8話
「……大した事はしてません、よ」
褒められすぎて少々照れる俺。
「いゃ!凄いよ」
「ありがとうね鈴木くん」
何度も褒められるがまあ、悪い気分では無い。
「それにしても料理上手なんだね」
「まるで料亭みたい」
佐藤先輩がそう言った辺りで俺はピクリと反応する。
「……そんな事ないです」
「まだ見習いですし」
少しトーンダウンして返事する俺。
「そう言えば見習いって言っていたけれど」
「どういう事?」
俺の態度が変わった事を見逃さず、俺にそう問いかける佐藤先輩。
「ぁ、いや」
「家が料亭で……」
「俺はそこの板前見習いで修行中なんです……」
一瞬答えるか迷ったものの、佐藤先輩の問いに素直に答える俺。
「おお、だからこんなに美味しいんだね!」
「凄いよ鈴木くん」
俺が板前見習いだと聞いてますます喜ぶ佐藤先輩。
「……凄くないですよ」
「家では怒られてばかりで」
「まだまだ、未熟なんですよ俺は」
佐藤先輩の笑顔をまともに見れずに目を逸らしながらそう言う俺。
「この家庭科部に入ったのも、何か俺に足りないものを見つけれるかと」
「部活を修行に利用しようなんて言う小狡い気持ちで」
「不純な気持ちで入部したんですよ」
そう、この家庭科部の為だとか佐藤先輩の為だとかでは無く、自分の都合で利用しようという聡い気持ちで入ったのだ。
なんとなく佐藤先輩の前で隠し事をしたくない気持ちが何故か出て来て、つらつらと口が滑っていく俺。
「幻滅したでしょう、料理を教えるなんて言って」
「自分の修行に佐藤先輩を利用しただけなんですよ」
「俺はそう言う奴なんです」
下を向きながら佐藤先輩に自分の聡い部分を話してしまう。
なんでこんな事を言ってしまうのか自分でもよくわからない。
きっと佐藤先輩は怒るか哀しむか、どちらにしろ笑顔では見てくれなくなるだろう。
でも言わずにはいられなかった。
……すると、
「そっか〜」
「なら是非修行に使ってよ」
佐藤先輩は怒りもせず哀しみもせず、笑顔のままそう答えた。
「ぇ?」
「俺は佐藤先輩を利用しようとしたんですよ?」
予想外の返答に俺はそう返す。
「え〜?」
「いいんじゃない?」
「だって僕は毎日美味しい味噌汁が飲めて」
「鈴木くんは修行が出来る」
「ウィ〜ンウィ〜ンってやつでしょ」
佐藤先輩は屈託のない笑顔で俺に微笑みかける。
「……」
「それを言うなら」
「ウィンウィン、ですけどね」
「ロボットダンスですよそれじゃ」
その笑顔で場の空気が緩んだのか、俺は自然とツッコミを入れていた。
「ぁ、そっか」
「てへっ」
あざとくウインクして舌を出す佐藤先輩。
「あと、味噌汁作ったのは」
「佐藤先輩に覚えて貰うため、ですよ」
笑顔でごまかそうとしていたので、俺はすかさずツッコむ。
「ぁはは〜」
「そうだった、かな〜」
「鈴木くんの味噌汁が美味しすぎて忘れてた」
すかさず俺をヨイショしてくれる佐藤先輩。
正直褒めてくれるのは凄く嬉しい。
家での板前修行では殆ど褒められるなんて事は無く、怒られてばかりの毎日だった。
職人気質の祖父は自分もそうやって鍛えられてきたのか、教え方が厳しい昔ながらの修行となっている。
最近の俺はその厳しい修行に褒められるという喜びを忘れかけていた。
でもこの部活体験に来て、佐藤先輩に満面の笑みで褒められた時に思い出したんだ。
自分の作ったもので喜んでくれるというその嬉しさに。
「うん、美味しい!」
「ごちそうさま」
満足気な佐藤先輩を見て、なんだか俺は心まで暖かくなったような気がする。
「……って」
「本当になんだかお腹があったかい?」
気がするどころでは無く、リアルにお腹がポカポカして来る俺。
「そだね〜」
「それが腹巻きの効果だから!」
佐藤先輩がドヤ顔でそう返してくる。
「そうだった!」
俺は佐藤先輩からプレゼントされた腹巻きをしていた事を思い出す。
「ふふっ」
「鈴木くんは味噌汁で僕のお腹を温めてくれたし」
「僕は腹巻きで鈴木くんなお腹を温めて」
「これじゃ家庭科部と言うよりは」
「お腹を幸せにする部、だね」
佐藤先輩が上手いこと言ったでしょ、みたいな顔でこちらを見る。
「ぁ、いや」
「上手いこと言えてませんよ……」
そんな佐藤先輩をみて俺はすかさずツッコむ。
「てへへ〜」
佐藤先輩は俺のツッコミに照れくさそうに返す。
「まぁ、そう言う事で」
「これからもよろしく、鈴木くん」
赤くなった顔を誤魔化す様に佐藤先輩が俺に向かってそう話す。
「ぁ、まあ」
「こちらこそ」
「よろしく……です」
そんな佐藤先輩を見て俺は照れくさそうに返答する。
色々あったしこれからも色々ありそうだけれど、この【君のお腹を幸せにする部】でなんとかやっていけそうな気がする。
いや、家庭科部だけどね!
徐々に沈み始めた太陽が二人の顔を赤く染めていた。




