第34話 互いの真意
次回更新は9月12日(土)の予定です。
「もう一度だけ言うわ……あなた達何者なの? 目的は何?」
愛らしい笑顔を見せてくれていたリッピは鋭い眼差しで僕らを睨みつけ、仲間の男性二人もこちらへ向けて矢を番えていた。
少しでも変な動きを見せると三人から矢が飛んできそうだった。
僕はナーヴァを庇うように前へ立ち、矢の射線から外れるようにジリジリと下がった。
「ちょ、ちょっと! スヴィル! このまま下がり続けると矢を射られるわよ!」
ナーヴァが声を上げ僕の前へ飛び出した。
「ナーヴァ、危な……」
ナーヴァは僕の口を軽く手で塞ぎ言った。
「私が話すから待ってて」
僕は言われるがままに首を縦に振って答えた。
「えーと、まずは助けてくれてありがとう。私たちは冒険者として廃村を目指しているだけの者よ」
ナーヴァは簡潔にハッキリと答えた。
「そこには何もないわ……」
リッピの警戒は解かれる事なく返された。
「私たちが野盗の仲間だと思ってないでしょ? それなら最初から助けず放っておけばいいだけなんだし……野盗も言ってたけど、何もないと言われてる廃村に行くと言うだけで、こんな対応されちゃ何かあるようにしか感じないんだけど……」
ナーヴァは肩をすくめ、呆れながら話した。
「ほ……本当に何もないのよ……」
「わかってる。隠れ里が近くにあるんだね」
リッピは鏃をナーヴァに向け、動揺した瞳で睨みつけながらさらに問い詰めた。
「なぜ知っているの! やはりそれが狙いじゃないの!」
僕は割って入ろうと思ったが、ナーヴァは余裕を見せ、落ち着くようにと手を動かして言った。
「隠れ里の存在はさっき野盗が言ってたから知っただけ、そんな所興味ないよ。私たちはお姉ちゃんが記した地図の場所を目指しているだけだから……」
「地図? それを見せてもらえるかしら?」
「持って来てない。ルードスロアへ置いてきたから……そこを確認したらルードスロアへ帰るつもりだったし……」
「えぇーっ!」
僕は思わず声を上げると、ナーヴァが僕の足を思いっきり踏みつけて、痛みで僕は思わずうずくまった。
ナーヴァはリッピに笑顔を向けていた。
「そ、その子の反応は……」
「地図を置いてきたからびっくりしたんだと思うよ」
「足を踏んだのは……」
「近くで大きな声を出されてムカついただけだよ」
「それじゃ、地図を持っていないのは……」
「覚えてるから要らないの」
終始笑顔で即答するナーヴァにリッピは戸惑っていた。
ナーヴァが僕の足を踏んだのは恐らく『余計な反応はするな』ということだと思った。
そもそも地図は持っているはずだし、ルードスロアに帰る予定でもないのだから、僕としては声に出てしまったことは足を踏みつける以外で対処してほしかった。
リッピが質問に詰まっているのを見かねたのか、僕らの後ろで矢を番えていた男性が言った。
「だったらその地図とやらを地面に描いてもらえばいいだろう」
「いいわよ」
男性の声を聞いてナーヴァはすぐに、ナヴィ姉さんが残した地図を地面に描いてみせた。
描きあげた地図は謎解きが完了していた状態だった。
「本当の目的はこの星印なんだけどね……手がかりがないからこの廃村となった場所に、何かあるのかと思って来ただけなのよ」
リッピは地図を見つめ「うーん」と唸って首を傾げた。
「どうしてこの地図で廃村を目指そうと思うのよ……」
「あー、それはこの地図は謎が仕込まれていて、これはその謎を解いた状態だからかな……」
「どういうこと?」
「このイルト村、ルードスロア、ゾルアフス村は人物名で書かれていたの。イルト村はスヴィル、そこにいる子の名前。ルードスロアはナヴァリアで私の名前。ゾルアフス村はエミルって言うヘディンさんのパーティメンバーの名前なのよ」
「え、え、エミルさんっ!」
リッピはエミルさんの名前を聞くと構えていた弓を放り投げ、ナーヴァの肩を掴んで畳み掛けるように訊いた。
「ねぇ、ねぇ、あなた達はエミルさんの知り合い? どういう関係? 私のこと何か言ってない? 恋人は出来てた? やっぱりめちゃくちゃカッコイイよね?」
「な、な、な、な……」
ナーヴァは肩を激しく揺さぶられまともに答えられなくなっていた。
「あー、もぅ! 私はエミルさんと面識ないのよ! 面識があるのはそこのスヴィルだけ!」
ナーヴァは肩の手を振り払うと僕を指差して答えた。
「そこの君! スヴィル君だっけ? エミルさんのこと教えてーっ!」
今度は僕の肩を掴んで激しく揺さぶりナーヴァと同じ質問を畳み掛けてきた。
「ちょ、ちょ、ちょ……」
リッピの謎のハイテンションに僕とナーヴァは完全に飲み込まれてしまっていた。
すると後ろで弓を番えていた男性二人が警戒を解き、ため息を吐きながらやってきた。
「リッピもうやめて差し上げろ、そんなんじゃまともに答えられんだろう……」
一番背の高い男性は僕らの荷を持って近くに下ろし言った。
「悪いけど中は調べさせてもらったよ、中は普通の旅道具一式だったしね。危害を加えるつもりはもう無いから……」
顔の右頬に切り傷の跡が残る男性がそう言うと、優しくなった表情で続けた。
「俺はクロー・パーシヴィだ」
「おれはダニール・コリソン……」
背の高い男性が言うとリッピと呼ばれていた女性も続いた。
「アタシはリピアーデ・メンゼル……リッピと呼ばれてるからそう呼んでくれていいよ」
リッピは最初に会った時のように愛らしい笑顔で自己紹介をしてくれた。
「改めまして、ありがとうございました。僕はスヴィル・エルダーグです」
「私はナヴァリア・ノーザントよ」
僕らも名乗り終えると、クローさんは驚いたように言った。
「きみ……ノーザントの姓なのか?」
「そうだけど……何か?」
「リッピ、お前ならわかるんじゃないのか?」
リッピはすぐに思い出したらしく手をパンと鳴らして言った。
「あーっ! あのおっぱいちゃん!」
「お……おっぱ……」
僕はナヴィ姉さんのスタイルの良さを思い出して、言葉に出してしまいそうになった。
「まぁ、お姉ちゃんはスタイルいいからね~」
ナーヴァが自慢げに胸を張って言った。
「じゃあ、ナヴァリアは妹さんなのか……」
ダニールさんがそう言うとクローさんとリッピの三人でナーヴァの胸を見つめていた。
「け、獣の視線!」
ナーヴァがそう叫ぶと胸を両腕で隠し背を向けた。
「あはは……ナヴァリアちゃん、歳はいくつなのかな?」
リッピは苦笑いをしながら尋ねた。
「十五歳の大人よ!」
ナーヴァの頬は膨れ不満げな態度を出していた。
「いや、ほんとすまない……お世話になった人たちの身内を怖い目に遭わせてしまって。こちらにも言い分があるから勘弁してほしい」
クローさんはそう言って頭を下げて謝罪した。
「それは全然大丈夫ですけど……ヘディンさんたちはこちらに来たんですか?」
僕がそう尋ねるとクローさんとダニールさんは何かを確認してから言った。
「そうだね、一度俺らの村に来てもらってそこで話そう。野盗達はアイツらだけでいいのかな?」
「そうですね。僕たちが目撃したのはアイツらだけです……あ、……」
僕は最初に野盗を目撃した時の状況を思い出し伝えた。
◇
「そうか……アニーたちかな……他には何か見てない?」
「残念ながら一人しか確認していないです」
クローさんは少し考えてリッピに指示を出した。
「リッピ、この二人を村に案内してあげてくれるか? 俺らは確認しに行ってくる」
「りょ~かい」
「あ、ちょっと待って……」
僕は殺された女性を埋葬した場所を教えると「そうか、ありがとう」と言ってクローさんはダニールさんと共に向かった。
「それじゃ、アタシたちも行こっか」
リッピはそう言って村へと向かい出したが、僕は先行している野盗たちのことが気になり訊いた。
「先行している野盗をあまり気にしていない感じだけど大丈夫なのかな?」
「大丈夫よ、そいつらを片付けた時に後から来る奴の事も知って、こっちの様子を確認しに来たら君たちが襲われていたのよ」
涼しげに答えるリッピにナーヴァも質問した。
「それって先行してくる奴がいるって知ってたってことよね?」
「あぁ、それはこれね」
リッピはポケットから赤と白の小さな玉を取り出した。
「これは信号玉よ。遠くにいる仲間にこちらの状況を伝えるためのものよ……まぁ、意味は皆で共有しなきゃ伝わらないけどね。あ、そうだこれ使わなきゃ」
そういうとリッピは「火柱魔法」と唱え、右手の人差し指に蝋燭のような小さな炎を起こし、白い玉に火をつけて煙を出した。
「あとはこれを……」
リッピは煙が出ている白い玉をポンと頭の上へ投げると左手を頭上に翳し「風送り魔法……発動」と唱え、白い玉をさらに上空へと打ち上げた。
すると白い玉は上空で激しく燃え上がり、パンと弾ける音と共に白い煙が空に広がった。
「今のは……?」
僕は白煙の行方を追いながらリッピに尋ねた。
「今のは『安全』を知らせるためのものよ。こっちの赤だと『危険』を知らせるためのものなの」
「なるほど……赤い煙を確認できたから迎え撃ったというわけか……でも、今の感じだと知らせた時にあいつらに気づかれて……あ……」
ナーヴァは何かに気が付き顔を曇らせた。
「どうしたの? ナーヴァ……」
僕はナーヴァの表情が気になり、そっと訊ねた。
「女性が殺された原因って今の信号玉を打ち上げたせいだと思う……」
「多分そうね、私たちの村は外から来る人、特に素性の知れない連中とか野盗なんかは、近づかせないようにしているから……」
リッピは伏し目がちに、悲しみと覚悟を滲ませた表情で優しく語った。
リッピが言うには村の外へ出るには条件があり、そのためには生命系魔法の『火柱魔法』と精霊系魔法の『風送り魔法』を使えるようになる事と、万が一の時には命を懸けてでも村に『危険』を知らせる事だという。
「アタシたちの村は過去に魔族に滅ぼされたからね……」
寂しそうな表情を浮かべて思いにふけるリッピに、僕はエミルさんのことを尋ねた。
「ところでリッピさんはエミルさんと、どうやって知り合ったんですか?」
リッピは手を左右に振りながら答えた。
「あはは……リッピは愛称だし『さん』つけとか要らないよ、気楽に話していいからね……」
「わ、わかった……」
僕が返事をするとリッピは楽しそうに話しだした。
「あれはどれぐらいかな? 七年ぐらい経つのかな……アタシが十三歳の時、やっちゃいけないことなんだけど、村をこっそり抜け出してゾルアフス村まで冒険をしたのよね」
僕らは隠れ里へ向かう道中でリッピとエミルさんの話を聞いた。




