第11話 風切り魔法
マルムスクさんから過去の事例を基に、いくつかの原因として当たりそうなものを教えてもらった。
それからの私は過去の事例を参考にし、事例以外で原因となりそうな事も手探りで探していた。
そして、私がマルムスクさんのアドバイスを受け始めて二日が過ぎたある日。
ギルド内の訓練場へ向かう道中で、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている見知った顔の男の子二人が私を待ち構えていた。
目に入っただけでイラついてしまうドゥジェンとボッタフだ。
二人とも歳は一つ上でドゥジェンがガキ大将、ボッタフはその手下のような関係だ。
七歳ごろから何かと私に絡んでくるこの二人、最初は好意なのかわからないが優しく接してきていた。
しかし、その態度は傲慢な性格が出てすぐに最悪になり、私の嫌いな奴一位と二位になった。
「なんでアイツらがここにいるのよ……」
私は無視してそのまま通り過ぎようとしたけれども、二人は前に立ち塞がり、嫌味ったらしく、何故か勝ち誇ったかのような顔をしていた。
「おう、ナヴァリア。お前がこんな所に何の用があるんだ?」
「別に……どうせ知っているんでしょ……」
「ドゥジェンさん、ほらほら~、言ったら傷ついて泣いちゃうかもですよ~」
(あぁ、マジウザい……)そう思いながら足早に横を通りすぎた。
「あっはぁ~、お前魔法が使えなくなって訓練受けてるんだってな? ダッセー俺たちに嫌がらせした天罰だぜ! あとなほれ見ろよ、俺は黄色のメダルで生命系魔法も使えるし、すぐに魔法剣士の藍色判定も受けちまいそうだぜ!」
そう言って掌から火球を出し煽っていたが、私は気にした様子も見せずにそのまま訓練所へ向かった。
正直、内心腹立たしいが黄色のメダルで生命系魔法が使えるというのは珍しくもない。
それだけでは魔法剣士にはなれないんだもの。
ただ、あんた達に嫌がらせって何? 私があんた達の嫌がらせに対して、魔法でビックリさせて返り討ちにしてただけじゃない。
その後もどうしてもやり返したかったのか、腕力で従わせようとしてきた事もあったが、それもアッサリ同じように腕力で返り討ちにしてやった。
私は体力にも自信があったし、お姉ちゃんがいた時はお姉ちゃんにお尻を蹴飛ばされていたものだ……ドゥジェンたちは年下の私に負けるほど弱い連中だったのだ。
それでも、態度を改める事はなくずっと逆恨みされ続けていた。
ほんとしつこいたらありゃしないわ。
今となっては体格差で体力勝負では完全に負けるだろうけれども、私はあんな奴らと馴れ合う気なんてさらさらない。
◇
私が訓練所につくとローベンが既にマルムスクさんと一緒にいた。
もう一人いたブラナズは昨日の訓練で要領を得たらしく、後は自身の研鑽でという事で魔法講習を終了にしていた。
私は小走りでマルムスクさん達の元へと向かった。
「すみません、少し遅れました」
「あ、ナヴァリアさん大丈夫ですよ」
笑顔で迎えてくれたマルムスクさんはそのまま続けた。
「お二人には今日、アシストを付けてやってもらおうかと思います」
「あ……しすと……?」
ローベンは首を傾げていた。
「詠唱の事ですよね」
「そうですね。では呪文もおわかりですか?」
私は軽く頷いた。
(詠唱か……これも効果出なかったんだけど、ローベンの覚えの悪さを補わせるため、私と一緒にやって覚えやすくする狙いなんでしょうね……でも、どうして……?)
「魔法陣は神代文字を円状に組んだものと言ったことを覚えてますか? その文字を読み上げて魔法陣の完成を正確にイメージしやすくする手法なのですよ」
ローベンは「ほー」と声を出していた。
「コホン……では呪文を唱えてみましょう。復唱してください」
「はい」
私とローベンの返事を受けてゆっくり詠唱を始めた。
「スヴォーラメィ……」「「スヴォーラメィ……」」「ナードフシャーラン……」「「ナードフシャーラン……」」
一通り唱え終わるとマルムスクさんはローベンに魔法陣を書いた紙を見せ、呪文を唱えながら魔法陣の神代文字の発音に当たる箇所を指差して教えていた。
「こんな感じです……わかりましたか?」
「そうですね……わかりやすくなったと思います……たぶん……」
「ちなみにですね、現代訳にしますと『我に応えよ 源を糧とし 生まれ出よ 刃』となります」
「意外とシンプルですね……でも具体的にイメージしやすくなりました!」
ローベンは何かわかったかのように声を弾ませていた。
「では、ナヴァリアさんお願いしますね。一緒にやってみましょう」
「……はい……」
思わず私はちょっと不満そうな返事をしてしまった。
しかし、知っていると言っても私は何も出来ていないのに、こんな態度ではいけないとすぐに考え直しローベンと一緒に訓練を始めた。
「スヴォーラメィ ナードフシャーラン ビリーフェッド ブロード」
◇
詠唱での訓練を開始してから暫く経ったある時、ローベンは辺りをキョロキョロと見回していた。
「どうしたの? ローベン」
「ん? いや……マルムスクさん何処に行ったのかなぁって……」
「……そう言えば確かにいないね……」
大して気にも留めていなかったが確かに見当たらなかった。
「マルムスクさんに何か用なの?」
「いやぁ……呪文は覚える事が出来たけど、ここからどうすれば次にいけるのかなぁって……」
どうやら少し飽きてしまったみたいだった。
「ん~、余計なお世話になるかもだけど、節ごとに魔法陣をイメージして魔力を均等に流し込んでいく感じでやってみて」
「ん……あぁ……」
ローベンはあまり深く考えずに私のアドバイスを素直に実践してくれた。
(これならすぐに出来るようになるかも……)なんて思っていた。
「な、なんだ!? パリパリした感じがあるぞ!」
(あらら、アッサリ出来ちゃったみたい)
私は笑いそうになったがローベンに仕上げを教えた。
「とりあえず、地面に狙いをつけて『風切り魔法』と唱えて」
「わかった……『風切り魔法』!」
ローベンの手から風の刃が放たれ地面に直撃し砂埃を舞い上げた。
「おぉぉっ! 出来たのか!?」
ローベンの嬉々とした表情に私は「おめでとう」と言って心から祝福した。
ローベンはやったやったと大はしゃぎだ。
「ありがとうな、ナヴァリア! ……魔法が使えてたなんて大見栄を張ってるのかと思ってたぜ!」
「あー、んーまぁ……はは……」
見栄を張ってるって言われるとは思わなかったからか、私の中でかなりの勢いでテンションが下がってしまった。
「風切り魔法は魔力操作やイメージの広げ方を磨いていけば、発動が早く刃の数も複数出せるようになるよ、あと飛ばした刃も魔力操作でコントロールできるからね」
「うぉ! マジかすげーな!」
「ただ、威力は表層を斬りつける程度しかできないから……切断とか無理だからね」
「えぇぇぇっ……!?」
今度はローベンのテンションが勢いよく下がっていた。
この魔法の威力に関しては誰もが思うところだけどね……ただこの先にある魔法を習得するには練習あるのみだ。
「この魔法は大事な基礎が詰まってるからいっぱい練習したほうがいいよ」
私はそう付け加えたのだがこの言葉が届いているのだろうか……。ローベンの落ち込み具合は相当なものだ。
そうこうしている内にマルムスクさんが駆け足で建物から出てきた。
「す、すみませんね……ちょっと用を足しに行ってました」
「え……」
私とローベンは顔を見合わせるとクスリと笑い、それからマルムスクさんにローベンが魔法の発動に成功したことを報告した。
マルムスクさんは驚きと喜びを見せ、ローベンが実演して見せていた。
それを見たマルムスクさんがさらにアドバイスを送り今日の訓練は終了した。
おそらく明日にはローベンは訓練を終えるのだろう。
(早く私も原因を見つけ出さないと……)私の中で少し焦りのような感情が生まれていた。




