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第13話 断たれた絆をもう一度

 僕はナヴァリアの案内で、ルードスロアの中で落ち着いた雰囲気がある、オルペックという看板の飯屋へと来ていた。

 ナヴァリア曰く、冒険者達はガヤガヤとした騒がしい雰囲気の酒場を好むようで、この店は冒険者達よりも街の人たちが食事のために集うような場であった。

 食事時ということもあってか、ほとんどの席は客で埋まりかけていた。

 オルペックで僕とナヴァリアは料理を注文した後、互いにこれまでの経緯を語り合った。


 ◇

 

「なんか……ゴタゴタしてナヴァリアに出会うまでが、お互い似た状況でちょっと笑っちゃいそうだね……」

「ははは……私もちょっと思った。でも、スヴィルがお姉ちゃんとヘディンさんのパーティにいたなんてビックリだよ」

 ナヴァリアと僕は少し気恥ずかしそうに笑った。


 昼間はヘディンさん達の訃報に絶望し、身体の痛みに耐えるのも辛くなっていたときに僕らは出会い、心の傷を癒されるような感覚を得ていた。

 (ナヴァリアはどう思っているかわからないけど……)そう思いながら僕は心の中でナヴァリアに感謝していた。


「スヴィル、顔の傷はもう大丈夫そうだよね?」

 僕はナヴァリアに譲ったポーションの残りを貰って、主に顔に受けた傷を治してからご飯を食べに来ていた。

「うん、おかげで食事は楽に食べられそうだよ。ありがとう」

「もともとはスヴィルのポーションじゃない、感謝しなきゃいけないのは私の方だから」

 こうは言っても僕の体へのダメージは少し残っていた。

 

 しかし、ニッコリと笑顔を見せてくれるナヴァリアにナヴィ姉さんの面影があり、弱音を吐いたり間違ったことをすればすぐに怒られそうな感覚を思い出していた。

 僕は内心とても嬉しく思っていた。


「お待ちどうさまです」

 給仕が注文した料理を器用に皿を重ねて運んで来た。

 テーブルにはナヴァリアと僕の注文で七品ほどが並べられた。


 (香りが良く食欲をそそるなぁ~)


 テーブルには小さな浅い皿がそれぞれの席に置いてあり、その小皿に少しの水を注いでから、床の上に優しく落とした。

「ルカナファに……」

 僕らは食事をいただく前に女神へ感謝の祈りを捧げた。

 そして、料理に手をつける前に僕はナヴァリアに確認したいことがあり話を振った。


「ところでその……ナヴァリアが魔法を使えないことなんだけど……」

 僕は彼女が気を悪くしないか少し戸惑いながら聞いてみた。

「……」

 ナヴァリアは何も答えずにただ黙々と注文した料理を食べ続けていた。


 (やっぱ、聞いちゃまずかったのかなぁ~……でもこれは確認しておきたいことだしなぁ……)

 そう思い、次はどう切り出すか考えていた。

 

「ふびうぅはほめらめあい?」

「ナヴァリアさんちょっと何言ってるかわかんないです……」


 (突然話し出したかと思えば食べながら話すなんて……)


 僕は彼女が答えにくいことを誤魔化しているだけなのかと勘ぐっていた。

 そして、ナヴァリアは僕の近くにあった一品を自らの手元に寄せ、黙々と食べていた。


 ナヴァリアが黙々と食べる姿を見つめていると、僕も(話は後でいいや)と思い直し、先にお腹を満たそうと、負けじと急いで料理を食べ始めた。


 ◇


 ナヴァリアは料理を食べ終えると一息ついてから話し出した。

「フーッ……で、私が魔法使えなくなったことがどうしたの?」

「あ、うん……ナヴァリアはこれから冒険者は諦めるのかなって……ナヴィ姉さん達のことがあって辛いだろうし……ごめん……」

「……そうね……」

 ナヴァリアは口元を手で覆いながら少し考えこんでから話した。


「私は冒険者になることを諦めないよ。もちろん、魔法が使えなくなった原因だっていつまでかかっても突き止めるつもり。このまま魔法が使えないのは嫌だし、マルムスクさんは原因さえ分かればまた使えると言っていたからね。私は諦めの悪い性格なの……」

 ナヴァリアは何か吹っ切れたのか穏やかな表情でそう語った。


 僕はナヴァリアの心が折れてしまっているんじゃないかという心配を勝手にしていた。

 だけど、彼女は心が折れるどころか強い決意で前へ進もうとしていたのだ。

「なんかごめんね……勝手に悪いように解釈してたみたい。少し考え込んでいたから……」

「あぁ、それは……ま、大した事じゃないよ。ありがとう、スヴィル。……そろそろ出よっか」

 そう言うとナヴァリアは席を立ち、会計を頼んでいた。


「全部で38コリスになります」

「あ、僕が払います」

「ダメよ。自分で食べた分は払うから、これ以上借りは作りたくないの」

 僕はそんなつもりは全くないのだが、ここはナヴァリアの意を汲んでお互いが食べた分での勘定にしてもらった。

 この時、僕は店の外に出るまでの間でナヴィ姉さんとのあるやり取りを思い出していた。


 ◆


 僕がヘディンさんのパーティへ入って間もない頃、ナヴィ姉さんの炎の初級魔法で驚かされた。

火球魔法(エルキューラ)!」

 ナヴィ姉さんは先端に赤い魔操石が付いたショートスタッフを掲げ、離れた場所にいた魔物たちへ火球を放ち一掃した。

 火球はニ発ほど放たれたが、いずれも初級魔法とは思えない威力があった。


「ナヴィ姉さん……す、凄い威力です! 本当に初級魔法ですか?」

 離れた位置にいるにも関わらず、熱風に晒されて恐ろしさを感じていた。

「まぁ、私は魔力濃度がかなり濃いから、普通に魔法を行使しても威力は高いのよね」

 少し得意げな顔のナヴィ姉さんは続けて不満を漏らした。


「それよりも、バリルったらこの辺りの魔物は片付けたんじゃなかったの!? ホント詰めが甘いというか雑というか……」

 ナヴィ姉さんは僕に魔法の基礎を教えるために、辺りの魔物の排除をバリルさんにお願いしていた。

 しかし、何体かの魔物を見落としていたようで、それをナヴィ姉さんが魔法で排除したのだ。


「あ、で、でも良いお手本が見られました! それと魔力濃度がそんなに濃くて威力が高くなるなら、ナヴィ姉さんは最強の魔法使いですね!」

 ナヴィ姉さんが不機嫌にならないようになんとかバリルさんへのフォローを入れつつナヴィ姉さんを持ち上げてみたが、ナヴィ姉さんは鼻で笑ってそのまま魔法について教えてくれた。


「最強ねぇ……どうなんだろうかしら……」

「どうしたんですか……?」

 ナヴィ姉さんは少し考えてから話してくれた。

「ねぇ、スヴィル。魔法は威力の強さだけで判断してちゃダメよ……威力は及ばなくても勝てる方法はあるのよ」

「えっ……どういうことですか?」

「私にはね……妹がいるんだけど、単純な魔法の威力勝負なら私は勝てる。だけどね……実戦として戦ったなら私は妹に勝てそうもないのよ」

「ナヴィ姉さんより強い、妹さんがいるんですか!?」

 僕は最強だと思ったナヴィ姉さんよりさらに強い妹さんがいることに驚いた。


「あくまでお互いに戦ったらの仮定の話だからね。可愛い妹とは戦ったりしないわよ」

「でも、威力が高いナヴィ姉さんにどうやって勝つんですか?」

「簡単な話よ……私が魔法一発放つ間に、あの子は三発放ってくる。魔法の生成スピード、魔力操作と制御が飛びぬけて上手いのよ」

「え……」

「手数でゴリ押しできるから、私が魔法を放てるのは最初の一発だけになるんじゃないかしら……」

 ナヴィ姉さんは少し楽しそうに妹さんことを話し続ける。


「しかもあろうことか、威力が私に及ばないことを気にして、初級魔法を応用して新たな破壊力のある魔法を作ったこともあったわ。……まぁ……それは私も教えてもらったけど……」

「えぇーっ!」


 想像以上の凄さに僕は思わず大きな声を出してしまった。

「なら、妹さんをパーティに入れた方がいいんじゃないですか!?」

 僕はそんな凄い人ならぜひヘディンさんのパーティへ勧誘すべきなのではないかと強く思った。


「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと十五歳になってから迎えにいくわ」

「……えっ……今いくつなんですか……?」

「スヴィルと同い年よ」

「えぇぇぇっっ!」

 まさかそんな凄い人が僕と同い年とは思わず、今日一番の大声を出してしまった。


「それになんかスヴィルは妹に興味津々だからちゃんと紹介してあげるわよ~。ってかもう好きになっちゃった感じ? 本当の弟になっちゃう?」

「な、な、な、何言ってるんですか!? ナヴィ姉さん!」

 ナヴィ姉さんの嬉しそうな顔と矢継ぎ早な言葉に、激しく動揺していた。

 

「スヴィル……真面目な話……戦いもだけど何事にも負けず嫌いな性格な子なの……そんなあの子を一言でいうなら()()()()()()よ……」


 ◇


 あの時、ナヴィ姉さんからナヴァリアの名を聞くことはなかったけど、ナヴィ姉さんが心の底から誇らしげに話していたのはわかった。

 僕はこのままナヴァリアと別々の道を進むべきか、一緒にパーティを組んでもらえるようお願いするかで悩んでいた。

 辺りはすっかり日が暮れ、夜の街として賑わっていた。

 そして、お店を出てすぐのところでナヴァリアは振り返り別れの挨拶をした。

 

「それじゃあ、スヴィル……今日は色々ありがとう。お姉ちゃんの話、よかったらまた聞かせてね。それじゃあね」

「あっ、待って……」

 僕はすぐに呼びとめて彼女に訊いた。


「ナヴァリアはどこかのパーティへもう加入しているの?」

 ナヴァリアは首を横に振りうつむき加減で淋しげに話した。

「今の私は魔法も使えない、ただの足手まといにしかならないから、どこかに入れてもらうなんてできないよ……だからスヴィルは気にしないで。私は自分のペースで少しずつやっていくから……」

 

 ナヴァリアの目にうっすら涙が浮かんでいるように見えた。

 彼女はおそらく迷惑をかけないように一人でやっていくつもりだ。

 それならと、僕の心は決まった。


「ナヴァリア……僕はヘディンさんのパーティの見習い剣士でいたい。この胸のメダルは仮登録でも、彼らとの唯一の絆でもある。だから勝手だけど、僕はギルドへの正規登録はしたくない。そんな奴が他のパーティに加入させてもらえるかはわからないよ。……それと、僕は君のお姉さんの言ったことを信じる。君の中にある本当の力を取り戻せるって信じる! ……だから……」


 僕はナヴァリアの前に立ち、目の前で片膝をついて手を差し出して優しくお願いした。

「僕とパーティを組んでくれませんか?」


 僕はナヴィ姉さんに教えてもらっていた『女の子をパーティへ誘う時の作法』を実践した。

 これで合っているのだろうかと少し不安だった。

 ナヴァリアの顔を見ていると彼女の顔が次第に真っ赤に染まり、体をプルプルと震わせているのがわかった。


 (あれ? こういう反応でいいのかな?)

 僕は少し不思議に思いながらも彼女の顔を直視し答えを待った。

 

「な、ななな、何よっ! その頼み方はーっ! 普通に頼めないのっ!? スヴィルってそんな感じなのっ! バカなの? 超バカーっ!」

 ナヴァリアは顔を真っ赤にしたまま僕の頭をポカポカと叩いていた。

「イタタ……え、え、ごめん……何か間違ってた?」

 僕がナヴァリアにポカポカと叩かれていると、酔っぱらった風の老人が僕らに近づいて話しかけてきた。

「うぃ~っ……ヒック……若いの……プロポーズは失敗かのぉ~」

「ぷ、ぷ、ぷろポッポーッ!?」

 僕は老人の言葉に激しく動揺し、声が裏返って叫んでいた。


 僕はナヴァリアの誤解を解こうと必死になった。

「ちょっと待って! 違うよ! 僕はナヴィ姉さんに教えてもらったとおりにやっただけだよ!」

「んがっ……!?」

 ナヴァリアは何かに気づいたらしく頭を掻きむしりながら地団駄を踏んで言った。


「あぁっ! もうっ……それってお姉ちゃんの好きなイタズラじゃない! よりにもよって何で私なのよーっ! どこかの影からこっちを見てクスクス笑ってるんじゃないのぉっ!」

 ナヴァリアは悶絶し、辺りをキョロキョロと見回したりしていたが、落ち着きを取り戻したときには少しだけ笑っているように見えた。


「ナヴァリアごめんね……世間の常識っていうかそのへんは、教育係としてナヴィ姉さんに教わったことしか知らなくて……」

「ヘディンさん達からは教わらなかったの?」

 ナヴァリアは少し呆れ気味で優しい表情と口調で訊いた。


「ヘディンさん達は旅の心得とか魔族との戦いぐらいで、世間の常識や読み書きはナヴィ姉さんから……」

「そっか……わかったわ……スヴィル、確認したいことがあるんだけど……」

 ナヴァリアの何か決意をしたかのような話し方に、僕の体を緊張が走り抜け彼女の目を真っ直ぐ見つめた。


「今、魔法が使えない私とパーティを組んで、あなたにメリットはあるの?」

 僕は迷わず答えた。

「あるよ。さっきも言ったけど僕は仮登録の身でやっていきたい。仮登録だとギルドの依頼もほとんどが使い走りのような仕事だ。でも、ナヴァリアは正規登録だからギルドで普通に冒険者として依頼を受けることができる……そして何より……」

 僕は再びナヴァリアの前に立ち、今度はそのまま手を差し出して言った。


「ナヴァリア自身がヘディンさんやナヴィ姉さんとの絆だ。僕はそんな大切な人たちとの絆を守りたいし一緒に旅がしたい。僕とパーティを組んでください!」

 僕は口調を強めて心からの願いを伝えた。


「わかったわ……スヴィル。ありがとう、とても嬉しい……よろしくね」

 ナヴァリアは僕の手をそっと握り、嬉しそうに涙を流しながら笑った。

「うん、よろしく!」

 僕ももらい泣きしながら笑った。


「うぃ~っ……ヒック……若いの……プロポーズは成功かのぉ~」

「「違います!!」」

 夜のルードスロアの街に、僕とナヴァリアの声がそろったツッコミがこだましていた。

 (ってか、このお爺ちゃんまだいたんだ……)


 

26/06/11 表記揺れを更新

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