9 出店の準備と女性騎士
「遅くなってしまった。すまん!」
クラウン様は、走って戻ってきてくれたようだ。
「さっそく、出店を組み立てようか」
にこやかに私に話しかけてくれた。
「あ……」
気軽に話してはいけない、けれど……。
「クラウン様! 手伝っていただけないかしら?」
綺麗な女性のジルさんが、クラウン様の前まで走ってきて微笑んだ。
さっき私を睨んでいた顔とだいぶ違って、美しい微笑みだった。
私は後ろを向いて黙った。
仕方がないこと……。そう思って我慢した。
「悪いが、初めて参加するリサさんから先に手伝う。終わったら、手伝おう」
「えっ……?」
クラウン様はジルさんに言って、私の方へ近寄ってきた。
「枠を組み立てて、その上から丈夫な布で覆う。一人じゃ大変だ」
「い、いえ。あの……」
後ろを見ると、ジルさんは悔しそうに私を睨んでいた。
「俺が誘ったのだから、気にするな」
私の肩をポンポンと叩いて、出店の枠を組み始めた。
「ありがとう御座いま……す」
「ルル! 準備するわよ! 早く来なさい!」
「は、はい!」
ジルさんとルルさんは、自分たちの出店の準備を始めた。ごめんなさい……と思いながら、クラウン様に手伝ってもらった。
出店の骨組みを組み立てるのは、一人だと難しいと感じた。クラウン様に手伝ってもらって良かった。
あっという間に組み立てが出来て、その上に布を被せた。
後は内装を飾ったり、占いのお店らしく小物を置いたりとすればいい。
「クラウン様……。ありがとう御座い、ます」
私はクラウン様にお礼を言った。
「俺が誘ったし、一人じゃ大変だから」
笑うのが苦手なのだろうか? 笑ってくれているけれど、口の端だけが上がっているだけ。
それでも私は素敵だと思っている。
「あ……。これ、よ、よかったら……受け取って、下さい。回復ポーションです」
クラウン様に差し出したのは、中級回復ポーション。私が作ったものだ。
「回復ポーション? もらっていいのか? ……いや、お金を払う」
クラウン様は、内側のポケットからお金を出そうとした。
「い、いえっ。……お礼、なので」
お礼は、自分が作ったものを渡すくらいしかない。
「そうか。お金を払うべきだけど……。ありがたくもらう」
受け取ってもらえた。
「では。隣の後輩騎士たちの、手伝いをしてくる」
「はい……。ありがとう、御座いました」
組み立てが終わったのでクラウン様は他の手伝いに行ってしまった。
見回りをして盗難等に気をつけているけれど、まだ高価な物は置かないように、と出店をする者達へ説明の紙に注意書きがあった。
小物は当日に持ってきて、準備をしようと思う。
「やだあ~! クラウン様ったら!」
「ふふふふ!」
隣の出店から、楽しそうな声が聞こえてきた。ジルさんの声のようだ。
行商人さん達と同じようにクラウン様は、ほんの数年の顔なじみの人。
騎士団の人達とは、それ以上の親しい仲間なのだろう。うらやましく思ってしまった。
「いけない……」
止まっていた手を動かした。
お客様が、占う側へ入って来られないように分けなければならない。
たまに占いの結果に納得されないお客様がいて、近づこうとする者もいた。
この辺は気をつけなければならない。
トラブルにならないように相手をよく観察して、結果を伝える。
嘘は言わない。
ただ悪い結果ならば多少回避するように助言をする。それでも納得しなければ仕方がない。
私は占いを見ることが出来る。
良い結果、悪い結果も。それは避けられないものと、多少避けられるものもある。その人へ、最善な道筋を伝えるのが私の仕事だ。
黒っぽい赤のビロードの布と、オーガンジーの透ける布を幾重にも重ねた。
【ライザ様の魔女占い】の場を作り出した。
当日はロウソクの灯り。雰囲気を出せるだろう。
「よし……」
とりあえず今日は、出店の準備を終えた。街の様子を見ながら帰ろう。
出入り口から入ってすぐに、お客様用の椅子を置いた。
お客様用の椅子の前へ、横に設置した長机。それに布を敷いてその上で占う。
対面に魔女ライザ様。
ライザ様の背中側に、厚めの布で隠して区切る。布で区切れば着替えたり、道具を置いたりできる空間を作れる。小さい【ライザ様の魔女占い ネムノキ】になった。
看板は驚かせないように、当日に飾ろう。
出入り口の厚い布をくぐって外に出る。
横を見ると、隣の騎士団の出店も骨組みと外見が出来ているようだった。
帰ろうとしたら、騎士のルルさんがちょうど出店から出てきた。
「あら? リサさん! 終わったの?」
ルルさんは笑顔で私に話しかけてくれた。
「はい……。これから、街の中を……。見て帰り、ます」
ペコリと頭を下げて、フードを深く被って歩いて行こうとした。
「あ! 待って。私も街へ行こうとしたの。嫌じゃなかったら、一緒に行かない?」
ここは街の中心部より離れている。色々なお店が並んでいて、ちょっとだけ見て帰ろうとした。ルルさんは私を睨んだりしてない。良いのだろうか?
「え……? わ、私と? 一緒に、行って……下さるのですか?」
「ええ! もちろん!」
ルルさんは笑顔で誘ってくれた。
魔女が忌み嫌われているのを、知らないのだろうか?
私は手をギュッと握って、ルルさんへ返事をしようとした。




