第10話 魔法講習
とにかく、私はお姉ちゃんと一緒に冒険するため、使えなくなった魔法をもう一度使えるようにしなくちゃダメなんだ。
その強い意志で私はギルドが行っている初期魔法講習に申し込んで、自分に足りないことを探し、指導している方からアドバイスを貰えたらとの思いで訓練所に来たのだ。
訓練は屋外で行われ、十数人ほどがすでに集まっていた。
私のお父さんやお母さんも魔法使いとしての経験から色々と教えてくれたけれども、解決には至らなかった。
「大丈夫、大丈夫……きっとまた使えるようになる……」
私は胸の前で手を組み祈るように呟いた。
教会の鐘の音が一つ鳴り響き、しばらくすると建物内から一人のギルドの講師らしき人が出てきて挨拶を始めた。
「初めまして、皆さん。新たな冒険者として登録をして頂き誠にありがとうございます。わたくしめはギルドの魔法講師で名をマルムスクと申します。ここでの訓練は鐘の音が一つ鳴る頃から始めますので、鐘の音が聞こえたら速やかに集まって頂きますようお願いいたします」
慣れた口調で手短に挨拶を済ませると、マルムスクさんは続けて質問をしてきた。
「では、この中で魔法が少しでもできる方は挙手をお願いします……」
この質問は私の心にチクリと刺さった。
正直手を挙げたいところだったが、今の私は魔法が使えないので手を挙げるわけにはいかなかった。
そして、周りを窺うと手を挙げていないのは私と男子二人の三人だった。
「わかりました。それでは、魔法がまだ使えない方は少しお待ちください……」
そう言うとマルムスクさんは使える人を集めて、簡単な炎の魔法を発動させて個人の技量の確認をし、アドバイスをしていた。
私はその光景を眺めながらどんなアドバイスを送っているか耳をそばだてていた。
「……いいですね、もう少し丁寧にすると魔力の消費が抑えられますよ……」
「……ゆっくり、確実に行えるよう反復しましょう……」
「……問題ないですね……あとは研鑽を積んでいけばいいかと……」
それぞれがアドバイスを受けると離れた場所で独自の課題に取り組んだり、訓練所を出て行ったりしていた。
魔法が使える人たちへのアドバイスを終えると、マルムスクさんは私達の元へやって来た。
「お待たせしました。では、お名前を伺ってもよろしいですかな?」
「あ、ブラナズです」
「ローベンっす」
「ナヴァリアです」
マルムスクさんは小さく頷くと続けた。
「それと……始める前に確認ですが、自身の体内を魔力が廻るのは感じますか?」
私とローベンは大きく頷いたが、ブラナズは困った顔をしていた。
「では、神代文字または魔法陣を覚えていますか?」
私とブラナズは頷いたが、ローベンは首を大きく横に振った。
「では、魔力操作は出来ますか?」
私は頷いたが、ローベンとブラナズは自信がないというか、わからないという感じで「うーん」と唸るだけだった。
「なるほど……わかりました……ナヴァリアさん……基本は理解されている……という事ですかね?」
マルムスクさんは顎に手をやり言葉を選んで尋ねているようだった。
「あ……はい……両親が元冒険者の魔法使いとして活動していたので……基本は教えてもらいました」
「フム……承知しました……」
マルムスクさんは目を瞑り何か考えながら返事をすると、懐から折り畳まれた紙を取り出し、その中の1つを私たちに見せて言った。
「まずこの魔法陣を覚えてください」
それは幼い頃にお姉ちゃんと一緒に訓練していた魔法陣だった。
「それでは赤のメダル所持者ということで、三人一緒に生命系魔法で一番簡単な風魔法の風切り魔法をやってみましょう」
「はい!」
三人同時に返事をすると、マルムスクさんはブラナズの背後に立ちアドバイスを始めた。
「ブラナズくん、まず君は体内を廻る魔力を感じる訓練をしましょう」
「は、はい……ですが、魔力を感じるとは……?」
「まずはこれからですね」
マルムスクさんはブラナズの腕を左右に広げると手を上から合わせる様に握った。
「今、わたくしの魔力をブラナズくんの左手から右手へまっすぐに通しています……わかりますか?」
「はい! 何かが通り抜けて行くみたいです!」
そして、マルムスクさんは手を離して更に尋ねた。
「では、今はどうですか? 右手と左手の辺りから何か感じるようになりませんか?」
ブラナズは両手を見ながら恐る恐る答えた。
「た、確かに……先程の違和感とはまた別の……何ですかコレ……」
マルムスクさんはニッコリと微笑んでいた。
「手を握った時に感じた違和感は、わたくしの魔力がブラナズくんの体内を駆け抜けたものですよ……魔力には人それぞれに波長があるので、わたくしの魔力は異物の様に感じたのです。そして、ブラナズくん自身の魔力は普段から身体に馴染んでいるので、思いのほか気づきにくい。そこにわたくしの魔力が体を通る事でブラナズくんの魔力がそれに反応し、いつもより魔力密度が高くなり、魔力を感じやすくなったのです」
「あはっ! これが僕の魔力なんですね!」
初めて認識できた自身の魔力にブラナズは、やや興奮気味だ。
「今からその感じ取っている魔力を左手から頭、右手、右足、左足、左手と体の内側をなぞっていくように意識して廻らせる訓練をしてください……初級魔法ぐらいならすぐにできるようになるでしょう」
「わかりました!」
ブラナズは元気よく答え、すぐに訓練に入った。
次にマルムスクさんはローベンの前に立った。
「ローベンくんはこの風切り魔法の魔法陣を覚えましょう」
「あ……は、はい……」
ローベンはなぜか引きつった笑顔で答えていた。
「魔法陣は神代文字を円状に組んだ形なので、神代文字を勉強しておくと他の魔法陣も覚えやすくなりますよ。風切り魔法の魔法陣は丸暗記してください」
「……わ、わかりまし……た……」
この返事でローベンは物事を覚えるのが苦手なのだとわかった。
それでも、赤色の判定を受けたということはコツをつかめれば才能が開花するのだろう。
最後にマルムスクさんは私の前に立ちお願いをした。
「ナヴァリアさんは基本を理解してらっしゃるとのことですが……魔法陣を地面に書いていただけますか?」
「はい……」
私は言われた魔法陣を指先で足元に書いた。
「フム……正確ですね……では、一度魔法行使までを見せていただけますか?」
「……は、はい……」
私は魔法が使えていた時と同じ様に右手を前に突き出し、『魔法発動の基本』を丁寧に行った。
(まずは、体内の魔力を廻らせ魔力密度を高くする。次に、魔法陣のイメージを明確に持つ。最後に、体内に廻る魔力を右手から、魔力操作で右回りに魔法陣の形で流し込む。右手親指から小指へのイメージで……完成して発動!)
「風切り魔法! ……」
……私の声が虚しく響いていた。
感覚的には発動の直前まではいけそうな感じだが、いざ発動となった時には急に立ち消えてしまう感覚がある。
この感覚の正体もしくは解決法を求めて私はこの訓練を申し込んだのだ。
「うーむ……特におかしなところはないように感じますね……」
マルムスクさんは少し困った顔をして言った。
私はずっと悩み続けていたこの問題を、勇気を出してマルムスクさんに打ち明けてみようと意を決して話した。
「あ、あの……私、四歳頃に魔法は……ある程度使える様になっていました……で、でもある日から魔法が……全く……つ……使えなく……なって……」
溢れ出しそうな涙を必死に堪えながら私はマルムスクさんの目を見て訴えた。
「いつ頃から使えなくなったか覚えていますか?」
優しい口調でマルムスクさんは尋ねてきた。
「精霊式を受けた後ぐらいです……すぐに使えなくなったわけではなく……二、三日後ぐらいに……全く使えなくなりました。わ……私はこのままずっと……魔法が……使えなくなってしまうので……しょうか?」
ついには堪えきれず溢れ出た涙が頬を伝い、私は『もう魔法は使えない』と言われてしまうかもしれないという恐怖心に支配されていた。
私は溢れ出た涙を拭い、恐怖心を押し殺してマルムスクさんの顔をゆっくりと見上げた。
マルムスクさんはニッコリと笑いながら優しく、穏やかに語りかけてくれた。
「そんなことありませんよ。精霊式を受ける前に魔法を使えた人たちの中には、稀に式の後使えなくなったという人が確かにいます。しかし、わたくしの知る限り、そのまま魔法が使えなくなった人はいません。原因は人それぞれですが、原因を解決できれば皆、また使える様になっています」
「ほ、本当ですか!?」
その言葉に私が流していた絶望の涙は嬉し涙へと変わり心が一気に晴れ渡った。
「まぁ、原因を突き止めるのが大変なんですけどね……わたくしも数は少ないですけれども、過去の原因を元にお教えできればと思います」
「はい! よろしくお願いします!」
原因を突き止めればまた魔法が使えるようになる、私はそれがわかっただけでもこの訓練に申し込んだ甲斐があったというものだ。
鐘の音の回数を変更しました。




