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第9話 私は魔法使い

 今日は待ちに待った日。

 月に一度行われる、ギルドの適性判別を受けられる、十五歳の()()となった日だ。

「ナヴァリアー、準備はできたのー?」

 お母さんのエリアナが呼ぶ声が響いている。

「うん、今行くー」

 

 私は黒を基調としたマントと長いスカートを身に纏い、冒険者の魔法使いとして見える格好をしていた。

 そして忘れてはならない大きめのとんがり帽子を掴んで、母の呼び声のもとへ急いで向かった。

 

「ジャーン♪ どう? 似合うかな?」

 私はお母さんの前に飛び出すと、晴れ姿の感想を聞くために目の前でクルリと回って見せた。

「あらー、なかなか良いじゃない、可愛いわぁ」

「んー、そうじゃなくて魔法使いって感じがやっぱするよね?」

「そうねぇ……どちらかと言うとそのお弟子さん?」

「もぅ! やだー! ……フフフ……」

「アハハハ……」

 

 いつものお母さんとの他愛のないやり取りを終えると、お母さんが尋ねてきた。

「ところでギルドへの登録が終わったら、ナヴィアナは迎えに来てくれるんだっけ?」

「うん、私が登録できる年齢になったぐらいにこっちに来るって言ってたよ」

「……そっかぁ……あとはナヴァリアのもんだ……」

「お、お母さん!」


 私はお母さんが何を言いかけるのかを察知してすぐに話を遮った。

「だ、大丈夫だから! ギルドの講習もあるしそこで訓練するから! ……じゃ、行ってくるね!」

 私はそう言い残すと急いで家を飛び出し、冒険者ギルドへと駆けて行った。


 ◇


 ギルドに着くと登録のための初期講習の部屋へ通された。

 そこには十数名ほどの新規登録希望者がおり、各々が小さな椅子に腰掛けて説明を待った。

 とはいえ講習内容なんて殆どの者が知っているもので、ただの手続きの一環だ。

 早く判別させろとか、ダルいなど軽口がチラホラ聞こえていた。

 

「それじゃ、説明始めまーす」

 そう言いながら部屋へ急ぎ足で入ってきたのは、中年っぽい男性のギルド職員だ。

 職員は壇上へ足早に上がると慣れた早い口調でつらつらと説明を始めた。

 

「えー、はじめまして私の名はソーントンです。それでは今回の初期講習をさせて頂きます。ギルドで登録を行うにはまず1テリス金貨を納めていただきます。それから適性判別を行う水晶に触れていただきます。水晶に触れると十二色に変化し、それぞれの色が登録者の持つ能力の効率的な成長を抽象化した色になります。パーティを組む際の役割の参考になると思います……まぁ喩えますと、職業などが分かりやすいかと思います。青色は神官、赤色は魔法使い、黄色は戦士ですかね。白色の勇者や紫色の賢者は職業ではありませんが資質が備わっていると考え、色に応じた能力が成長しやすいと思って頂いて結構です。詳しく知りたい方は判別所にて色別の役割化した職業資質表を貼り出しておきます。それと、色に応じた能力しか習得出来ない訳ではありませんが、それなりに苦労するものとお考え下さい。えー、次に注意点がございまして……」


 ……う~ん……長い、長すぎる……眠くなっちゃう……真面目に聞いてる人は殆どいなくて、目を瞑って寝ているか、どこか遠くを見つめている人、小声で会話をしている人ばかりだ。

 どうせ私は赤色の魔法使いの資質を示すのだし、説明も形骸化しているんだから希望する人だけにすればいいのに……。

 

 私の両親は若い頃、赤いメダルを引っ提げて、魔法使いとしてギルドで活躍していた。

 二人が結婚しこの街で私達姉妹が生まれた。

 殆どの人は十三歳の精霊式を受けた後に本格的に魔法が使えるようになるのだけど、私とお姉ちゃんはそんな親の資質を受け継ぎ、精霊式を受ける前の幼い頃から二人で魔法を使って一緒に訓練をしていた。


 そして、お姉ちゃんはギルドで適性判別を受け、赤色で魔法使いの資質として判別されたのだ。

 そうなると私もお姉ちゃんとほぼ同じように育ったのだから私も魔法使いの判別を受けるはずなのだ……。


 ◇


 長い長い初期講習が終わりやっと判別所へ着いた。

 部屋へ入る前に初期講習修了証と1テリス金貨を受付窓口で支払い、支払いの証となる木札を受け取ってから間取りの大きな部屋の中へ入った。

 (登録料の1テリス金貨は七歳の頃から八年かけてやっと貯めたお金だ。絶対に赤色を引きたい!)


 判別所の中は初期講習を受けた人と再判別を受ける人とでそれなりに混んでいた。 

 判別を行う水晶は三ヶ所ありそれぞれに列を作って待機していた。

 私は真ん中の列に加わり順番が訪れるまでドキドキしながらその時を待った。

 すると左の列、丁度私のすぐ斜め前に並んでいる兄妹と思われる子たちの話が聞こえてきた。

 

「お兄ちゃん、何色の判別がいいの?」

「そうだなぁ……やっぱ戦士の黄色とかかなぁ……」

「あたしは何色になるのかなぁ……」

「フフッ……ザリアは何かなぁ……」

 

 兄は私と同じ十五歳ぐらいだろう、妹は五、六歳ぐらいかな? という感じの二人だ。

 この二人のやりとりでお姉ちゃんがギルドに登録する時、一緒についてきた時の事を思い出していた。

 初期講習を終えるまでこの部屋の外で待ち、お姉ちゃんの判別の時は一緒に並んでその時を見守ったのだ。


 お姉ちゃんが赤色の判別を受けた時には『私も同じ赤色よね!』なんて言って、勝手に想像して大はしゃぎしていた事を思い出していた。

「確か……お姉ちゃんと私で『大魔法使い』となって有名になり、ヘディンさんを助ける冒険を一緒にするって夢だったのよね……」

 ヘディンさんの夢を叶える冒険なんだけど、私はお姉ちゃんと一緒に魔法を使いまくって大暴れの冒険をするというのが、お姉ちゃんと小さい頃に立てた目標であり夢なのだ。

 

「あー黒色だぁ」

「うぇ……斥候かぁ……やっぱ戦士がよかったかなぁ……」

「あはは……」


 先程の兄妹の声で、自分の番が目の前に迫っていた事に気がついた。

 黒色でも悪くないと思うけど、希望が外れたらショックだよね……なんて同情していると「次の方どうぞ」との案内でついに自分の番が回ってきた!

「あ、はい!」


 (ついに運命の時……女神様お願いします! 赤色で!)

 心からの祈りと共に恐る恐る水晶に手を伸ばす。

 

 『ガシャーン!』

「マジ、ふざけんな!」


 突然の大きな音と怒鳴り声で皆が音の方へと注目した。

 どうやら右の列で二十代ぐらいの男性冒険者が水晶の判別に納得がいかずキレて水晶を割ってしまった様だ。

 すぐにギルドの職員達が駆けつけ、男を押さえようとしていた。

 

「再判別六回目だぞ! 魔法と剣をそれなりに使えるようになってんだ! なのに何で毎回黄色ばっかなんだよ! 普通に藍色で魔法剣士の資質ぐらいあるって示すだろがよっ!」

「あ、暴れないで下さい……落ち着いて……」

 水晶での判別を行っていた職員たちも加わり必死に宥めようとしている。

「あぁ、判別所あるあるだねぇ……」

「あれだろ? 特異色目指してダメだったやつ……」

 

 誰かがポツリと呟くのが聞こえた。

 確かギルドでは事前に、このような行動を慎むよう注意があった。

 希望通りの判別結果ではなくても、感情的な行動や言動を控えるようにと……。

 そして、努力と研鑽を積めば希望の色になる事も可能であると……。


 特異色は喩えるなら魔法剣士や重戦士などであり、これらの判別を受けることになればギルドからの依頼報酬や買取金額が上乗せされ、より稼ぎが楽になることから再判別で特異色を目指す者も多いのだ。


 ともあれ、六回も判別を受けて全て同じ結果というのはどれだけの努力と研鑽を積んだのやら……再判別だけで合計6テリス金貨を無駄にしたと思えば確かに痛いよね……。


 そんな事を考えているうちに男は職員に押さえ込まれながら別部屋へと引きずられて行った。

 判別を担当していた職員達も戻ってきた。


「あら、赤色ですね。ではメダルに水晶の魔力を登録してきますのでしばらくお待ちください」

「へっ……?」

 私の手は水晶に触れる手前で止めたつもりだったが少し触れてしまっていたのか、水晶が赤く色付く瞬間を逃してしまった。

 だけれども、やはり私もお姉ちゃんと同じ赤で魔法使いとしての資質を示したのだ。

 

「く~っ……やった~!」

 私は思わず喜びの声を漏らしてしまった。

 私は早くお姉ちゃん達にこの事を報告したくて堪らなくなった。


 (一体いつごろこっちに戻ってくるんだろう……あぁ、お姉ちゃんとの冒険が待ちきれないよ~……)

 

「お、お兄ちゃん……わたし……魔法使い……」

「ハハハ……魔法使いが良いのか? ザリアは希望通りになったらいいな!」

「……」

 

 仲の良さそうな兄妹の兄がメダルを受け取り、去り際の会話が耳に入ってきた。

 (やっぱ、女の子にとって魔法使いって憧れだよね)なんて思いながらウンウンと頷いた。

 すると、女性職員が戻ってきて私に講習を受けるかどうかを質問してきた。

 

「わたくしたちギルドの方で魔法や武器を使った近接戦の訓練などを行う講習がございます。利用なさいますか?」

「あ、あの……魔法の指導をしてくださる方とかいらっしゃいますか?」

「はい、おられます」

「では、お願いします……」

「かしこまりました」

 

 職員から念願の赤いメダルを受け取ると、すぐに首に掛けてその足でギルド内にある魔法訓練所へと向かった。

 ここからが私の一番の問題と向き合うことになる……。

 適性判別で赤を示したのだから私は魔法使いになれる……この事実は私の問題へのプラス材料だ。


 私は幼い頃、お姉ちゃんと訓練に励み魔法の練度を上げてきた。

 そして、お姉ちゃんは精霊式を受けてから魔力濃度が上がり魔力の量も爆発的に増え、魔法の威力は凄まじいものになった……。

 

 ……だが、私は精霊式を受けてから魔力濃度も量も増える事はなく……ただ……()()()使()()()()()()()()()()()のだ。


 

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