第22話 新たな出会い
モルガーさんの武具屋を出ての帰り道。
ナヴァリアはモルガーさんから旅に使える大きめの背負い鞄をもらい、その中に皮の手袋とブーツを入れ、槍は先端に皮袋を被せて鞄に引っ掛けるようにまとめた。
そして、ナヴァリアと他愛のない話をしながら歩いていると、正面から何かわいわいと話しながら近づいてくる二人の男がいた。
ナヴァリアはその相手を見ると、苦痛で顔を歪めたようになり「最悪」と呟いた。
「シシシッ……やっぱナヴァリアですよ~。キシシッ」
「あっははは……マジかよ。魔法を使えるようになるのを諦めて、武器を担いで冒険者やるのかよ。ギャハハハ……」
僕らを指差しながら、下品に笑い、馬鹿にしたような口をきいてきた。
「ナヴァリア、こいつらって……」
「ドゥジェンとボッタフ……訓練所で私を殴りつけてきたヤツ……」
ナヴァリアの暗く怒りに満ちた表情を見て、僕も無性に腹が立ってきた。
「スヴィル……相手しなくていいから行こ……」
ナヴァリアは僕の手を引き、さっさと二人を避けるように通り過ぎようとした。
二人を通り過ぎようとした時、不意をついて鞄に引っ掛けていた槍をドゥジェンが奪った。
「ハハッ! 赤色のメダルなら武器はいらねーだろ……俺様がもらっといてやるぜ!」
「シシシッ……さすがです~。ドゥジェンさん~」
勝ち誇った顔でナヴァリアの槍を僕らの目の前へ突き出したり引っ込めたりと、プラプラさせながら挑発してきた。
「か、返してよ!」
ナヴァリアが叫ぶように懇願しても、二人はケタケタと笑っていた。
僕は目の前に突き出したタイミングで、素早く踏み込んで槍を奪い返した。
「何が面白いのかさっぱりわからないんだけど……早く謝ってくれる?」
奪い返した槍をナヴァリアに渡しながら言った。
「な、何しやがる! 俺様のだろ!」
逆上したドゥジェンが殴りかかってきた。
僕はすぐに身をかわして殴りかかってきた腕を掴み、背中側へ捻り上げ、そのまま軽く背中を突き飛ばした。
ドゥジェンは受け身も取れずに盛大に顔面からすっ転んだ。
「ドゥ、ドゥジェンさ~ん……」
ボッタフが情けない声でドゥジェンを心配していた。
「だ、誰だよテメーッ!」
ドゥジェンが鼻血を出しながら強がった。
「ナヴァリアとパーティを組んでもらっているスヴィルだけど……彼女に酷いことしたら許さないから……」
僕は内心のイライラを彼らにぶつけて、睨みつけながら話した。
ドゥジェンはボッタフに体を起こしてもらい、気後れしながらも尚、虚勢を張った。
「ハッ! ……何だよ……姉妹揃って男に色目使って守ってもらわないと何もできねーんだよなぁ!」
「シシッ……ホント、腰抜けヘディンパーティにはお似合いの姉ですがね~……キシシッ」
ドゥジェンとボッタフの品のない笑い声が響くと、僕は怒りに震えついに我慢できず二人をぶん殴っていた。
「「ギャァッ!」」
痛みに悶絶する二人の姿を見ても、僕の怒りは収まらなかった。
「ヘディンさんが腰抜けなんてデタラメ抜かすなよ! ナヴィ姉さんが色目なんか使うわけないだろ! 守ってもらっているのはむしろ僕だ!」
「お、お前は……な、何なんだよ……」
ドゥジェンの態度は明らかに抵抗する気を失っていた。
「お前らにヘディンさんたちの何がわかるんだよ! それに二人がかりでナヴァリアを殴りつけたりして、お前らこそ何なんだよ!」
怒気を含んだ僕の叫び声でドゥジェンとボッタフは、悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。
結局、謝罪せずによろめきながらも逃げていった二人に、僕の苛立ちは消えなかったが、ナヴァリアが涙を浮かべて「ありがとう」と言ってくれたおかげで僕の溜飲は下がった。
◇
僕たちは再び話しながら帰路に着いた。
「そういえば訓練はいつから受けるの?」
「そうね~、明日かな」
「ナヴァリアが訓練受けている間、僕はどうしていようかな」
「あ、何だったらウチで畑仕事する? お母さんも喜ぶと思うよ」
笑顔で話すナヴァリアに対して僕は、内心それはそれでヤバいと急いで断る理由を考えた。
「あー……んー……それも悪くは……ないんだけど、ギルドで他のパーティの手伝いを探してみるのも悪くないかなー……なんて……」
ナヴァリアがキョトンとした表情で僕を見ていた。
「ほ、ほら……ナヴァリアだけ強くなるのもあれだから、僕も訓練がてらに……と思って……」
正直、言い訳としては苦しいと思った。
「もし……スヴィルが……他のパーティに入って何かあったら……私……」
ナヴァリアは辛そうな顔をしていた。
「大丈夫、ルードスロア付近の依頼で強そうな人たちのお手伝いを、させてもらえるものをお願いしようかと思っているから……」
僕もエリアナさんの食事を避けるために、こんな事を言っているのは情けなかった。
「ホントに?」
僕は笑顔で頷いた。
「わかったわ。でも無茶な依頼はやめてよね、お願いだから……」
「そんな依頼は流石に僕だと、足手まといになるから断られると思うよ」
ナヴァリアと話している内に、僕の泊まっている宿屋の近くに着いていた。
「じゃあ、スヴィル。しばらくだけどお互い頑張りましょ……あと……」
ナヴァリアは顔を紅潮させ何かを躊躇っているようだった。
「ナヴァリアどうしたの?」
「う、う~ん……あのね、もし良かったら何だけど……私のことは……ナヴァリアじゃなくてナーヴァって呼んでもらえたらなぁーって……」
時折エリアナさんが呼んでいた愛称だなと思い出し、「全然問題ないよ、ナーヴァ」と言った。
ナーヴァは嬉しそうに「ありがとう」と言うと僕の愛称についても尋ねてきた。
「スヴィルはお姉ちゃんたちから愛称では呼ばれていなかったの?」
「う~ん、そうだね。ナヴィ姉さんからたまに『弟』とは呼ばれたけど、愛称呼びはヘディンさんたちからはない……あっ……」
僕は唯一愛称で呼ばれたことを思い出した。
「一つだけ……さっきのモルガーさんの『スヴィ坊』ぐらい……」
「アハハ……さすがに私は呼べないよ」
僕も一緒に笑いながらそれは勘弁してほしいと伝えた。
「じゃ、スヴィル今日はありがとう……訓練がすぐ終われるよう頑張るね」
ナーヴァが背中を向けた時、僕は大事なことを思い出した。
「待って、訓練が終わる日がわからないから僕はどうしたら……」
「あー……それなら、終わった翌日の朝にスヴィルの元へ訪ねるよ」
「了解。じゃあ、頑張って!」
「スヴィルもね」
去り行くナーヴァの後ろ姿を見送り、その日の僕らは早めに帰宅することにした。
◇◇◇
翌日、僕はギルドの前で中へ入るかどうかで悩んでいた。
理由はこの間のドムとかいう奴がいたらどうしようかという事と、泣き叫びながら外に飛び出すという情けない姿を晒したことへの羞恥心だった。
「ギルドの職員さんたちは普通に対応してくれるのだろうけど……気が重い……」
深いため息を吐きギルドの扉から少し離れ、自身を奮い立たせようと手を握り合わせて瞑想をしていた時だった。
「お前、何やってんだ?」
突然後ろから声がかかり僕は「うわっ!」と声をあげ振り向いた。
そこに立っていたのは、赤橙色の髪をした、僕より背の高い男性だった。
街に溶け込むような服装に身を包み、膨らんだ麻袋を脇に抱えていた。
「え、あ、あの……誰?」
僕の狼狽した返事に男はプッと噴き出しカラカラと笑いながら言った。
「アハハハッ……それ聞きたいのこっちなんだが……クククッ……まぁ、いいや。オレはアルヴィド・リンデル。で、お前はなんて名前だ?」
アルヴィドと名乗った男は腕を組んでニヤニヤしながら訊いてきた。
「あ、すみません……スヴィル・エルダーグです。よろしく」
僕は握手を求めようと手を差し出そうとした。
するとアルヴィドさんの首からぶら下がる、白色のメダルが目に飛び込んできた。
「ゆ、勇者!」
僕は思わずメダルを指差し叫んだ。
「あぁ、これな……まさか最初の判別で白色になるとは思わなかったよ。ギルドに早く来いと言われてた、特異色の名簿に今さっき登録してもらったところだ」
アルヴィドさんはメダルを持ち上げながら自身の話をした。
「最初から白色ってヘディンさんみたいで凄いですね」
僕は少し羨ましく感じた。
僕の言葉にアルヴィドは嬉しそうに返した。
「おっ! スヴィルは『希望の勇者ヘディン』を悪く思わないんだな! いいな! 話が合いそうだ!」
「アルヴィドさんもヘディンさんのことは悪く思わないんですね! 良かったです」
アルヴィドさんの言葉に僕らはすぐに意気投合できると思えた。
「あー、スヴィル。『アルヴィドさん』はやめてくれ、アルって呼ばれる方がしっくりくるんだ。それとそんなに畏まらなくてもいいからな」
アルはそう言って肩に腕を回し、「よろしくな」と笑顔で話した。
「よろしく、アル」
「それで? こんなところで何やってたんだ?」
アルの質問に僕は少し躊躇ったが、話さないわけにはいくまいと、ギルドでの出来事と今日訪れた理由を説明した。
◇
「お、お前それ本当……なのか⁉︎」
アルは言葉を詰まらせながらも話し、片腕で僕の腕を掴み、その手がわなわなと震えていた。
「うん……そうだけど……アル、どうしたの?」
僕は何かマズイことでも言ったのか不安になった。
「どうしたのって⁉︎ ヘディンパーティの仮登録メンバーで一緒に旅してたってことだよ! マジすげーじゃねぇか! いいよな!」
アルが感激している様子を見て、僕は誇らしく感じた。
「まぁ、でも……それがギルドで他のパーティにお手伝いとして迎えられるかは別なんだけどね……」
僕の置かれている現実にやはり落ち込んでしまう。
「だったらオレの依頼手伝ってくれよ!」
いきなりのアルの申し出に、嬉しさのあまり僕は二つ返事で応えかけたが、いくつか確認しなければならないと思い留まった。
「アル、すごくありがたいんだけど、確認したいことがあるんだ……」
「ん? なんだ?」
「依頼内容ってルードスロア周辺かな?」
「そうだな」
「その内容って聞いても?」
「南に少し行った先にある森に吸血草が多く目撃されたみたいで、そいつを狩る内容だな。まぁ、白色の判別を受けたからって、いきなり魔族を討伐しようと思うなって、ギルドから耳が痛いほど言われたよ。だから、スヴィルが気に病むようことはないと思うぞ」
確かに依頼内容も軽めだと思われるもので、これならと僕も思った。
「一応、ギルドからお勧めの依頼だし、オレも勇者になってすぐに死にたくはないからな……」
「植物系の魔物か……火が弱点だよね……」
「火の魔法ならオレと仲間が使えるぜ」
もうすでに仲間がいることに僕は驚いた。
「もうパーティ組んでたんだ……」
「あぁ、幼馴染の連中だけどな。実力は申し分ないと思ったから声をかけていたんだよ。あとで紹介するからさ」
「わかったよ、アルよろしくお願いするよ」
「おぅ! 頼んだぜ!」
(アルにヘディンさんの教えを伝えて魔王を倒せる勇者になってくれたら最高だ!)
僕とアルはガッチリ握手をし、共に依頼を達成することを誓った。




