第15話 ナヴィアナの魔導書
読んでくださっている皆様へ、6月から週末20時過ぎ頃の更新にします。
よろしくお願いします。
「それじゃぁ、スヴィル……これからの事についてはまた明日、話しましょ」
「うん、わかった。明日どこで待ち合わせたらいいかな?」
「街のことはわからないでしょうから、私がここへ来るわ。じゃぁ、おやすみなさい。スヴィル……」
「おやすみ……ナヴァリア」
私はスヴィルと明日の約束を交わした後、帰路に就いた。
スヴィルは送ってくれようとしたけど、顔見知りの多い帰り道に危険は少ない事と、家までさほど離れていないことを理由に納得してもらって別れたのだ。
それもお姉ちゃんからの教えなのだと思うと、とても嬉しくお姉ちゃんの存在を近く感じた。
私の手にはお姉ちゃんが『魔導書』と呼んでいた手帳がある。
最初見た時には本当に『魔導書』だと思ったが、魔法のこと以外に何かの走り書きや単語などもあり、何かしら記録して色々と使っていたようだった。
「ただの手帳には似つかわしくない表紙の装飾が勘違いさせるよね~。それに結構使い込んでる……一体いつから始めたんだろう?」
手帳を眺めながら、私も『魔導書』と名づけて、お姉ちゃんの意思をできるだけ継ごうと思った。
◇
「ただいま……」
私が家に着くとテーブルに伏していたお母さんが顔をあげ、すぐに私のもとへ駆け寄って強く抱きしめた。
「ナヴァリア……よ……よかった……ううっ……」
お母さんの顔を見たとき、赤く腫れた目からお母さんに何があり、何を考えていたか悟った。
「お母さん……帰りが遅くなってごめんなさい……」
「いいの……帰ってきてくれたから……あなたもお姉ちゃんのことは……」
私は小さく頷きお母さんと強く抱き合った。
私はスヴィルと出会って話をしたことで、お姉ちゃんが生きているような錯覚をしてしまい、嫌な現実を忘れることができた。
今、お母さんの状態を肌で感じてお姉ちゃんが亡くなった現実に向き合わなければいけなくなった。
「大丈夫? お母さん……」
お母さんは涙を浮かべうんうんと頷いた。
「お父さんは?」
「教会……さっきまでいたのだけど、農業地区の人たちが来て、お姉ちゃんやヘディンさんとそのパーティの方達に祈りを捧げにいこうって……」
「お母さんは私を心配して待っていてくれたんだよね」
「あなた……お姉ちゃんを好き過ぎるくらいだから後を追ったりしないか心配だったのよ……」
「ごめん……大丈夫……大丈夫……」
私はお姉ちゃんの死を受け止めて、もう涙を流すことはないと思ったけれど、お母さんの悲しみの感情は再び私の涙を引き出すのに十分だった。
そして、私とお母さんは教会には行かず、その場でお姉ちゃん達へ祈りを捧げた。
◇
私はお母さんにスヴィルとの出会いとこれまでの経緯を話し、お姉ちゃんの魔導書も見せた。
「あの子ったらこんな物を……旅で成長していたのね……わたしの知っているあの子の性格では想像つかないわ……」
「だよね。私も予想外だった……またスヴィルからお姉ちゃんのこと色々聞いてみるよ」
お母さんは憔悴した表情で微笑みを浮かべ、魔導書をパラパラとめくっていた。
するとあるページで目が止まり私に見せてきた。
「これって地図かしら? ……『ここへ』ってあるけど……」
私はお母さんが開いているページを互いの頭を突き合わせるように横から覗き込んだ。
「……お母さん……多分地図であっていると思うけど、お姉ちゃん下手だねぇ……」
「まぁ……あの子らしいわね」
そこに描かれていたのは北を示す文字に、雑な線で描かれている中央にある山と麓なのか左下に少し離れた位置に『emil』の文字。
中央付近の山のような線から右上に波線が描かれてあり、その間に『sville』の文字。
そして、中央の山の線の麓よりも下に左斜め下に傾いた細長い楕円があり、その中の左下には星印に対して楕円の外側へ線が引っ張られ『ここへ』の文字。
楕円の中の右上には上下逆さまに書かれた『airravan』の文字があった。
「この『sville』ってナーヴァが出会ったていうスヴィルじゃないの?」
「ここにある『emil』はヘディンさんの仲間のエミルっていう人だと思う……」
「あと何で『airravan』は上下逆さまに書いてあるのかしら……?」
私はどこか見覚えのある円の囲みと文字を見ている時に、お母さんのそのセリフで昔の記憶が蘇り答えがわかった。
「お母さん、これ……ヘディンさんの宝の地図だ……」
「え? ナーヴァ何か知っているの?」
私はお母さんにヘディンさんの宝の地図について話した。
◆
幼い頃、私はお姉ちゃんに頼まれて宝探しをした。
お姉ちゃんが持っていた宝の地図はヘディンさんからの誕生日プレゼントだったらしく、そのまま渡すより楽しんでもらおうといった趣旨のものだった。
「ナーヴァ、こんなのわかんないよ~。普通に渡してくれたらいいのに……」
お姉ちゃんは口を尖らせながら文句を言っていた。
「お姉ちゃん、普通はつまんないとも言ってたよね……」
そう言うとお姉ちゃんはとぼけた顔をして誤魔化した。
ヘディンさんからの宝の地図は街の中にあるいくつかの目印が描かれており、そこに丸く囲った円の中に上下逆さまの文字と星印という構成だった。
お姉ちゃんが地図を確認しているときに、私はちょうど地図を逆さまに見ている状態になった。
そこで上下逆さまの文字の答えがわかったのだ。
「お姉ちゃん、この星印『sarions』って書いてるよ」
「えっ……『snoiras』って逆さまになってるやつ?」
「ほら」
私はお姉ちゃんの持っていた地図をひっくり返して見せた。
「ほんとだ……どういうこと?」
私は自分の推察を簡単に説明した。
「この丸で囲んだ部分だけひっくり返すんだよ。そうすれば地図にある他の目印と一致するでしょ」
「あ……なるほど……って宝の場所ってサリオンズ商会⁉︎ ヘディンの家じゃない⁉︎ もぅ!」
こうしてヘディンさんの家へ向かい、お姉ちゃんはヘディンさんに文句を言いながらも嬉しそうにニヤける姿は、なんだかお姉ちゃんらしかった。
ヘディンさんは私が答えを見出したことを知って「ナヴィにとっては難しかったのかな……?」と複雑な気持ちを吐露していた。
◇
「なるほどねぇ……」
お母さんは私の話を聞いて地図に目をやると、眉間に皺を寄せて地図を指差しながら訊いてきた。
「じゃあ、この楕円の中の二つの位置関係はひっくり返るのよね……でも『airravan』って『navarria』……つまり、あなたのことじゃない? どういうこと?」
地図の見方は分かったとしても、書かれている名前との関連性は全くわからなかった。
腕を組んであれこれ考えてみたがナヴァリア、スヴィル、エミルと目印の答えにはたどり着けそうになかった。
「う~ん、わからないよ……明日スヴィルに会うから、その時何か知っているか聞いてみるね」
私は寝る身支度をしようと席を立った時、お母さんは強い口調で言った。
「だったら明日、そのスヴィルくんを連れていらっしゃい」
私はビックリしてお母さんの目を見ると、力強く何か意思があるように思えた。
「お母さん、私……」
お母さんは私の言葉に被せるように言ってきた。
「ナヴァリア、あなたの覚悟はわかっているわ。それでもわたしは母親として大事な娘を信頼して預けてもいいか自分の目で判断したいの……お願いわかって……」
「う、うん……」
私は少し怖くなった。
お母さんがスヴィルとの旅に出ることを拒絶したのなら、私は素直にスヴィルと別れ、旅に出ることを諦められるのか。
または、お母さんと喧嘩してでも旅に出るのか。
いずれかの選択肢しかないのなら、私はどちらを選択すればいいのかを……。




