第14話 ナヴィアナと精霊系魔法
僕らはダーヘスの宿の部屋に預けた荷物を取りに来た。
ヘディンさんから受け取った荷物にナヴィ姉さんの手帳があり、それをこのまま僕が持っているよりも、ナヴァリアに渡したほうがいいと思ったからだ。
「これがその手帳……ナヴィ姉さんは『魔導書』って言ってたんだけど……」
そう言って魔導書なるものを彼女に手渡した。
「……これって……こんな装飾された手帳なんてどこで手に入れたの?」
「さぁ? ……僕がナヴィ姉さんと出会ったときには持っていたと思うけど……」
「どこかの町? それともダンジョン……」
確かに手帳というには、硬い表紙に少し豪華な装飾が施されており、貴族かお金持ちが持っていそうなものだった。
「ナヴァリアは知らないの?」
ナヴァリアは首を横に振ると、本の留め具を外して中を確認した。
「お姉ちゃん……見させてもらうね……」
ナヴァリアは大きく深呼吸をし丁寧にページをめくっていくと突如大きな声を上げ出した。
「えぇ~っ! こ、これ……本当に魔導書じゃない⁉︎」
「うわっ……ビックリした~。どうしたの突然……?」
僕は目を丸くしナヴァリアの顔を見ると、彼女は目をキラキラさせながら語りだした。
「だってこの『魔導書』の中は生命系魔法と精霊系魔法の魔法陣が色々書かれているよ! お姉ちゃんこんなに魔法を勉強して探しだして記録していたんだって……」
ナヴァリアは興奮気味に話し終わると、僕に質問を投げてきた。
「スヴィル、お姉ちゃんって精霊系魔法も使ってたの?」
「なんかめちゃくちゃ頑張って出来るようになったとか言ってたかなぁ……」
「何、何⁉︎ それってどんな魔法?」
「えーと……追跡魔法だったかな……」
「え……何それ……」
僕はある出来事をナヴァリアに語った。
◆◆◆
僕がヘディンさん達との旅の最中で野営の準備をしていた時のことだ。
ナヴィ姉さんの叫び声がテントの中から聞こえてきた。
「ない、ない、ない、なーいっ! 私の焼き菓子が無くなってるぅっ!」
僕は大変なことが起きているのかと思い、ヘディンさんへ声をかけに行くと、またかと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「あぁ、スヴィル大丈夫だよ……」
ヘディンさんはニッコリと笑顔で返してくれた。
「またしてもぉっ! 許さんぞぉぉ!」
ただならぬ闘気を漂わせながらテントからナヴィ姉さんが出てきた。
僕はナヴィ姉さんを落ち着かせようと駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか? 落ち着いてくださいね……」
正直、冷や汗が止まらなかった。
このまま仲間割れなんて起きたら旅どころか、みんなバラバラになって、僕もパーティから外されてしまうかもしれないと思ったからだ。
「フフフ……スヴィル、大丈夫よ。なぜなら、この時のために私は精霊系魔法を血の滲むような努力によって、ついに使えるようになったのよ!」
僕は訳がわからなくなっていた。
さっきまで、とてつもない怒りの表情を見せていたかと思えば、今度は薄っすらと勝ち誇ったかのような表情になっていた。
それと、精霊系魔法が使えると何があるのかもわからなかった。
(焼き菓子とか、またしてもとかどういう事なんだろう……)
僕が困惑していたのがわかったのか、ヘディンさんがそっと耳打ちしてくれて状況が理解できた。
要するに、ナヴィ姉さんが小袋に入れて他と分けていたおやつをバリルさんに度々盗み食いされていた。
その事を追求しても「知らない」とか「小動物が食べた」とかで言い逃れした挙句に、「証拠もなしに犯人扱いはやめてくれ、なんなら得意の魔法で犯人を探せばいいんじゃないか?」と言われムキになって覚えたらしい……(ってか犯人わかってんじゃん!)
バリルさんもナヴィ姉さんは生命系魔法の攻撃魔法しか使えないと高を括ったみたいだ。
(ヘディンさんの表情も納得だな……)
「さぁ! 覚悟してなさい! 脳筋!」
直接追究したほうが早いと思っていたら、ヘディンさんとエミルさんも同じような気持ちなんだと表情を見てわかった。
「追跡魔法!」
ナヴィ姉さんがそう叫ぶと、テントの入り口前の地面に手を置きさらに叫んだ。
「発動!」
掛け声と共に地面から薄っすらと浮かんでは消える煙のような光が見えてきた。
ナヴィ姉さんはテントの中を確認し、中から小袋を持って出てきた。
「これを見て……犯人の方向を指し示しているわ⁉︎」
それってバリルさんのいる方向だとは言えずとりあえず合わせるように訊いた。
「その煙のように見えるのは?」
ナヴィ姉さんは得意げに教えてくれた。
「この煙に見えるのは小袋に触れた人の魔力が微かに移っているものよ。時間が経つとこの程度の魔力は消えちゃうけれどね。あと、この小袋から二つの煙みたいなのがあるのはわかる? 一つは私へもう一つは、犯人のいる方へと流れているわ」
僕がほぅほぅと声を出して合わせていると、ヘディンさんがエミルさんに一緒について行って欲しいとお願いしていた。
「わかりました」
エミルさんは優しい口調で答え、一緒にきてくれるようだ。
僕はエミルさんがいてくれるならと安心した。
僕らはナヴィ姉さんの後に続き、森の中へ入っていった。
森の中でバリルさんは薪を集めていた。
「ほらっ! 犯人がいたーっ!」
嬉々として声をあげ、ナヴィ姉さんはバリルさんへ駆け寄った。
そして、小袋を突き出し証拠としてバリルさんを問い詰めた。
「さぁ、観念なさい! アンタの言っていた魔法が指し示す証拠よ!」
「あん? ……で?」
バリルさんは全く悪びれる様子もなく返していた。
「はぁ⁉︎ アンタが私のおやつを盗み食いしたんでしょーがっ! 謝罪して弁償しなさいよっ!」
「いや、その小袋から出てる煙みたいなので、なんで俺がやったってことになるんだよ?」
確かに事情を知らなければ、煙が何だと思ってしまうかと僕も心の中で同意した。
「この小袋から出ている煙は私の精霊系魔法である、『追跡魔法』によって示された生き物の魔力の痕跡を辿るもの。そして、その煙は二つだけ発生してるわ。持ち主である私と何故かバリル……あなたを示している。つまり、私の小袋に触れて中に入れたおやつを食べた奴ということよっ! さぁ、白状なさい! 私の勝ちよっ!」
ナヴィ姉さんは鼻息荒くバリルさんを追い詰めたと確信したようだった。
「あぁ、食ったぜ。めっちゃ美味かったわ……まぁ、なんだ労働の前に少しでも腹ごしらえしとかねーと筋肉が可哀想だしな!」
バリルさんは開き直ってあっさり認めた。
「は……?」
「いや、しかし、ナヴィが精霊系魔法を使えるようになるとは思わなかったな……ガハハハッ」
楽しそうに話すバリルさんだが、ナヴィ姉さんの眉がピクピクと痙攣し、怒りが爆発寸前だ。
「こんの……クソ筋……」
ナヴィ姉さんがポツリと呟くと、こちらを見ずに僕らへ手をパタパタさせていた。
それを見たエミルさんは何か感じ取ったのか、僕に「少し離れましょう」と言い、僕の背中を押してナヴィ姉さん達から距離を取った。
「範囲麻痺魔法……」
ピリッとした感覚を覚えた後、ナヴィ姉さんを中心に小さな稲妻のようなものが球状に走った。
そして、その範囲内にいたバリルさんは「あだっ!」と小さな悲鳴のようなものをあげてその場に倒れ込んだ。
「な、ナヴィ……なんだ……これ……」
「バリル……あんたがごめんなさいして、弁償を確約するまで許さないんだからっ!」
「たしか……この辺だっけ?」
「イダダダッ!」
ナヴィ姉さんはバリルさんの持ち上げた腕の二の腕の内側を思いっきりつねっていた。
「ここは鍛えられない所って聞いたけど本当のようね……フフフッ……」
「な、なぁ……ナヴィ……ちょっと……待ってくれ……」
「さぁ! バリルお仕置きの時間よ!」
ナヴィ姉さんは腕と顔をつねっては麻痺魔法を使うのを繰り返し、バリルさんに有無を言わせず楽しそうにお仕置きをした。
「イダーッ! いたただっ! わかった、悪かった。謝るから許してくれーっ!」
流石のバリルさんも観念したようで、ナヴィ姉さんに懇願していた。
「あら、もう観念しちゃったの? 私もだんだん楽しくなってきたんだけど……」
「ホントすまん! お、王都で人気の高級焼き菓子で許してくれ……」
「あら、本当なら嬉しいわぁ……で、いくついただけるのかしら?」
「えっ……今回は一つしか食ってないし、高級菓子なんだから一つでいいだろ?」
「続行!」
「いぎゃあぁっ!」
いつまで続くのだろうかと僕はエミルさんに尋ねると、エミルさんは笑いを堪えているようで「もう少し」とだけ言い体をプルプルと震わせていた。
「こ、高級なんだから一つで……どうか……」
「今まで何回あなたに食べられたと思っているのよ。三つは必要よ」
「わ……わかった……」
ついに話がまとまり、バリルさんへのお仕置きタイムも終わりを告げたようだ。
僕らはナヴィ姉さんたちのもとへ寄り、バリルさんを起こす手伝いをした。
「あ~、トレーニングよかキツイぜ……」
バリルさんは疲労困憊といった感じだ。
「それじゃ、バリル。最高級焼き菓子よろしくね~」
ナヴィ姉さんは嬉しそうにスキップをしてヘディンさんのいるテントの方へ向かっていった。
「エミル……なんか最高級って聞こえたんだが……」
「えぇ、言ってましたね」
「グレード上がってんじゃねぇか……」
「そこは従ったほうがいいと思います。バリル、それとスヴィルにも言っておきますが……」
急に僕の名をエミルさんが呼んだので何事だろうかと聞き入った。
「女性を怒らせると後が大変ですよ」
「お、おぅ……すまねぇ……」
「そう……ですね……」
◇◇◇
僕の話が終わると、ナヴァリアは腕を組んでうんうんと頷き「さすがお姉ちゃん」と呟いていた。
「……でも、三つは多いかな……せめて二つかな……」
ナヴァリアは控えめで優しい性格なんだと、僕はナヴィ姉さんとの違いを感じた。
「それで三日間だと一日で食べ過ぎないよね?」
笑顔で僕に同意を求められたが、僕は「あ~……」と声に出しかけた言葉をそのまま飲み込んだ。
(ナヴィ姉さんの倍の数になってる……)
食に対する執着心はやはり姉妹なんだなぁと、ある意味感心させられるのだった。




