第7話 冒険の始まりの街 ルードスロア
ドン! ゴンッ!
「痛っ!」
馬車の車輪が大きな石に乗り上げ、地に叩きつけられた衝撃が無防備な姿勢で寝入っていた僕の身体を軽く浮かせた。
そして、そのまま頭を馬車の床に打ちつけて、僕は痛みと共に目覚めた。
「て、敵襲ですかっ!?」
僕はビックリして打ちつけた頭を押さえながら思わず声を上げた。
「スヴィルさん、すみませんです……昨晩この辺りで雨が降ったらしく、街道に大きなぬかるみがあったんでさぁ。それを避けようと迂回した所に、石ころがあって乗り上げてしまったんでさぁね……大丈夫でやすかね?」
「あぁ、なるほど……ビックリしました。大丈夫です」
御者も僕の声にビックリした様子で答えてくれていた。
思わず声を上げてしまった自分に少し恥ずかしさを感じながらも、大事ではなくて内心ホッとしていた。
「スヴィルさん、ルードスロアが見えてますよ……西門の方から入りやす」
声をかけられ、すぐに御者の隣から顔を出して外を確認した。
そこにはルードスロアの防壁と西門、そう遠くない場所に更に集落のようなものが幾つか見えていた。
「街の傍に……む、村ですか……?」
「あぁ、ここへ来るのは初めてなんすね? ルードスロアは街と言うより都市城塞に近いでやすね……あ、街の近くにあるのは村じゃなくて、ルードスロアへの移住が出来なかった者達が集まって出来た集落でやすね。そこで生計を立てる仕事を営んでやす。まぁ、殆ど村に近い感じでやすけど……」
「ルードスロアって移住は難しいんですか!?」
「まぁ……大陸一安全なんて触れ込みのせいか、移住者であっという間に街がいっぱいになっちまったみたいなんでさぁ……城壁の拡張をしてもすぐにいっぱいになっちまうんでさぁ……」
「でも、王都の方が安全なのでは?」
僕は覗き込む様に御者に尋ねた。
「安全と言っても金持ちや貴族でなけりゃぁ、やっていけませんですぜ……」
「あー、そうなんですか……」
王都に移住というのは、それなりに敷居が高いところであるとすぐにわかった。
「ちなみにですが、東門の方の集落は主に農業で生計を立ててる者が集まってますぁ……色んな作物を育てている様でそれなりに景観がいいですぜ」
「それは見てみたいですね」
門の近くに来て鐘の音が十二回鳴るのが聞こえてきた。
「もうお昼過ぎたのか……」そうポツリと呟いた。
「お腹も空きやすよねぇ……」と御者が返してきて一緒に笑った。
御者とあれこれ話しているうちに馬車は門の前に止まり、門番との軽いやり取りのあとすぐに動き出した。
「スヴィル~」
馬車の外から聞き覚えのある声が僕の名を呼んでいた。
僕は馬車の後ろから体を乗り出し、声のする方を確認するとカリスさん達が馬から降り、こちらに手を振っているのが見えた。
「元気でなー!」
「死んじゃダメよ~、危なかったらすぐ逃げてー」
「気の合う仲間を探せよ」
「また会えるか分からんが、お互い無事でいような」
「ありがとうございましたーっ! ま……また、いつか……」
僕は大きく手を振りながら返事をし、いつか再会できたのなら成長した自身の姿を見てもらおうと心に誓った。
カリスさんと別れた後、少し進んだ先に馬車の停泊場があった。
「ここまでですね、スヴィルさん」
御者から声をかけられ、ヘディンさんから預かったという荷物を受け取り、僕は旅でお世話になった事への謝意を伝えた。
そのついでといったら申し訳なかったが、街の事を尋ねてみた。
「あの……ルードスロアのおすすめの宿ってどこかありますか? あと……冒険者ギルドの場所も……」
今まで全てをヘディンさん達に任せっぱなしだった為、いざ一人で何とかしなければいけないとなると情報が全くなく決めあぐねていた。
僕の知っているルードスロアの情報は、ヘディンさんとナヴィ姉さんが生まれ育った街ということ以外知らなかった。
「そうでさぁね……宿は東地区の方にあるダーヘスの宿が無難ですかねぇ。まぁ東門へ続く大通りをウロウロしてりゃあたどり着けやすよ」
「う……ウロウロ?」
御者はニッコリ微笑むだけでその後の話を続けた。
「あとは冒険者ギルドですね。街の中央部、広く塀に囲まれた場所がありやすね、見ればすぐ分かりやす……」
「ど、どうもありがとうございます……」
僕は御者に礼を言うと、とりあえずは部屋を取り荷物を預けようとダーヘスの宿へ向かった。
◇
ダーヘスの宿へはすぐに辿り着いた。
東地区へ着いた時に辺りをキョロキョロと確認していたら、向こうから声を掛けてきてくれた。
なんでも宿を探してそうな冒険者に大通りで片っ端から声を掛けて案内していたのだとか……お陰で迷う時間もなく直ぐに辿り着けたのだ。
(御者の言った通り、確かにウロウロしていれば声を掛けられるな……)
ギルドへ向かう前に、宿の部屋で僕はヘディンさんから預かった荷物の中身を軽く確認した。
中にはそれなりのお金とポーションやイグニスの油など旅に役立つもの……それと何故かナヴィ姉さんが大切にしていた大きく分厚い手帳が入っていた。
「すごく大切なもの」と言って中を見ることも許されなかったものだ。
(ナヴィ姉さんは『魔導書』と名付けてたっけ……。こんな大事な手帳を僕に預けて、やっぱり返しに来いってことだよね。細かいところはギルドから帰ってきてからにしよう……)
そんな事を思い心を弾ませながら、僕は中央部の冒険者ギルドがあるという場所へと向かった。
◇
中央部付近に長く連なる塀を見つけ、その塀沿いを歩いていると東西南北の大通りの交差点に広場があり、その北側にギルドの紋章である神鳥『シェブルゥ』を表す看板を見つけた。
シェブルゥは黒く長い尾と玉虫色の翼を持つ鳥だと聞いたことがあるが見たことはない。
ヘディンさん達からは女神の御使いと聞かされたのだが、それは御伽話のような話だった。
そんな話を思い出しているとふと思った。
(ルードスロアの冒険者ギルドってどんな感じなんだろう)
思わずそう考えてしまうのはヘディンさん達への評判がやはり気になったからであって、彼らの生まれ故郷でもあるこの街では良いものであってほしいとの願いでもあった。
僕は強く願いを込めながら両開きの立派な扉をゆっくりと開けて中を覗いてみた。
中は広く冒険者達も多く談笑し、依頼を確認したり仲間への勧誘など、大きな街のギルドらしさを感じた。
(と、取り敢えずどこか気の良さそうな人達のパーティに入らせてもらえないかな……)
そう考えてしまうのはまず自分一人で依頼を受けてこなすというのは難しいからだ。
仮登録の身であるから受けられる依頼は、近隣の採取やギルドの手伝い、生産職などへの手伝いぐらいだった。
そのことから仮登録である以上どこかのパーティに手伝いとして加入させてもらえないと、自らの成長はほぼ望めないというジレンマに陥るのだ。
(う~ん、声かけづらいなぁ……)
辺りをウロウロしながら色々な人達の会話に聞き耳を立てていたとき、見た目が少し強面でベテラン冒険者っぽい三人組が仲間と話しているというより、周りにアピールしている様な大きな声での会話が気になり立ち止まった。
「……ハハハ、それ、マジかよ……」
「あぁ間違いねぇ、そんなこと人として生きてるなら絶っ対しねぇよなぁ」
「ギャハハ! しねぇよ、そんなことするぐらいなら潔く死ぬわ!」
そんな会話をしていた時のそんなやりとりだった。
しかし、僕が彼らの会話に注意を向けるきっかけになったのは『ヘディン』という名が遠くから聞こえたからだ。
「……あの、すみません……先ほどヘディンさんの名を出しませんでしたか? ……」
全ての会話を聞いていたわけではないが、僕は関わりたくないと思いつつも、ヘディンさんへの間違った認識を正したいとの思いから恐る恐る声をかけた。
「あぁん? ヘディンさんだぁ? オメーはあの嘘吐き勇者のファンなのか?」
「え……いや、その……内容がちょっと気になったと言うか……ヘディンさんには恩があるので……」
情けないことにかなり怯えた態度をとってしまった。
そんな僕の態度を見て強面の冒険者は、鼻で笑うと話を続けた。
「テメーみたいな勘違いしたガキに教えてやるよ、あの嘘吐き勇者様は慟哭の丘で魔王に処刑されたんだよ!」
「えっ? ……」
突拍子もない内容に理解が追いつかなかったが、さらに続いた。
「しかもだ、処刑される前に情けなく仲間たちの命を差し出して、命乞いまでしてやがったからな! 俺が見てきたんだ、間違いねぇぜ……」
それまで僕の中にあったヘディンさんへの想いと、周囲の反応に対する黒くモヤモヤした気持ちが、一気に溢れ出すこととなった。
鐘の音の回数を変更しました。




