だとかそんな理由ではない。ないったらない。
グラムは嫌な顔(最近眷属の表情がわかるようになってきた)1つせずに向かったかと思うと、食屍鬼の前に立ち——一閃した。俺が見たのはせいぜい黒い残像ぐらいだ。見事な一振りである。
「すごいな!グラム!」
帰ってきたグラムを素直に褒めてやる。グラムは一瞬だけ破顔したように見えたが、すぐにいつものお堅い表情に戻ってしまった。
「ありがとうございます。しかし私などではまだイチーザさん達には遠く及びません」
ふとイチーザを一瞥すると、自分より優秀な後輩の扱いに困る先輩の顔をしていた。
どうやら眷属達は年功序列による上下関係を構築しているようだ。
するとドゴゴルも大体の骸骨を狩り尽くしたようで、こちらに向かってくる。左肩に偉そうな蠍を乗せて。
「おい、そこの蠍。お前は何を倒したんだ?」
「うむ。私は何も倒せなかったんだぞ!」
胸を張って言うリール。イライラするね。
「言い訳は?」
「あるぞ!まず私の鋏であんな骨を断ち切るのは無理だ!そして食屍鬼!あいつは臭過ぎるぞ。あの匂いはまずい。蠍は実は臭覚が敏感なのだ…知らんけど」
知らんらしい。うぜぇ。こうなれば……背に腹は変えられん。
俺はブンブンと飛んでリールの尻尾を持ち上げる。そして手頃な食屍鬼を発見し…頭上に投下する。臭え。
リールは見事に頭に着地したようで、臭いで悶えている。ふむふむ。良い光景だ。リールは食屍鬼の首をちょん切ったようだ。
「ドゴゴルぅううう!カジが酷いんだぁあああ!」
「はいはい、わかったわかった」
子供をあやす様にドゴゴルが言う。
「お遊びはこれくらいにしてキャーリヴ城に向かうぞ」
◆◆◆◆◆◆◆
俺とリールの仲直りの儀をした後、左肩にリールを、右肩に俺を乗せてドゴゴルが歩を進めている。
瓦礫しか見えない景色を延々と繰り返していたころ、ようやく景色に変化が現れる。
「あれは?」
発したのは左側を見ていたリールだ。余談だがリールは食屍鬼が現れたときは率先して倒してくれている。まぁ肩に乗ったまま猛毒魔法を発動していただけなのだが。
リールの視線の先あったのは高い高い壁だ。今度は全く傷がついていない。代わりに大きな門が完全に開かれているのが目に入る。もちろんそこに向かう。恐らくこれは城壁。ならば中にあるのは城——つまりキャーリヴ城であるだろう。
門の前に立つ。番人も警備兵もいないのが不自然なほどに完璧すぎる門。
門を潜る。——そして見上げる。
まず『黒』が目に入る。
しばらくして全体像を捉える。
次に理解する。
これは——美の極致。美の結晶。
俺はこの時これがゲームなんてことは忘れていただろう。
禍々しくも荘厳なその城。
これはなんなのだろうか。
先人の知恵の結晶だろうか。
先人の努力の結晶だろうか。
違う気がする。
言うならばこれは——そう。
神の造物——ではないだろうか。




