第24話 一味同心
アルとの模擬戦を終え、僕らはその場で話し合った。
「アルが一番強いって言ってたけど、その基準ってあるの? 剣術を習ったりしなかったの?」
「あぁ、それはどれだけ威力のある一撃を放てるかだな……ま、身体強化魔法を使っての話だけどな。剣術はみんな我流で威力を追求した究極型だぜ!」
アルが得意げに話した。
「俺はまだ身体強化魔法は上手く出来ねーんだ……」
アダムが頭を掻きながら言った。
ナーヴァが魔法はどうなのかと尋ねた。
「生命系魔法はリィリィ、精霊系魔法はラウハが得意としているな……リィリィの火魔法の威力はなかなかだぞ!」
「それちょっと見てみたい……どうかな?」
ナーヴァがリィリィにお願いしていた。
「えー……まぁいいわ。火球魔法でいいよね」
嫌そうに返事をしている割には表情は緩んでいた。
リィリィは深く息を吸い込み、右手を前へゆっくりと突き出し目を閉じて集中した。
「我が源よ……」
リィリィはゆっくりと丁寧に呪文を唱え始めた。
「塊状の力と……」
僕はちらりとナーヴァの方を見やると、ナーヴァが厳しい眼差しでリィリィを見つめていた。
「顕現せしめ……」
(ナヴィ姉さんの火球魔法ってこんなに時間かかったっけ……?)
「舐めよ焔……火球魔法!」
リィリィの火球魔法が放たれた。
火球は離れた位置に着弾し、僕らは熱風でその威力を肌で感じた。
ナヴィ姉さんには全然及ばないにしても、試練の時のエリアナさんより威力はあると感じた。
「どうかしら」
アルたちは「おー」と感嘆の声を漏らし、リィリィも得意げだ。
「今のは実戦では動きながらできるの?」
ナーヴァはリィリィに問いかける。
「動きながらは集中できないから無理かな……実戦ではアルたちが守ってくれるから大丈夫だと思うよ」
「ん~、それにラウハが持つ精霊系の障壁魔法もあるから大丈夫じゃないか?」
リィリィの答えにモイシャルが補足を入れた。
「精霊系か……」
ナーヴァは少し考え込んでから、神妙な表情で僕に言った。
「スヴィル……悪いけどこのパーティは少し危ういと思う……」
「え……ナーヴァどうして?」
ナーヴァはゆっくりと語り出した。
「第一に男三人が弱すぎる……」
「いやいやいや、ナヴァリア、ちょっと厳し過ぎない?」
アルの顔は少し引きつっていた。
「そうだ! ナヴァリアだって赤メダルのクセに、魔法使えなくて俺らより弱いじゃん!」
アダムはイラつきを隠さなかった。
「ん~! ……発言の撤回を要求する!」
モイシャルは言葉を絞り出したようだった。
「前衛の受け役もいなくて、ただ力任せに斬りつけるやり方しかできないのに? 現に一番強いアルは、身体強化魔法が使えないスヴィルに圧倒されてるように見えたけど……」
ナーヴァは続けた。
「第二に魔法発動に時間がかかり過ぎる。一応、魔法自体は丁寧だし、魔力を練り上げて発動までは綺麗だったわよ……でも、実戦向きのやり方じゃないよ……あくまで相手のいない練習みたいなもの……」
「ナーヴァちょっと言い過ぎじゃない⁉︎ 昔は知らないけど、今のあなたとワタシじゃ相手にならないと思うけど!」
リィリィもナーヴァに強く反論する。
「わたしの障壁魔法で守り切れる……」
ラウハもリィリィをフォローした。
「精霊系の障壁魔法って『対物理専用』でしょ? 土や水魔法以外の『対魔法専用』の魔障壁魔法はできる?」
ラウハは首を振った。
「それだと、攻撃魔法が来たら一緒にやられちゃうかもね……私は意地悪で言っているんじゃない。誰にも死んでほしくないからよ……今の皆はまだまだ足りないと思うの……せめてベテランの冒険者を仲間にするのも悪くないと思うの……」
ナーヴァは話し終えると訓練用の武器置き場から、杖を手に取って戻ってきた。
「アダム、モイシャル。手合わせをお願いできるかしら?」
ナーヴァが訓練場の中央に立ちおもむろに斜めに構えた。
「あぁ! やってやるよ! 怪我しても文句言うなよな!」
アダムはやる気満々でナーヴァの申し出を受けた。
モイシャルがオロオロと僕らを見て止めて欲しそうだった。
そんなモイシャルを見たアダムが「早く来い!」と叫んでモイシャルは急いでアダムの横に立った。
「別に身体強化魔法使ってもらって構わないから、あと二人同時でもいいわよ」
ナーヴァは勇ましい立ち姿と発言が、全く似合わないほどの笑顔を見せていた。
「魔法が使えなくて最近武器を持ち始めたような奴が、オレたちは弱いって言ったこと撤回してもらうからな!」
「いいわよ……勝てたらね」
ナーヴァは自信満々だった。
僕はナーヴァが怪我したらどうしようということばかり考えていた。
リィリィがナーヴァに「本当にいいの?」と確認をしてから始まりの合図を出した。
「うるあぁぁっ!」
アダムが先陣を切り突きを狙う構えのまま突進した。
だが、後ろからモイシャルが身体強化魔法を使い、アダムを追い越すとナーヴァの頭上目掛けて一気に振り下ろした。
ナーヴァは半身をずらしてモイシャルの振り下ろした剣を杖の先端部辺りで受けた。
杖は振り下ろされた剣の威力がそのまま乗ったように前後がくるりと回転し、素早く入れ替わった勢いでモイシャルの頭を叩きつけた。
モイシャルはその勢いのまま前から倒れ込んだ。
間髪容れず、ナーヴァはアダムに向かって大きく低い姿勢で踏み込むと、アダムの剣の突きより早くリーチで勝る杖でみぞおちを突いた。
アダムは痛みで体勢を崩し前屈みになったところを、ナーヴァは素早く杖を引き姿勢を起こすと、杖の後ろ柄を前側と入れ替わるように下から上へ回転させアダムの顎先を叩き上げた。
アダムは勢いよく後ろへ倒れ、起き上がろうとしていたモイシャルの背中をナーヴァは足で押さえつけると、頭に杖の先を押し当てた。
流れるような一連の戦い方に僕は見惚れていた。
アルは「すげぇ……」と言葉を漏らしていた。
「ふぅ……まだやる?」
ナーヴァが明るく尋ねたが、二人は「ごめんなさい」と謝罪しただけで、かなりショックを受けていたようだった。
アダムとモイシャルを僕とアルが引き起こした後、ナーヴァが改めて語った。
「せめて三人は我流だけでやるのではなく、基本となるものを身につけた方がいいと思うの……リィリィは魔法の威力だけにこだわらないで、状況に応じて速さや威力を正確に色々なパターンで使えるようになった方が、生き残れる確率はグッと高くなると思うから……」
ナーヴァの強い思いがはっきりと伝わってきた。
「ナーヴァ……めちゃくちゃかっこいい!」
リィリィがナーヴァに抱きついていた。
「ワタシ、ナーヴァの言う通り頑張ってみる!」
リィリィの言葉にナーヴァは「できるようになるよ」と笑顔で返していた。
ラウハは何も言わずに笑顔でナーヴァと腕を組んでいた。
そんな三人を見てアルたちも「彼女の言う通りにやっておかないとまずいよな」とお互い気まずそうに顔を見合わせて決意した。
「じゃあ、アルの依頼はなしということでいいのかな?」
僕はアルに尋ねると、アルはバツが悪そうに答えた。
「い……いや……それがだな……三日後には報告しなきゃいけないんだ……それに依頼内容はそこまで難しいものじゃないから……」
何か歯切れの悪い物言いに、僕はどうしたのかと尋ねた。
「そのだな……勇者としてこんな簡単な依頼を受けておきながら怖くなって逃げるのかって……その……勇者ヘディンのように『腰抜け』とか『嘘吐き』とか言われるのはちょっと……」
僕はアルの言葉にムッときた。
「アルってヘディンさんは憧れじゃなかったの⁉︎ そんなデタラメ信じるの⁉︎」
僕はアルを強く責めた。
「スヴィル……アルを責めるのは可哀想だよ……」
ナーヴァがアルを庇ったことで僕は当惑した。
「スヴィルはヘディンさんが『腰抜け』と言われるようになった理由を知らないんだね……」
「うん……ナーヴァは知っているの?」
「アルも聞いて欲しいんだけど、ヘディンさんはギルドからの依頼は全て断っていたの……リスクがあるものは勿論、これならいけると思えるような依頼すらね。それはヘディンさんが合理的に物事を判断する人だったから、自分の実力を推し量った上で確実性を取るため慎重に判断していたから……周りから見ればそれが臆病に見えたのかもしれない……」
僕はヘディンさんの考え方までは理解が及んでいなかった。
「それじゃ、ヘディンさんはどんな依頼を……」
「ホント、小さな依頼……目的のためにコツコツやっていたわ」
「そ、その目的って何か教えてくれるか?」
アルが神妙な顔で訊いた。
「しばらくの間この街で剣術やら魔法やらの訓練で実力をつけ、旅の資金集めと旅に使う道具を買っていたよ……依頼は主に近隣の採取とか衛兵たちと警戒の仕事だったかな……」
「全然、勇者っぽくないな……」
アダムが呟いた。
「じゃあ、『嘘吐き』と言うのは?」
リィリィが尋ねる。
「それが私も謎なんだけどね……『腰抜け』と『嘘吐き』が重なるような出来事があったらしいの……」
ナーヴァが辛そうに話しているのが伝わってくる。
「ヘディンさんとお姉ちゃんはある日、このルードスロアから本格的に旅立つことになったの。それはヘディンさんが掲げてた目標を達成したからだと、お姉ちゃんから聞いたわ。……そして二人をみんなで見送ったその夜にヘディンさんとお姉ちゃんはルードスロアに戻ってきたみたいなの……」
「会って話したの……?」
ラウハが尋ねる。
ナーヴァは首を振って答えた。
「会ってない……そもそもなんで帰ってきたのかも見当つかないし、帰ってきて会わずにまた旅立って……それっきりだったから……」
「ん~、それは噂じゃないのか?」
モイシャルが尋ねる。
「噂じゃないよ。顔見知りの東門の衛兵たちが言ってたことだから……」
「それじゃ、衛兵の人たちとは何て話したかわかるか?」
アルが尋ねる。
「……それは……『魔族が近くにいる、ドルアーノさんが犠牲になった。すぐに兵を集めて冒険者たちにも知らせないと』って血相を変えてお姉ちゃんと農業地区の方から駆け込んできたらしいの……でも、衛兵たちが確認しても誰もいないし、静かで平和だったと……それでその内の一人が冗談で『暗闇の影を魔族と見間違えたんじゃないか? 勇者なのにビビり過ぎだぞ』って……それが誰かが聞いて言ったのか耳に入ったのか知らないけど広まったみたいなの。それと、その夜にギルド内で『適性判別をしたら魔族に狙われるから判別を受けるのはやめろ』って言ってたらしいわ……」
周りが重苦しい雰囲気に包まれていた。
僕の知らないヘディンさんの行動に、今まで謂われのない嘘だと思っていたことが事実なのかと胸の鼓動が大きくなっていた。
「あのさ……ドルアーノさんの遺体があれば本当のことなんじゃないの?」
アダムの指摘に僕の心もそれだと同調した。
「ドルアーノさんはその夜、畑の見回りに出たっきり行方不明なの……だから遺体は見つかってないの……」
「街を出た可能性があるのか……」
アダムは頭を抱えた。
「これ以上は私にはわからないんだけど、衛兵の話にギルド内での話が合わさって『腰抜け』、『嘘吐き』だとヘディンさんをよく思わない人たちが言うようになったの……」
ナーヴァの目に薄らと涙が浮かんでいた。
僕はナーヴァに大丈夫か尋ねると、彼女は大丈夫だからと微笑んだ。
「アル。ヘディンさんたちの良くない謂われはわかったと思うわ。今回の依頼は確かに難しいものじゃないけど……どうしても行くと言うなら、どんな簡単な依頼だったとしても、逃げるという選択肢は絶対捨てないで。戦って死ぬことが勇者じゃない! 仲間のためにも馬鹿にされても生き続ける勇気を持って! そして、ちゃんと剣術と魔法は教えてもらえる人から学んで!」
そこにはいつも軽く返事をしていたアルではなく、強い決意で「わかった」と仲間たちと確かめ合うアルの姿があった。




