7話
「ほぅ、そうなんですね……」
「で、なんで腹巻きなんですか?」
佐藤先輩の以外な特技を知れたというか、身に付けたというかなぜ腹巻きなのかの疑問が全く晴れていないので、改めて問いかける。
「ぁ〜、えとね」
「昨日の朝におにぎり貰った時、以外と肌寒かったから」
「昔編んだ自分用の腹巻きつけなきゃな〜なんて思ってたら」
「部活体験で鈴木くんに料理を振舞って貰っちゃったじゃん」
「だからお礼には腹巻きだ!って」
「閃いちゃったんだ」
佐藤先輩が嬉しそうに説明してくれるが、腹巻きになるくだりがイマイチ納得出来ない。
とは言え俺の為を思って作ってくれた事には間違い無い。
さすがの俺でもそんな想いを無下には出来ない。
「ぁ、まぁそうなんですね……」
「ありがとう、ございます」
なので腹巻きのお礼を少々照れくさそうに佐藤先輩に告げる。
「いえいえ」
「どういたまして〜」
「こちらこそありがとう」
佐藤先輩は屈託のない笑顔で返してくれる。
「まぁ、それじゃあ」
「お礼も貰ってしまった事ですし」
「早速始めますよ」
俺は恥ずかしい謎トマト腹巻きをしながら佐藤先輩に詰め寄る。
「……ぁ、はい」
佐藤先輩は俺の顔を見て察したのか、おずおずと返事する。
こうして俺は割烹着と三角巾をつけ、味噌汁を作る準備を始めた。
「昨日は詳しく説明せずに作ってしまったので」
「今日は説明しながら作りますね」
「よく聞いて覚えて下さい」
俺は子犬の様に緊張し始めている佐藤先輩にそう言って作業を始める。
「まずは全ての基本、出汁の作り方からです」
「出汁は主に鰹節や昆布、煮干しなどを使って作ります」
「作る人によって様々な作り方があり、それが各家庭の味としての個性となっています」
「今日の所は基本的で簡単な所から始めていきますね」
俺はそう説明し、佐藤先輩の方を見つめる。
「ほぇ〜、そうなんだ」
佐藤先輩は目をくりくりさせて俺を見つめる。
「今日使うのは昆布と鰹節を使った出汁です」
「昆布は水出しと煮出しがありますが、水出しは時間がかかるので今回は煮出しでいきます」
昆布の説明を佐藤先輩にした辺りで、
「よくあるインスタントの顆粒だしじゃだめなの?」
素朴な疑問を俺にぶつけてくる。
「別に悪くはないです」
「忙しいときなど時間が無い時には重宝しますね」
「ただ」
「ちゃんと取った出汁の方が味の深みや雑味などの面で一段上の味わいが出せます」
「各々の事情に合わせて、と言った感じですかね」
その佐藤先輩の疑問に俺は丁寧に答える。
「なるほど〜」
「じゃあ顆粒だしでもいいってこと、で?」
そう言って佐藤先輩がお得意の上目遣いで攻めてきたので、
「佐藤先輩にしっかり教える、と約束したので」
「ちゃんとした出汁の取り方でいきます!」
「わかりましたか」
俺はあえて厳し目に佐藤先輩へそう告げる。
「うっ!」
「……はい」
俺に強めに来られておずおずと引き下がる佐藤先輩。
こういう所が子犬っぽくて可愛らしい、いや可愛いなんて思ってない!
「とりあえず、昆布からいきますね」
「適切な分量の水と昆布を入れ、弱火に掛けます」
「その後、昆布を取り出し、軽く沸騰させたら」
「鰹節を入れて火を止めます」
「しばらく待ったら、茶こしやキッチンペーパーなどで濾して」
「出汁の出来上がりです」
俺は手際よく作業し、出汁が出来上がる。
「凄い!」
「魔法みたい」
佐藤先輩は俺の作業を見て色々な表情をしながら喜んでくれる。
「佐藤先輩にもいずれこれを作ってもらうんですよ」
傍観者風にしている佐藤先輩にツッコミを入れる。
「ぁ、え?」
「ハードル高いかな〜」
そんな事を言いながら視線を逸らす佐藤先輩。
「いずれ作って貰います!」
逃げ腰になっている佐藤先輩に対し、強めにツッコむ俺。
「……はい」
佐藤先輩は観念した様で静かに返事する。
「じゃあ、いよいよ味噌汁を作りますね」
俺がそう言うと、
「はい、やった〜」
なぜだか喜ぶ佐藤先輩。
「いや、佐藤先輩が部長なのだから立場がおかしいのでは?」
そんな佐藤先輩に軽くツッコむ俺。
「あ、そうか」
「ぇと、じゃあ」
「鈴木くん、作ってくれたまえ」
「えへん」
そう言ってなんだか変な返しをして来る佐藤先輩。
「いや……そう言う事では無くて」
「なんだか腹立つ、けど」
「まぁいいか」
これ以上ツッコんで話を広げるとおかしな事になりそうな気がしたので作業を続ける事にした。
「ではこの出汁に豆腐を切って入れます」
「軽く中火で火を通したら」
「乾燥ワカメを投入し、しばらくしたら火を止めます」
「その後みそを味噌漉しや、お玉のなかでだしを少しずつ加えて溶きます」
「最後に切ったネギを入れ、軽く温めなおしたら完成です」
こうして俺は手早く丁寧に味噌汁を作り上げた。
コトリ
「さぁ、どうぞ」
そう言って俺は佐藤先輩の前と自分の所に味噌汁を出し、対面に座る。
「これが……味噌汁」
そう呟く佐藤先輩。
「いや、昨日も見てますよね」
「なんで初めて見た感じで喋っているんですか?」
そんな佐藤先輩にツッコミを挿れる俺。
「ぁ、いや……ついね」
「てへっ」
照れながら話す佐藤先輩。
「では」
「「いただきます」」
そう言って俺と佐藤先輩は声を合わせる。
「いい香り……」
「ススス」
自分で啜る音を喋りながら味噌汁を飲む独特な佐藤先輩。
「美味しい!」
「なんか……こう」
「おいしい!」
佐藤先輩がそう叫ぶ。
「いや、美味しいしか言ってませんよ」
そんな佐藤先輩にツッコむ俺。
「だって美味しいんだもん」
「というか……昨日より美味しい?」
「なんで?」
不思議そうな顔で俺に問いかける佐藤先輩。
「ぁ〜」
「昨日は鰹節だけでしたから」
「今日のは昆布と鰹節の合わせ出汁なので」
「味に深みが出た、と言った所ですかね」
その質問に対し、丁寧に解説する俺。
「美味しいよ、鈴木くん」
「凄いね、鈴木くん」
味噌汁を飲む度に感想を言って褒めてくれる佐藤先輩。
「……大した事はしてません、よ」
褒められすぎて少々照れる俺。




