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アンバランサー・ユウと世界の均衡  〜唯一無二の属性<アンバランサー>を持つ少年が世界を救う!  作者: かつエッグ
第二編 「星の船」

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<幕間>インド式計算法 (リンダ・マグヌスの思い出)

 とうちゃんを助けなけきゃ…

 わたしは、暗闇のなかで、泣きそうになりながら、斧をにぎりしめ、気配をうかがっていました。

 こんなことになってしまったのは、ぜんぶ、わたしのせいなのです。

 わたしが、あんなことをとうちゃんにいったばかりに…。


 わたしは、リンダ・マグヌス。獣人のこどもです。

 わたしが、とうちゃん、かあちゃんと住む長屋は、王都のはしっこにあります。

 このあたりに住んでいる人は、お金のない人が多いです。でも、みんな仲がいいです。

 わたしの家も、お金はぜんぜんありません。

 わたしのとうちゃんは、けんせつの仕事をしています。

 カントクの指示のとおりに、重いレンガをつみあげたり、みぞを掘ったり、そういう仕事です。力仕事で、たいへんですが、わたしたち獣人族は、ヒト族より体力があり、その上、夜目も利くのでちょうほうされ、けんせつ現場ではたらく、獣人族は多いです。

 夜おそくまでがんばって働いていて、帰りはいつも夜中です。


「お前が、いい教育をうけるためには、お金をかせがないとな」


 とうちゃんは、いつも、そう言っています。


「リンダ、お前は、頭がいいから、それを生かすんだ」


 わたしは、自分ではあまり、そんなふうにはおもわないけど。

 でも、ひょっとしたら、計算のさいのうはあるかも。

 前に、近所のおばさんが、掛け算のしかたを教えてくれて。


「どんな大きな数でも、こうやって、筆算というものをすれば、答えが出るんだよ」


 それが面白かったので、じぶんでもいろいろやってみたのです。

 それで、いろんな数で、計算をしているうちに、


「あれ? こうやったら、もっとかんたんじゃん」


 というやりかたを見つけちゃったんです。

 それを使うと、おばさんが教えてくれたやり方より、もっともっと速く計算できて、答えもまちがえません。


「わたし、なんか、大発見しちゃったかも?」


 そうやって、数をあやつることが、面白くて、どれだけやっていてもあきません。

 家の前の、地面に、ぼうきれで線をひいて、いろんな数字をかけたり、わったりして、工夫をかさねていたんです。


「ほう!」


 数字を書いているわたしの上から、そんな声がしました。

 見上げると、一人のお兄さんと、二人のお姉さんが、わたしのことをみていました。

 お兄さんと、一人のお姉さんは、ヒト族でしたが、もう一人のお姉さんはわたしと同じ獣人族でした。

 どこか遠くからきた人みたいでした。お兄さんは、なんだかよくわからない、いい匂いがしました。


「すごいな、君はそんな小さいのに、()()()()()()()()()()()を使っている」


 お兄さんが、わたしの書いた数字をみて、おどろいたようにいいました。

 なんのことか、わかりません。


「ねえ、君、その計算のしかた、どこでならったの? この世界にはないはずなんだけど…」


 わたしが、じぶんで見つけた、というと、お兄さんはもっとびっくりして


「これは、たいへんなことだ。君には、すごい才能があるよ」


 そういうんです。

 えへん。

 わたしも、すこし、じまんです。


「いんどしきけいさんほうってなんなの?」


 と、獣人のお姉さんが、お兄さんにききました。


「数を掛けたり、割ったりする、たいへんすぐれたやりかたなんだ。そうか、この子、自力で発見しちゃったのかあ…」

「へえー、すごいね」


 と、獣人のお姉さんがいったけど、あれはたぶん、よくわかってないと思います。

 お兄さんは、しゃがんで、わたしの目をみると


「いいかい、君には、大きな数をあやつる、すごい才能がある。ぜったい、その才能を生かすんだ。どんなことがあっても、やめちゃだめだよ」


 そういって、去っていったんです。

 なんか、少しうれしかった。

 でも、その、わたしの才能ってやつが原因で、たいへんなことになってしまいました。


 さいしょのきっかけは、とうちゃんが、仕事のお給料をもらってきて、今月は何日働いたから、これだけになったぞ、ってうれしそうに言うから、つい計算しちゃったんです。


「とうちゃん、とうちゃんのお仕事って、一日働くといくらもらえるんだっけ」


 それで、計算をしてみると、なんだか、答えがあわないんです。

 計算まちがえちゃったのかなあ、そう思って、また計算したけど、なんどやっても合わなくて、本当の答えは、もっと多いはずなんです。


「とうちゃん…」


 わたしは、思い切ってとうちゃんに言ったんです。


「なんか、計算がおかしい…」

「なに? そんなばかな話があるか、お前のまちがいじゃないのか?」

「なんどやっても、同じになるの。ほんとは、これだけにならないといけないの」


 とうちゃんは、しばらく考えていましたが、


「ちょっとまってろ」


 そういって、出かけていきました。

 しばらくして、仲間のひとたちを連れてきて、わたしにいいました。


「おい、今から、いう数字を計算してみてくれ」


 わたしは、つぎつぎに言われる数字を、どんどん計算しました。

 わたしの出した答えをきいて、はじめはみんな、うたがっている様子でしたが、くりかえすうちに、だんだんみんなの表情がきびしくなっていったんです。


「なんてことだ…」

「この子の計算が正しければ、おれたちの給料は、ぴんはねされているってことになる」

「カントクのしわざだな」

「これは、どうにかしないといけないぞ」


 とうちゃんが、わたしに言いました。


「お前、ここに、今の計算を書いてくれ」


 わたしは、いわれるままに、計算結果を書きしるしましたが、なんだかとても悪いことが起こりそうで、不安でたまらなくなりました。


 しばらくあとになって、とうちゃんが、こんどは、わたしのしらない、身なりの良い人をつれてきました。

 その人は、大事にもっていたカバンから、数字がたくさん書いてある羊皮紙をだして、この数字と、この数字を、こんなふうに計算して、といいました。かなりふくざつな計算ですが、わたしは得意です。

 なんの数字なのかはよくわからなかったけど、その人の言うとおりに計算しました。


「むむっ、こんなことが…」


 その人は、わたしに、もう一度最初から計算するように言いました。答えは同じでした。

 数字をながめているうちに、ぱっと気がついてしまったので、


「ここと、ここの数字もおかしいです。ほんとはもっと少ないと思います」


 と教えてあげました。


「なにっ、そこもか…これは、たいへんなことだぞ」


 その人は厳しい顔をしてつぶやき、それからわたしににっこりして、


「ありがとう、君のおかげで、証拠をつかんだよ。君は、すごいな」


 そう言ってほめてくれました。

 わたしはうれしかったけど、なにか悪い予感はあったのです。

 とうちゃんが、目を輝かせて帰ってきました。


「やったぞ!」


 この前やってきた知らない人は、かんさつかんという名前のお役人で、その人が、王都のけんせつ工事にかんけいする、大きな不正をあばいたのだそうです。そのつながりで、とうちゃんたち、下働きの人の給料が、ごまかされていたことも明らかになり、かんけいしゃには厳しい裁きがくだりそうだ、とのことでした。


「お前のおかげだ」


 父ちゃんはうれしそうです。

 でも、わたしは、何となく、これですまないような気がして。

 そして、やっぱり、悪い予感はあたってしまいました。


「たいへんだ、みんながさらわれた!」


 長屋は大騒ぎになりました。

 今回の不正には、王都にはびこる大きな犯罪組織がかかわっていたらしく、きびしくとりしまられたその組織が、報復に出たらしいのです。

 武装した集団が、仕事を終えて帰宅途中のとうちゃんたちをおそい、連れ去ったというのです。

 もくげきしゃによると、


「ひどいもんだ、おおぜいの獣人が、とつぜん大きな網をかぶせられ、ていこうできないまま、その上から殴られて、たいきしていた幌馬車に乗せられて、どこかに連れて行かれた!」


 おそらく、このまま、犯罪組織はよその国に逃亡、そこでとうちゃんたちを奴隷として売るつもりなのです。

 みんな、わたしのせいです。

 とうちゃんを、助けなきゃ。


「あっ、リンダ、どこいくの!」


 わたしは、とうちゃんの斧を手に、かけだしました。

 とうちゃんを助けに行くんだ!

 王都の城壁をでて、そとを走りました。

 でも、もちろん、あてがあるわけもなく、すぐに、わたしは疲れてしまい、ふらふらと、あるきまわるだけになってしまって…。

 とうちゃん、ごめん。

 その場に、すわりこみそうになったそのとき、


「あっ、とうちゃんのにおいだ!」


 わたしの、するどい獣人の鼻が、とうちゃんのにおいをかぎあてたのです。


「こっちだ!」


 わたしは、においをたどりながら、森の中に分け入っていきました。


 そして、とうとう、みつけました。

 森の奥に、犯罪組織の馬車がとまって、武器を持った悪者たちがおおぜいいました。

 その悪者たちにかこまれて、男女の獣人が、鎖でしばられていました。

 よくみると、獣人だけじゃなくて、ヒト族もいました。


「なんでおれたちが?」

「さっぱり、わけがわかんないよ…」

「放してくれよ! 俺ら、かんけいないだろ」


 とヒト族の人たちは言っています。


「ダメだ。こうなったのは、運が悪いとあきらめろ。その魔法使いの女は、高く売れそうだな」

「ひぃいいい」


 なんか、まきぞえになったようです。


(あっ、とうちゃん!)


 とうちゃんをみつけました。

 とうちゃんの顔にはあざができて、ひどく腫れていて、悪者に殴られたようです。


(くそーっ、とうちゃん、今、助けるよ)


 思わず、斧をかまえて、駆けだそうとすると、そのわたしのからだは、後ろから、だきとめられました。


(捕まった?!)


あわてて、ふりはらおうとすると


「しっ、静かにして。みつかっちゃうよ」


やさしく声がかけられて、そして、あの不思議な匂いがして、ふりかえると


「あっ、お兄さんたち」


 そう、わたしに以前、声をかけてくれた、あの人たちだったんです。


「ねえ、あんた」


 と、獣人のお姉さんが、


「きもちはわかるけどさあ、やみくもに突進してもだめ。あたまをつかわなきゃ」


 と言いました。


「ジーナ、あんたがそれをいいますか?」


 と、もう一人のお姉さん。


「がんばったね、もうだいじょうぶだから。ぼくらがおとうさんをたすけるよ」


 と、お兄さん。

 その声が、やさしくて、あたたかくて、わたしは膝から力が抜けるのを感じたんです。


「それにしても、なんで、あの連中、こんなところで、いっしょにつかまってるのよ」

「つくづく、へんな運をもってるねえ」


 ヒト族の人たちのことらしいです。


「では、かたづけてしまうか」


 とお兄さんが言い


「イリニスティス、いくよ!/おう!」


 獣人のお姉さんの目が金色に光り、


「神々の怒りよ天降り来たれ、地獄の雷撃(サンダーボルト)!」


 お姉さんが魔法を詠唱し、


 バリッ!


 おとうちゃんたちをしばっていた金属の鎖が、ぜんぶ、いっしゅんにしてくだけちり、


 バリバリバリバリ!


 紫色の雷が、悪者たちを直撃し、


「てやぁあああああ!」


 獣人のお姉さんの刀が、武器をもった悪者をなぎたおし、


 あっという間に、悪い人たちはぜんめつしたんです。


「ひぃぃ、助かったあ」


 と、ヒト族の人が声をあげました。


「あんたらさあ、なんで、いつもいつも、そうなのよ」

「そんなこと言われても、わからないよ。歩いてたら、いつのまにかこうなっちゃってたんだから」


 どうも、お兄さんたちと、このヒト族の人たちは知り合いみたいでした。

 あとできいたら、お兄さんたちは、そもそも、このヒト族の人たちを探していたらしいです。



 みんなぶじに助かりました。

 でも、わたしはしょぼんとしてしまいました。

 わたしが、よけいなことをしたために、おとうちゃんたちをこんなことにまきこんでしまったんです。

 あんな才能なんて、ないほうが、いいのかな…

 そんなわたしを、じっとみていたお兄さんが、やさしく言いました。


「君のやったことは、なにもまちがってない。これから、君は、その才能をもっとのばして、そして、もっともっと、みんなの役に立てるんだよ」


 獣人のお姉さんもいいました。


「そうよ。あんたは見所がある。くじけたらだめ。まあ、だけど、たんらくてきなのはダメだからね。ちゃんと、目標と作戦を立てて、長い目でがんばるの!」

「はいっ! お姉さん、あたしがんばる!」

「そうそう、その意気よ」

「だから、ジーナ、あんたがそれを言いますか。あんたもずいぶん、ごりっぱになったもんねえ」

「これが、わたしのふつうです!」

「へええ、それはたいしたもんだ」


 わたしは、笑ってしまいました。


 …というわけで、「歌う嵐の獣人女王」ジーナ様は、わたくしの、素晴らしい導きの師なんですよ。


(これは、王都ではじめて、獣人の女性で宰相となり、優れた頭脳と忍耐心で社会制度改革をつぎつぎに実現していった、リンダ・マグヌス宰相の、子どもの時の思い出)


いつも読んでくださってありがとうございます。


面白いぞ、続きを読みたいぞ、そう思われた方は、応援お願いします。


リンダ:というわけで、「歌う嵐の獣人女王」ジーナ様は、わたくしの導きの師なのです。

ライラ:あたしは、びっくりだよ…

ジーナ:これがふつうです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幕間、いいですね。エピソードで世界がまた広がりますね。時間軸の方向だと、世界に厚みが出ますね。
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