6話
俺の名前は鈴木 猛宗。
授業が終わった放課後、理科室や家庭科室のある特別教室棟へと向かっていた。
昨日部活紹介や部活体験があり、新一年生はそこで思い思いの部活へと入部した。
この俺はと言うと……昨日の部活体験で色々とあり、家庭科部に入る事となった。
この学校は男子校である為、運動部の方が人気がある。
文化部の方は人気が無いとは言え、美術部などに入る生徒は一定数居た。
そんな中、俺は不人気なのは承知の上で家庭科部の部活体験へと向かい、さらには入部までしたのだ。
それはなぜかと言うと……と思いを巡らせた辺りで、
「ぁ、鈴木くん」
「ようこそ、家庭科部へ」
家庭科室に着いてしまい、その家庭科部の部長である佐藤 現実……先輩に声をかけられる。
「ぁ、はい」
「どうも」
部活体験で勢い余ったとは言え、佐藤先輩がやるはずだった料理デモンストレーションを俺がやってしまった。
さらには佐藤先輩に料理を教える流れになり、毎日味噌汁を作ってあげることになって……しまったのだ。
まぁ、料理を教える事自体は苦痛では無いし……あんなに美味しそうにご飯を食べてくれるなら、また作ってあげてもいいかな……なんて、いやいや料理の道は厳しいのだ!教えるなら厳しくいかないと。
「良かった〜来てくれて」
「ありがとうね」
凄く純粋な満面の笑みをストレートに向けられて怯む俺。
なんというか、こうも直接想いのこもった笑顔を向けられるとなんか……こう、照れると言うか。
顔が赤らめそうな所をグッと堪えて表情を引き締める。
「……しっかりと覚えてもらいますから」
「覚悟して下さい」
そう言って俺は佐藤先輩に脅しをかける。
「……優しく、してね」
佐藤先輩が上目遣いで俺に迫って来る……、
「……そんな目をしてもダメです」
「厳しくいきますよ」
その笑顔に一瞬絆されそうになるものの、釘を刺す様に佐藤先輩に返答する。
「じゃあ早速ヤリますか」
俺が佐藤先輩に向かってそう言うと。
「もうヤルの?」
キョトンとした顔で俺に向かって返してくる。
「そうですよ、その為に俺は来たんですから!」
なんだかのらりくらりと躱されそうなやり取りだったので、俺は改めて叫ぶ。
「大丈夫だよ〜食材とかは準備してあるから」
佐藤先輩がそう言い、なんだか相手のペースになりつつある気がして来たかと思うと、
「でもね」
「その前に見せたいものがあるんだ」
そう言うと佐藤先輩は何やら箱を取り出した。
「……ほぅ、なんですか?それは」
話の流れが変えられてる気もするが、ひとまず乗っておくことにする。
「これはね〜」
「じゃん!」
佐藤先輩は子供っぽく叫んで取り出した箱の蓋を開けた。
その箱の中には……手拭い?タオル?なのか布製の何かが入って居た。
「ゴソゴソ」
ゴソゴソと自分で言って箱の中身を取り出す佐藤先輩。
「なんですかこれ?マフラー?」
取り出した物体がマフラーっぽく見え、何故にマフラー?と思いつつなぜこんな春先に?と疑問が絶えない。
「ふっふっふ」
「腹巻き!」
佐藤先輩は俺に向かって自信満々に叫んだ。
「……なんで腹巻き?」
急に出て来た腹巻に困惑する俺。
目の前に広げられた腹巻きには大きめのトマト?が描かれている……いや編み込まれている?とでも言うのか。
「なぜトマト?」
困惑ついでについ俺は佐藤先輩に聞いてみる。
「ぇ、だって美味しいから」
答えになっていないのだが、屈託のない笑顔でそう答えられて俺はトマト件についてはスルーする事にした。
「ほら、どうぞ鈴木くん」
「早速着てみてよ」
そう言って謎のトマト腹巻きを手渡された。
「……ぇ!?」
「俺が着けるの?」
「なんで?」
状況が把握出来ずに思わず変な声を出しながら叫んだ。
「……ダメ?」
佐藤先輩が上目遣いとウルウルした目で脅迫して来る、いや脅迫はしていないけど迫ってくる。
「……」
「……はぁ」
「わかりました」
自分でも何故だかわからないが、佐藤先輩に迫られて謎腹巻きをつける事を承諾してしまった。
あんな顔で迫られたら断りづらいし、断ったら泣いてしまいそうだし、小動物みたいな目で見つめられてつい承諾してしまった。
俺は渋々上着のブレザーを脱ぎ、机にかける。
そして手渡された謎のトマト腹巻きをつけて佐藤先輩の方を向く。
「……これで……いいんですか」
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
「うん!」
「すっごく似合ってる!」
「かわいい!」
佐藤先輩は凄く喜んでいるようで、その笑顔からストレートな気持ちが伝わってくる。
ただ、シャツの上に腹巻きという状態なのが少々恥ずかしい。
「でも何故に腹巻きを?」
頭に浮かんだ素朴な疑問を佐藤先輩にぶつけてみる。
「……それはね」
「昨日の朝ご飯のと」
「おにぎりの件も含めてのお礼」
佐藤先輩が俺の問いかけに答えてくれる……が、腹巻きの答えになっていない気がする。
「……お礼ですか?」
「いや、おにぎりのお礼なら」
「この謎縫いキーホルダー貰いましたよ?」
そう言って俺は何故かおにぎりのお礼に貰ったつちのこの縫いキーホルダーを見せる。
「ぁ、鞄につけてくれてるんだ」
「ありがとう」
佐藤先輩はその縫いキーホルダーを見て凄く喜ぶ。
「いや、俺キーホルダーとか持って無いから」
「鞄の目印とかに丁度良かっただけで……」
自分の鞄と他の人の鞄を区別する為にキーホルダー等をつける事が一般的らしいのだが、そんなキーホルダーなんて俺は持っていなかった。
「このキーホルダー、あまり売ってなさそうなキャラで」
「他の人と被らないから区別しやすかったというか……」
だから丁度良かっただけで別に何の他意も無い。
なんて俺が言い訳をつらつらと喋っていると、
「ぁ、うん」
「それ、僕の手作りだから」
佐藤先輩がさらっと意外な事を言う。
「ぇ、これ佐藤先輩が作ったんですか?」
あんな料理の手際だったのに……なんてうっすら思ったが、人それぞれ得意分野はあるのか?と思い直す。
「うん、僕そういうのを昔からよく作ってたから」
「割と得意なんだ」
「かわいいでしょ」
そんな事を言う佐藤先輩が可愛いかもしれない……なんて事は思って無い!
俺はそんな事を思いながら貰ったつちのこのキーホルダーと佐藤先輩を交互に見つめた。
「僕、裁縫とか編み物とかが出来るから」
「新部長に選出されたんだ」
「ぇへん!」
小さな佐藤先輩が頑張って大きく胸を張る。
なんだか子犬かハムスターみたいに見えて来た。
「だからその腹巻も僕の手編みなんだ」
そう言って俺の着けている腹巻きを見つめる。




