第32話 旅立ちの日
第一章終了しました。
次回更新は8月下旬頃になります。
迷惑をおけして申し訳ありません。
活動報告にも書きました。
後書きにて第二章のあらすじを紹介しておきます。
出発当日の朝、昨日のエリアナさんの料理を食べた後にお腹を壊したけど、朝を迎える頃にはスッキリと体調が良くなっていた。
(エリアナさんの料理の効果なのか?)
不思議に思いながらも、僕は宿を出る手続きを済ませ、鐘が十回鳴ってから荷物を担いでナーヴァの家へ向かった。
◇
ナーヴァの家へ着くと扉を叩く前にナーヴァが顔を出した。
「スヴィルゥ~、ちょっと遅くない?」
いきなり機嫌を損ねてしまっていた。
「ご、ごめんね。いつ頃訪ねるか伝え忘れて……」
「急いで帰っちゃうからよ……もぅ」
ナーヴァは頬を膨らませて言った。
僕は愛想笑いで誤魔化していたが、ナーヴァの服装が気になって訊いた。
「ところでナーヴァ……その服装で旅に出るの……?」
いつもの女の子らしい服装ではなく、上は長袖に厚めの生地でできた上着と皮手袋、下は長ズボンにモルガーさんの武具屋で買ったブーツといった格好だった。
「そうよ……農作業で着てる旅服だよ……ってスヴィル、まさか私がスカートをヒラヒラさせながら槍を振り回して長旅に出ると思ってたの⁉︎」
「うっ……すみません……思ってました……」
「女の子用の防具とか、今の私たちにはちょっと手が届かないよ……」
確かにその手の防具の値段はそれなりに値が張るため、いくらヘディンさんから貰った資金があったとしても、旅に出る前に資金が底を突いてしまう。
その辺のことをナーヴァは考えてくれたのだと僕は思った。
「わかった。ナーヴァの防具を買えるように、僕もいっぱいお金を稼げるよう頑張るよ!」
旅の新たな目標ができて僕は気合が入った。
「え……や……べ、別にそれはいいかな……」
「え……?」
視線を落とし小さな声で漏らすナーヴァの反応に僕は戸惑った。
僕の固まってしまった表情と反応を見てナーヴァは顔を赤くして強い口調で言った。
「あーん、もぅ! わかったわよ! 単純に私に合うサイズがないだけよ! 『子供用の胸のサイズはない』とか失礼なこと言われるから嫌なの! フンだ!」
鼻息を荒くしてそっぽを向いてしまった。
「モ、モルガーさんならそんな事言わないのでは……?」
僕はなんとかナーヴァをなだめようと試みた。
「……モルガーさんに言われたんだけど……」
ナーヴァは目も合わせずボソッと呟いた。
(モルガーさんなんでそんなことをっ……確かに子供だとかは言ってた気が……)
「ナーヴァ、ごめん。そんなことを言われていたなんて知らなかったから……」
とにかくナーヴァに謝って機嫌を直してもらおうとしていた。
すると畑仕事を終えたエリアナさんとダズホフさんが僕らの方へやって来た。
「あらあら、お二人さんは何をやっているのかな~? 出発の準備は終わったのかしら?」
エリアナさんの軽快な声に僕はホッとした。
「お、お母さん……もうちょっとだけど……」
「はいはい、わかってるわよ……あなたの声が私たちにまで届いていたからね~。早く準備をしてらっしゃい」
「ひゃぁっ⁉︎」
エリアナさんはニコニコしながらナーヴァに促した。
ナーヴァの声が周りにまで響いていたという事実を聞かされて、彼女は顔を真っ赤にして家の中へ駆け込んだ。
「スヴィルくん、旅に疲れたり行き詰まったりしたら、いつでも戻ってきてもいいからね。無理だけはダメよ……」
「はい……ありがとうございます」
優しい微笑みとその口調に、僕はエリアナさんから安らぎを感じた。
ダズホフさんがおとなしいなと思い視線をやると、エリアナさんに袖を強くつねられて、余計なことを言わせないように制されていた。
(道理で……ま、エリアナさんには敵わないよね)
思わず口元が緩んでしまった。
何だかんだで仲の良い家族に、僕が大きく助けられたことは間違いない。
「短い間でしたが、お世話になりました」
僕は深く頭を下げて心の底から感謝した。
ナーヴァが準備を終え、荷物を背負い表に出てきた。
「あれ? そのマントは……」
ナーヴァは初めて出会った時に羽織っていた魔法使いの黒いマントを着ていた。
「ん~、まぁ、これはまだ使えそうだったから……」
「うん、似合ってると思うよ」
彼女は魔法使いなのだから僕としてもおかしいとは思わなかった。
「スヴィルくん、ナーヴァをお願いね」
「娘を頼むよ……」
「はい!」
「それじゃ……スヴィル、行こっか」
エリアナさんとダズホフさんの挨拶も終えると、僕たちはルードスロアの外周路から北門の方へ向かった。
◇
僕たちの目指すナヴィ姉さんが地図に記したエミルの位置、廃村となったゾルアフス村に向かうには、ルードスロアの北側を流れるリッフス川を渡る必要があった。
北門にある橋の近くに着くと、北門の城壁近くに見慣れた人物が手を振って僕らを呼んでいた。
モイシャルとラウハだ。
「ラウハー!」
ナーヴァとラウハはお互いに駆け寄り手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねていた。
僕とモイシャルは跳ねている二人のもとへ寄った。
「なんで二人がここに?」
僕の質問にナーヴァが答えた。
「あー、昨日用事があってねギルド前で二人に会ったから、その時に出発が今日だと教えておいたんだよ……」
「そういうことか……ありがとう、ナーヴァ」
「ん~、まぁ時間はお昼前かもって自信なさげに言ってたけどな……」
「スヴィルに出発時間を伝える前に帰ったと聞いた……」
モイシャルとラウハに呆れ気味に指摘され、僕は申し訳ないと謝罪した。
(うぅ……ごめん……でも、事の顛末を話すわけには……)
「ん~、まぁいいさ……それよりも、絶対生きて戻ってこいよ」
モイシャルは僕と肩を組んで力強く言った。
「ナーヴァもどうか無事で……」
「うん」
ラウハがナーヴァを気遣い、ナーヴァもラウハの目を見て答えた。
「あとだな……スヴィル、これ持っていけよ」
モイシャルは手に持っていた麻袋を僕に渡しながら言った。
麻袋の中には旅で役立つ道具が入っていた。
「これ……」
「それはさ、俺たちはもう使うことがないから役立ててくれよ……」
「これぐらいしかできないけど……」
モイシャルとラウハがくれた旅道具は、アルたちと使う予定だった物ということがすぐにわかった。
「本当にありがとう……嬉しいよ……」
「ラウハ、モイシャル、ありがとう」
僕とナーヴァはモイシャルとラウハの手を固く握って感謝を伝えた。
「それじゃ……モイシャル、ラウハ、またいつか……」
僕らは互いに元気でいようと別れを告げ、リッフス川に架かる橋を渡り始めた。
橋の中腹辺りまで僕とナーヴァはモイシャルとラウハに手を振り続け、いつまでも別れを惜しんでいた。
橋を渡り対岸にあるルードスロアの門を通らずに、北西へと続く街道沿いを歩いた。
「対岸のルードスロアってどういう所なんだろ……」
僕は城壁の向こう側を勝手に想像していた。
「こっちは職人街だよ……あと職人たちの家族が住む居住区かな……」
「へー……そうなんだ……」
「職人街って私たちは呼んでるけどね。街の鍛冶や製鉄や油精製とか、主に火を扱って煙が出やすい工業を集めて出来ているんだよ」
「そういえば武具屋も一箇所に集まってたよね……」
「そうそう、武具屋は初めてのお客さんでも、街に点在する店を探さなくてもよくなるよね。職人街は火をよく扱うから、もしも火事が起きたとしても、周りの建物なんか燃えにくいように作られているから延焼しにくいんだよ。普通の住居にはそういった対策はしないからね」
「でも、家族たちの居住区があるんじゃ……」
「大丈夫。居住区とは区画で分けられているし、境目には防火壁があるよ……」
僕はナーヴァに対岸の街の作りを教えてもらいながら歩き続けていた。
遥か昔のルードスロアは他の街と変わらず、街並みは乱雑で迷いやすく勝手のわかりにくい構造だったらしい。
それを今の街並みに変えたのは現領主の先祖に当たる人物だとか。
『この街を人類の礎に』と大改革を施し、長い年月をかけて完成させたのだ。
その領主の名は『ルード』と言い、その名を冠して付けられた街が『ルードスロア』なのだ。
古の魔王を討伐した勇者パーティの賢者として名を馳せた人物だった。
僕らはルードスロアの話をしているうちに、遠くから街を見下ろせる場所に来ていた。
ここから先、歩みを進めればルードスロアは完全に見えなくなる。
そう思うと僕は名残惜しく感じ、しばらく街を見下ろしていた。
リッフス川を挟むように造られた街は遠くから見ても、安心できる長閑さがあった。
ナーヴァも僕の隣に立ち同じように街を見下ろしていた。
「スヴィル……」
ナーヴァは優しく促した。
「うん……行こう……」
僕らは街に背を向け歩み出した。
ウォークレフ山脈の向こうの空にはドス黒く分厚い雲がかかっていた。
遥か北北西にある大聖堂ラグドゥ・シークが魔王に支配されて以来晴れることのない空だ。
これから向かう先には、期待よりも不安が、安心よりも恐怖がじわじわと湧いてくる。
ナヴィ姉さんの地図はどこへ導こうとしているんだろうか……。
ヘディンさんの願いであった海の向こうへ行くことはできるのだろうか……。
何よりヘディンさんたちを殺した魔王を討つことができそうな人物を見つけ、あわよくば僕も同行させてもらえるだろうか……。
その時、ナーヴァはどうするのだろうか……。
考えを巡らせるほど、不安と恐怖が大きくなっていく……。
仲間や家族に見送られ、希望を胸に旅に出た見習い剣士スヴィルと魔法使いナヴァリア。しかし、その道中で野盗に襲われ、絶体絶命の危機に陥ってしまう。
彼らが目指すのは、今は亡き勇者パーティの一員だったナヴァリアの姉・ナヴィアナが遺した謎の地図に記された廃村。
魔王を討つための手がかりを探すための旅だった。
「ナヴィ姉さんの地図はどこへ導こうとしているんだろう……。ヘディンさんたちの仇を討つためにも、僕たちは前に進まなきゃいけないんだ!」
絶体絶命の二人を救ったのは、謎の狩人たち。だが、安堵も束の間、今度は彼らから弓を向けられ、殺意をぶつけられる。廃村を目指すというだけで敵意を向けられる状況に戸惑う二人。しかし、ナヴァリアの機転と、ナヴィアナが残した地図によって誤解は解け、彼らは隠れ里へと招かれる。
ナヴィアナが遺した地図の本当の意味とは?古の伝承が示す「彼の地」とは?そして、突如現れた生存者が語る魔王襲来の真実とは。仲間との絆と託された想いを胸に、少年と少女の運命が動き出す!




