第23話 勇者 アルヴィド・リンデル
僕はアルの仲間を紹介してもらうため、アルの後に続いてギルドの待ち合わせ場所へと向かった。
ギルドの中に入るとアルは期待の注目株なのか、周囲の人たちが皆アルに視線を向けていた。
最初に来た時には気づかなかったが、一階の広いロビーには、受付カウンターの向かい側に二階へと続く階段があった。
二階へ上がると廊下を挟んで左右に部屋が計五つあった。
「スヴィル、廊下の突き当たりを曲がった部屋はギルドの職員専用だから行くなよ」
「え、うん……わかった。ここは何なの?」
アルは右側の奥にある部屋の扉の前に立ち、ノックを済ませたあとに言った。
「フッフーン……俺たちの作戦室へようこそ!」
扉を開けると中にはすでにアルのパーティメンバーと思しき人たちがいた。
「ようやく帰ってきたか……」机の上に足を投げ出して、腕を後ろに組んだままの薄茶色の短髪の男性がアルに反応した。
「アルゥ、待ちくたびれたよぉ」と机に突っ伏したままの赤いツインテールの女性がくぐもった声で言った。
「知らない人がいる……」冷たい視線を僕に向ける深緑色のショートヘアの女性が呟いた。
「ん~、メダル……何色なんだろ?」顎に手をやり焦茶色の後ろ髪を結んだ男性は、僕の胸あたりをジロジロと見ていた。
皆、冒険者としての装備ではなく、街の人と同じような目立たない服装で座っていた。
彼らは席を立たず楽な姿勢でアルと僕を迎えた。
部屋の中は大きなテーブルと椅子が中央にあるだけの簡素なものだ。
アルは抱えていた麻袋をテーブルの真ん中にドンと置いた。
扉を閉めたアルは大きな声で僕を紹介してくれた。
「みんな聞いてくれ、俺たちの依頼を手伝ってもらうことになった。スヴィルだ」
「スヴィル・エルダーグです。よろしくお願いします」
左側に男性が右側に女性が腰掛けており、みんなが「よろしく」と明るく迎えてくれ、僕の中にあった緊張もすぐに消えた。
「スヴィル、年はみんな近いから気楽にいこうな! あとこの袋は話し合いの合間に簡単に食えるものを買ってきたぞ。好きに食ってくれ」
「それで遅かったのか……」
薄茶色の髪の男性は呟いた。
「じゃ、左手前の薄茶色の髪をしたやつから紹介な。戦士のアダム・ネット、奥の焦茶色の髪は斥候のモイシャル・ファレイン、右手前の赤い髪は生命系魔法使いのリィリィ・ブランシュ、最後に深緑の髪は精霊系魔法使いのラウハ・ローランだ。スヴィルはとりあえずリィリィの隣にでも座ってくれ」
僕はアルに言われた通りに席に着くと、モイシャルが訊いてきた。
「ところで、スヴィルのメダルの色って何だ?」
心臓がドキッと反応するが、内心では『やはりきたか』と思った。
「あのー……僕はまだ正規登録してません……」
アダムとリィリィが「えぇっ⁉︎」と反応した。
すぐにアルが立ち上がって落ち着くよう身振りと言葉で促していた。
「アルどういうことだ? 勇者の名声にあやかろうとすり寄ってきたやつを仲間にしたのか?」
モイシャルが厳しく追及した。
「俺たちに余裕なんてねーぞ……判別受けたばっかの集まりなんだからよ……」
アダムが気だるそうに意見した。
「わかってる、わかってるって……ちょっと話を先に聞いてからにしてくんないか?」
アルは焦りを見せる仲間をなだめた。
「まずスヴィルは『希望の勇者ヘディン』のパーティメンバーとして、魔物と戦闘の経験を積んでいるベテランだ。俺たちの足りない部分を補ってくれると思って勧誘したんだ」
アルの話を聞いてメンバー全員がどよめき立った。
僕もベテランと言われるほど役に立てるか不安になった。
「ちょっと待って、アル。本当にヘディンパーティのメンバーなの? 本人がそう言ってるだけなんじゃないの?」
僕に厳しい視線を向けてリィリィは言った。
「そうだな……ギルドに登録していないやつが、パーティメンバーって彼らにとってメリットないじゃんか……そんなの聞いたことないし、ヘディンパーティは魔王に処刑されているから当人たちに確認しようがないしな……」
「証拠、証拠……」
アダムとラウハが続き、モイシャルも頷いていた。
「あー……う……スヴィル……大丈夫だよな……?」
仲間からの追及にアルは自信を無くしたようで、僕に何とか証明できないか求めてきた。
「メンバーといってもギルドには仮登録で済ませてます。……あとこれで証明になりますか?」
僕は仮登録のメダルを外し、皆の前へ差し出した。
アルがメダルを手に取り物珍しげに見回していた。
「こんなのがあるのか……」
「どうなの、アル?」
リィリィが促した。
「あ、四人の名前があるな……ヘディン、ナヴィアナ、バリル、エミル……名前に血判も押されているな……」
アルはそう言うと名前が見えるようにテーブルの上に置き仲間に差し出した。
「そのメダルで証拠になりますかね……?」
僕は不安に思いながら確認した。
「うーん……仮登録ってあるのかわからないし……この名前と血判が本物かもわからない……」
アダムが頭を抱え黙り込んだ。
「ひ、一つ聞いていいかしら?」
リィリィが手を挙げて発言する。
「どうしてスヴィルは彼らと一緒に行動していないのかしら? こんなこと言っちゃ何だけどメンバーなら一緒に……」
リィリィの言葉は最後まで続かなかったが、何を言いたかったかは僕自身よくわかっている。
”何故一緒に処刑されなかったのか”と……。
僕がヘディンさんたちの処刑を聞いた時、その思いは悔しさと後悔と悲しみが入り混じったぐちゃぐちゃの感情だった。
しかし、今は失意の中でナーヴァと出会い癒された。
そして、もう一度ヘディンさんたちが目指そうとした旅を……。
ナヴィ姉さんの導きかのような地図の場所へ……。
それらを為すことが生き甲斐と感じつつあった。
だから、今アルたちに僕の身に何があったのかを話すことに躊躇いは無かった。
「少し長くなるけど話を聞いてもらえるかな?」
僕の落ち着いた口調にアルたちは頷いて静かに聞き入ってくれた。
◇
ヘディンさんのパーティを追放されるきっかけとなった魔族の襲撃から、ルードスロアでの出来事をアルたちに話した。
アルたちは神妙な表情で聞き入ってくれていた。
「嘘を言っているようには聞こえない……」
ラウハの発言をきっかけにアルも同意した。
「オレもそう思うな……そもそもスヴィルは嘘つくの下手そうだしな」
アルがニヤリと発言する。
「どうしてもと言うなら、証明してくれそうな人がいるけど……」
「ナヴィアナさんの妹さんか……?」
アダムの問いかけに僕は頷いた。
「なんならその子もうちのパーティに……」
アルが意気揚々と話している途中でリィリィが止めに入った。
「アル! そんな大所帯にしたら旅の資金で苦労するわよ!」
「あ……あ、そ、そうだな……」
リィリィの厳しい指摘に、アルは肩を落とし意見を取り下げた。
「コホン……じゃあ、スヴィルが今回の依頼を手伝ってくれることについてはどうなんだ?」
アルが改めて聞き返した。
「ん~、ヘディンパーティの教えも興味があるけど、スヴィルの実力の方が気になるかな……」
モイシャルは期待を込めたような目で僕を見て言った。
「そうだな……訓練場で確かめさせてもらっていいかな……?」
アダムの目に力が入っていた。
「実力を示せば文句はないだろ」
アルが吹っ切れたように言い放つと、僕は「わかった」と返事をし、皆で席を立ち訓練場へと向かった。
◇
アルたちと訓練場へ向かう廊下で後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとナーヴァが手を振りながら駆け寄ってきていた。
「ナーヴァ!?」
僕の声にアルたちも歩みを止めて振り返った。
「まさかこんな所でスヴィルを見かけるとは思わなかったよ」
ナーヴァは嬉しそうに話した。
「この子がナヴィアナさんの妹!? か、可愛い……」
「ん~、身長低いんだ……」
「赤色のメダルか……」
「なんで槍持ってるんだ?」
「いい子……」
皆が一斉にナーヴァに話しかけ、ナーヴァは「えっ⁉︎ えっ⁉︎」と戸惑っていた。
「スヴィル、この人たちは……」
「お手伝いさせてもらえるかもしれない人たちだよ。僕の事情を話したから、ナーヴァのことも少し知ってるんだ。ごめんね」
僕はナーヴァに迷惑をかけたことを謝罪した。
ナーヴァは全然気にしていないと笑顔で許してくれた。
僕はナーヴァに、今から訓練場で実力を試される事と依頼の内容を伝えた。
「……その依頼というのが、南の森の吸血草を討伐するという内容なんだよ……」
「なるほど。……じゃあ、私も見学していい?」
アルが「全然問題ないよ」と答えると、ナーヴァはお礼を言った。
ナーヴァに「槍の訓練は?」と尋ねたら今日はもう終わったとのことだった。
ナーヴァはすぐに女の子たちと手を取り合って仲良くなっていた。
◇
周りが塀とギルドの建物で囲まれた広い敷地で、端の方に打ち込み用の的がいくつか点在する訓練場に着いた。
ナーヴァが言うには訓練場は東の魔法訓練場と西の近接訓練場があるらしく、今いる訓練場は近接訓練場という事だった。
訓練場の端にあった訓練用の木剣と盾を借り、アル、モイシャル、アダムの順で相手をすることになった。
「じゃ、スヴィル、準備はいいか? 魔法も攻撃魔法以外はありでいいか」
アルは訓練用の両手剣を軽く振り準備運動を終わらせて言った。
「問題ないよ」
僕が答えると、リィリィが始まりの合図を出した。
アルは定石と言える身体強化魔法を使い、大きく剣を縦に振りかぶってそのまま突進した。
僕は少し困惑した。
それはあまりにも雑な仕掛けだったので、何か狙いがあるのかと勘繰ってしまったからだ。
とりあえず僕はアルのその攻撃を横へと回避した。
アルの攻撃は空を切り、勢いのついた体勢を立て直すために僕から離れた位置で向き直した。
「スヴィル……今の避けちゃうの? 盾で受けるかと思ったんだけどな」
アルは自分の考えとは違う動きだったことに不満そうだった。
「僕は身体強化魔法が使えないからね。アルの攻撃をまともに受け止めた時点で僕の勝機は消えちゃうよ」
それに僕は彼らの中で一番身長が低い。
体格差でも負ける相手に、まともにぶつかるのは自殺行為だとバリルさんから教えられている。
身体強化魔法が使えない僕にとっては当たり前の対応だ。
「だったら……避けられないように行くぜ!」
今度は剣を水平に振りかぶったままアルは突進してきた。
僕は盾を構え受ける体勢をとった。
水平に振り払うアルの剣筋に、僕は体を剣筋より低く屈め、盾で剣を斜めに受け流した。
アルの剣は僕の盾に当たり、腕を跳ね上げる形となった。
そのタイミングで僕は剣を逆手に持ち、剣の柄でアルの顎先を打った。
アルは体勢を崩して後ろに倒れ、起き上がろうとするアルの喉元に剣先を当てた。
「アル、大丈夫?」
一応、心配してみた。
「マジ……魔法なしでそれとか凹むんだが……」
僕は剣を引っ込めて手を差し出してアルを引き起こした。
ナーヴァが「やったー」と喜びの声をあげていたが、アルの仲間は呆然としていた。
僕はやり過ぎたのかとちょっと心が痛んだが、そういうことではなかった。
剣で一番強かったアルが負けたことにショックを受けていたようだった。
「まさか、オレが負けるとは思っていなかったな。やっぱスヴィルがヘディンパーティにいたって疑う余地がないよな!」
アルは負けた悔しさを出しながらも嬉しそうに言った。
「じゃ、残り二回やって……」
僕が言いかけるとアルは腕を大きく振りながらもうやらなくても良いと言った。
「えっ⁉︎ どうして?」
僕の問いにアルが答えた。
「この中で一番強いのはオレなんだよ。魔法が使えないスヴィルが負けた場合、順に当たって、一人でも勝てたらお願いするつもりだっただけさ……ハハハ」
アルは明るく笑った。
「ちなみに順番って……」
「あぁ、強い順だな」
僕はアダムを横目で思わず確認してしまった。
気まずい空気が流れ、黄色のメダルで戦士系のアダムが一番弱いとわかってしまった。
てっきり弱い順だと僕は勝手に思っていたのだ。




