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第4話 魔物たちの襲撃

「ま、魔物です! 魔物が出やしたっ!」

 急停止した馬車の中に向かって御者が叫んでいた。

 皆がすぐに身体を起こし、後方の入り口の帆を閉め、前方の入り口では御者が馬車の中に入り、各自の荷物や積荷を積み上げて、入り口前に胸の高さ程の防護壁(バリケード)を作った。

  空いている隙間から入って来ようとするとそこに剣やナイフで応戦する形だ。


「数はどれ程ですかっ⁉︎」

 ロジーさんが御者へ声高に尋ねた。

「前方に五匹ほどの毒牙犬(ギフティハウンド)です!」

 御者の回答にロジーさんが少しホッとした様な表情を見せて言った。

「なら、護衛の冒険者達で何とかなりますかね……魔族かと思って焦りましたよ……」

 

 (魔物の上位種である魔族に襲撃されたとなれば生き延びる事自体が難しいとも言われている。ロジーさんの同僚は運悪く魔族に襲われ、命を落としているのだから当然の反応なのかもしれない……)

 そう考えていると、馬車の外から護衛の冒険者の叫び声が聞こえた。

 

「おい! 奴らこちらに向かって来ないばかりか新たに増えやがったぞ! 討ち漏らしが出る可能性があるから備えておけ!」

 その声を聞くとホッとした表情を見せていたロジーさんは、一気に顔を強張らせ馬車内に緊張が走った。


 各々が悲鳴のような嘆きを口々にしている時、僕は今ここで守られている側にいてはいけないと思い立ち、すぐに馬車の外へ援護に出た。

「僕も戦います!」

「ス、スヴィルくん……」

 呼び止めようとしたトルゴスさんの声を聞きながらも防護壁の隙間から馬車の外へ出ると、緩やかな坂の頂上付近に十数匹の毒牙犬(ギフティハウンド)が見え、左手には森と深く暗い茂み、右手の離れた所には小さな岩壁があった。


「僕も加勢します! どうすればいいですか?」

 冒険者達のリーダーらしき人物に声をかけると、チラリとこちらに視線を送ってくる。

「俺はカリス、魔法は使えるか?」

「スヴィルです。戦闘に役立つものはまだです……」


「それじゃあ、レイネ……そこにいる女の魔法使いを護衛してくれ……それだけでも助かる……」

「了解です」

 すぐにレイネと呼ばれていた女性の傍に駆け寄り辺りを確認した。

 

探索眼の魔法(ソーカ・オガ)

 ヘディンさん達から『目の前に敵がいても辺りの警戒と確認を怠るな!』と言われ、この魔法は覚えることが出来た唯一の魔法だ。

 探索眼の魔法(ソーカ・オガ)は暗い場所が視認しやすくなり、使用する魔力濃度次第でより遠くを確認することができる斥候がよく使う魔法だ。

 小さな魔力でも比較的習得しやすく確認は癖みたいになっていた。

 

「カリスさん! 左手の森の茂みに弓を持ったゴブリンらしき魔物が五匹ほど潜んでいます!」

 大きな声でカリスに伝えるとすぐに反応し、少しずつ前進していた隊列を一気に後退させた。

「まじかよ……。ゴブリン程度でも知性を持ってやがるのか……ホブゴブリンはいるのか!?」


「ホブゴブリンかは分かりませんが、他より少し大きめの個体がいます……」

「了解した……助かったぜ、危うく惨事になるところだった……」

 そう礼を言われるとすぐに指示を出していた。


「レイネ! 蛇炎魔法で森の中を横切る形で一つできるか?」

「出来ます……。だけどターゲットを狙うのは視認できないから……」

 そう言いかけているとカリスさんが被せるように言った。


「動揺を誘うだけだから横切るだけでいい」

「わかりました!」

 カリスさんの返答にレイネさんは明るく答えた。

「デルドリオの攻撃を合図にレイネが魔法を発動、サルヒダクは迂回して森に入り動揺しているゴブリン共を奇襲してくれ、特に大きめの個体を優先してな」

「「了解!」」

 二人は声を揃えて返事をし身構えた。


 少し間を置いたのち、デルドリオさんは右手から回り込む様な動きで毒牙犬(ギフティハウンド)に向かって先陣を切った。

 続けてレイネさんが掛け声と共に魔法を放った。


蛇炎魔法(オームスローガ)!」


 三つの炎が蛇の様に蛇行しながら一つは森を抜け、もう二つはデルドリオさんの反対側から挟み込む様に毒牙犬(ギフティハウンド)に襲いかかった。

蛇炎に巻きつかれて焼き殺されていく魔物たち、森を抜けていった蛇炎魔法によってゴブリンたちがギャアギャア騒いでいるのが聞こえる。


 そこへサルヒダクさんがスッと気配を消して木々の隙間に入って行くのが見えた。

 恐らく隠密魔法(フェシヴィーナ)を使って気配を消し、背後から仕留めるのだろう。

 カリスさんはデルドリオさんの背後を取られない様に立ち回っていた。

 

「クソ! スヴィル! そっちに二匹行くぞ! 頼むっ!」

「了解です!」

 カリスさんの掛け声にすぐさまレイネさんの前に立ち、身構えた。


 毒牙犬(ギフティハウンド)は攻撃自体の威力は低く爪や牙にある毒で敵を追い詰める魔物だ。

 おそらくゴブリンたちが野良犬に魔晶石を混ぜた餌を与えて魔物化し、手なずけたものなのだろう……ヘディンさんたちからの教えで多少の知識はある。


 そうこう考えているうちに毒牙犬(ギフティハウンド)が襲いかかってきた。

 僕は盾を構え、二匹の動きを意識しながら頭の中にある攻める、守る、引くを自然と身体が反応するように気持ちを落ち着けていた。

 最初に左から一匹が飛びかかってきた。


すぐさま左手の盾で顔を殴り、右手の片手剣で腹を突き、そのまま斬り払った。

そして、もう一匹の背後に回り込んで来る魔物を意識し、斬り払った剣に合わせて身体をクルリと回転させ、そこから回り込んだ敵の側面へ半歩ずらし、タイミングを合わせて首へ上段から叩き斬り、毒牙犬(ギフティハウンド)の首を斬り落とした。


魔物は致命的なダメージを負うと身体は塵となって消滅し、魔晶石だけが残る。

 僕が二匹目を仕留めた後にはカリスさんたちの連携攻撃で毒牙犬(ギフティハウンド)は散り散りになって逃げていったようだ。


「スヴィル! お前、意外とやるな!」

 魔物がいなくなると、カリスさんたちは僕のほうへ駆け寄って来た。

「ホント助かりましたぁ!」

 レイネさんが嬉しそうに同調した。

「いえ、お役に立てたなら嬉しいです」

 僕は少し照れながらも笑顔で答えた。カリスさんたちと話していると、森の中にいたサルヒダクさんが戻って来てカリスさんたちに報告をした。

 

「カリス、スヴィルの言う通り森の中に潜んでいたゴブリン共は確かに弓を持っていたぜ……あと、体のデカい奴の魔晶石がこれだ……」

 そう言ってサルヒダクさんは持っていた魔晶石をカリスさんにポンと投げた。


 サルヒダクさんから魔晶石を受け取ったカリスさんは、頭を掻きながら独り言のようにいった。

「あ~……その辺の個体よりはいいけど、換金となると大した額になりそうにないなぁ……」

「この襲撃に成功していれば、ホブゴブリンに進化していたのかもな……」

 サルヒダクさんがカリスさんに歩み寄りながら意見をした。


「あのぅ……魔物の進化って人の魔力を取り込んでするって聞いたんですけど……」

 僕は恐る恐る尋ねると、カリスさんは頭をポリポリ掻きながら答えてくれた。

「あぁ、そうだな……特に心臓が魔力の源となってるらしいから、ココを狙ってくるみたいだな」

 そう言いながら胸にトントンと拳を当てて説明してくれた。

 

「私たちの魔力は、普段の生命活動から生まれてくると聞いた事があります……だから魔物や魔族は心臓を喰らって効率よく自らの力を高めているのだとか……」

 レイネさんが話し終えると、サルヒダクさんが言った。


「スヴィルは人が襲われてる所を見た事がないのか?」

「ない……ですね……あまり遭遇したくはないですけど……」

 僕は思わず嘘をついてしまった。

 もし、見たことがあると言ってしまうと、その時の出来事を掘り返し聞かれるのが嫌だったからだ。


「ま、冒険者なんてやってりゃその内、嫌でも遭遇するだろうさ……」

「……は……はぁ……」

 デルドリオさんの全く有り難くない助言に、思わず苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

 

「さぁ、魔晶石を回収してすぐに出発しよう」

 カリスさんが手をパンパンと叩きながらの呼びかけに、皆が応え魔晶石の回収へと動いた。

 僕は自身が倒した二匹の魔晶石を拾い、そのまま馬車の方へと戻った。


 ◇

 

「スヴィルくん、やるじゃないか! 馬車を飛び出して行った時は、もっときわどい戦いになるのかと思ったよ……本当に良かった……」

 馬車に戻るとトルゴスさんがすぐに、喜びに満ちた笑顔で出迎えてくれた。


「相手の魔物がそこまで強くなかった事と、カリスさん達が優秀だったからだと思います」

 僕自身迷惑をかけずに無事、役立つことができたのを喜んだ。

「とりあえず、野営地まではもう少しみたいだから、その間は馬車でゆっくりしているといい」

 トルゴスさんの気遣いに感謝して、僕はお言葉に甘えて馬車の中に入り少しばかり休ませてもらった。

 

 

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